「ね。」
ミサトが言う。
ミサトを見た。
ミサトが、ほんの少し俯いて、上目遣いに私達を見ている。
「何？」
「第３新東京市が見渡せるパーキングエリアがあったじゃない。」
「ああ。あそこね。」
「あそこ、行かない？」
「．．．」
視線をミサトからシンジに移した。
シンジが私を見ている。
「あの．．．今から出れば、暗くなるまでには帰って来れると思うから．．．」
ミサトが言う。
「そう．．．」
シンジを見ていた。
「ハイキングにいるようなものを持っていけば大丈夫かな。」
シンジが言う。
「道路、壊れてるかもしれないわよ。」
「そしたら、引き返して、公園に行けばいいよ。」
「．．．そうね。」
ミサトを見た。
「じゃ、行こうか。」
「うん。」
ミサトが微笑んだ。

「何がいるかな。」
器とフォークを流しに置きながら言った。
「水とおやつと、あと、軽い夕飯もあったほうがいいかもね。」
シンジが言う。
「遅くなったときのため？」
シンジを見た。
「うん。」
皿を洗いながらシンジが言う。
「懐中電灯とか、外で寝ても大丈夫な上着とか？」
「ハイキングで雨具っていうのだよね。」
「そっか。ナップザックとかも？」
「そうだね。」
「じゃ、雨具とかナップザックを用意するから、食べ物用意してくれる？」
「了解。」
「じゃ、ミサトと探してくるね。」
「うん。」

食堂を出ると、ミサトが待っていた。
「お待たせ。」
「ううん。」
ミサトが微笑む。
「雨具とか、ナップザックとか探そう。」
「うん。」
「衣料庫かな。」
「多分。」
「そう。」
衣料庫の方に歩き出した。

「なんだか、遠足みたいね。」
ナップザックと雨具を取出しながら、ミサトに言った。
「遠足か。」
ミサトが、少し遠くを見るようにした。
「ミサトは、遠足って行ったことあるの？」
「セカンドインパクトの前にね。電車で郊外の山とか丘陵とか。」
「そう。」
「アスカは？」
「ないと思う。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「なんか、それどころじゃなかったから。」
雨具とナップザックを抱えて、歩き出した。
「．．．」
「エヴァのパイロットじゃなくちゃいけなかったから。」
「そう。」
沈黙が流れた。

『エヴァのパイロットじゃなくちゃいけなかったから。』
頭の中で繰り返した。
なんで、そんな風に思ってたんだろう。
ママに見て欲しかったから？
エヴァのパイロットになったときに、ママは死んじゃったのに。
ママにとりつかれてたのかな．．．

ママ．．．エヴァの中にいたし。

！

ママも。エヴァにとりつかれてたんだ。

「アスカ？」
ミサトの声がした。
「え？」
ミサトの方を見る。
「急に立ち止まってどうしたの？」
ミサトが、不思議そうな顔をして、私を見ていた。
ミサトから、視線を外して、顔を前に向けた。
「．．．うん。ちょっと考え事してたの。ごめん。」
「そう。」
ミサトの声がした。
沈黙が流れた。

衣料庫を出て、食堂に歩いていく。
「ね、ミサト。」
なんとなく、口に出してみた。
「何？」
ミサトが答える。
「私達、エヴァにとりつかれてたのかな。」
ミサトが、足を止める。
「．．．」
ミサトを見た。
ミサトが、目を見開いて、床に視線を落としていた。
ミサトを見ていた。
沈黙が流れた。

ミサトが、私を見る。
「多分ね。」
ミサトが作ったような笑顔で微笑む。
「そう。」
ミサトから視線をそらし、呟いた。
「．．．」
沈黙が流れた。

「私は、今も、そうかもしれない。」
ミサトが小さく呟く。
ミサトを見た。
ミサトが、目を細めて、微笑んでいるような、泣いているような不思議な顔をしていた。

食堂に入ると、シンジが調理場から出てきた。
「シンジ。」
シンジが私達に近づいてくる。
「はい、雨具とナップザック。」
「ありがとう。」
シンジが、雨具とナップザックを受け取る。
「じゃ、おやつと夕飯、探してくるから。」
シンジが微笑む。
「うん。じゃ、私達、着替えてくるね。」
「うん。」
シンジが、食堂から出ていった。

「行こう。」
ミサトを見た。
「うん。」
ミサトが頷いた。

「スカートじゃない方がいいかな。」
ミサトに言った。
「けど、道路壊れてたら、戻ってくるんでしょう？」
ミサトが言う。
「それもそうね。」
服を眺めた。
お気に入りの服が汚れるのも嫌だし．．．
「制服でいいや。」
そう呟いて、ジョギパンを下ろした。
『制服でいいや。』か．．．
なんだか、レイみたいね．．．
そう思いながら、タンクトップを脱いだ。

調理場で、水筒に水を入れて、ナップザックに入れた。
ナップザックの中には他に、雨具とサバイバルキット、そして拳銃を入れた。

しばらくして、シンジが、制服姿で、ナップザックを持って、食堂に入って来た。
「お待たせ。」
シンジが私達の前に立つ。
「じゃ、これ。」
紙袋を私達に渡す。
「「ありがと。」」
「どういたしまして。」
「水筒、水入れた？」
「ちょっと待っててくれる？」
「うん。」
シンジが、ナップザックを持って、調理場に入っていった。
「夕飯、何かな？」
ミサトを見た。
「開けてみれば？」
ミサトが言う。
「みよっか。」
「うん。」
ミサトが微笑む。

紙袋の口を開いて、覗き込むと、チョコレートとビスケット、それに、ピラフのパックが入っていた。
「水、足りるかな？」
ミサトを見た。
「私、水筒、２つ持っていこうか？」
ミサトが言う。
「シンジに聞いてみよう？」
「そうね。」

少しして、シンジが、調理場から出てきた。
「ね、水筒、２つ持っていこうか？」
ミサトが聞く。
「あ、いいですか？
  実は、鍋と食器があるんで、ちょっと重いんですよね。」
シンジが、ナップザックから水筒を出しながら言う。

「鍋、私が持とうか。」
水筒を渡しているシンジに聞いてみた。
「あ、じゃあ、アスカは、これ持ってくれる？」
シンジが、ナップザックから紙袋を出して私に渡す。
「了解。」
紙袋をナップザックに入れた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:26 完

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