トイレに行って、広間に戻った。
布団に横になり、ミサトを見ていた。

うつらうつらしていた。
ミサトの動く気配がした。
ミサトが、私を見ている気がした。

しばらくして、首を締められる感じがした。
目をあけると、ミサトが、私を見ていた。
ミサトの目が据わっていた。
『死ぬかな。』
そう思った。
ミサトを見ていた。
『！』
ふと、思いついた。

右手を伸ばして、ミサトの頬に触れた。
ミサトが目を見開き、そして、細める。
ミサトの目に涙が浮かんだ。
私の頬に涙が落ちる。
ミサトの手が緩んだ。
ミサトが嗚咽を漏らしていた。

しばらくして、ミサトが泣き止む。
私は、布団に横になったまま、目を閉じていた。

足音がして、私の脇で止まる。
少しの間、立ち止まって、そして、屈みこむ気配がした。
「アスカ．．．アスカ．．．」
肩を揺らされた。
目を開けると、シンジが、私を見ていた。
「昼ご飯、できたけど。」
「うん。」
「．．．」
シンジが私を見つめる。
「どうしたの？」
シンジが、私の耳に口を寄せる。
「何かあったの？」
シンジが私を見る。
静かに首を振った。
「そう．．．」
シンジが私を見つめる。
「食堂で、待ってるから。」
「うん。」
シンジに微笑む。
シンジが微笑んだ。
シンジが立ちあがり、広間を出ていった。

起きあがって、ミサトを見る。
ミサトが、体を起こして、布団を見ていた。
「ミサト．．．」
ミサトを見て、呟いた。
無言のままだった。
「お昼だって．．．」
ミサトが、私を見る。
少しおびえるような表情をして、ミサトが私を見ていた。
「食べない？」
ミサトに聞いた。
「食べる．．．」
ミサトが、顔を戻し、そう呟いた。
沈黙が流れた。

「行こう。」
立ちあがって、ミサトに言った。
「うん。」
ミサトが、俯いたまま立ちあがる。
沈黙が流れた。

「さ、行こう。」
ミサトの手を取った。
ミサトが、ビクッと体を震わせ、怯えるような表情で、私を見た。
「どうしたの？」
ミサトを見た。
「．．．平気なんだ。」
ミサトが呟く。
「．．．殺されそうになったこと？」
軽く呟いた。
ミサトが小さく体を震わせ、そして、頷いた。
ミサトに微笑む。
ミサトが、後ずさりした。
「私、量産機に殺されたから。」
「．．．」
「あそこでも、レイに殺されたし。」
「．．．」
「それに、あそこから帰ってきて、いきなり、シンジに首締められて、殺されそうになったし。」
「．．．」
「そして、また、殺されそうになった。」
顔が笑うのが分かった。
ミサトが、目を見開いて、笑うような表情をする。
ミサトが、へなへなと座りこんだ。
沈黙が流れた。

「お昼、食べないの？」
ミサトを見て、呟いた。
「私、死ぬの？」
ミサトが呟く。
「なぜ？」
ミサトが、私を見上げる。
「殺さないの？」
「なぜ？」
ミサトが俯く。
「また、殺そうとするかもしれない．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。

「気が向いたら．．．」
ミサトを見ながら、呟いた。
ミサトが、私を見る。
「気が向いたら．．．」
ミサトが人形のように繰り返す。
「そう。気が向いたら。」
ミサトに微笑んだ。
「人の命って、そんなものかしら。」
ミサトが言う。
「ミサトは、何故、私の首を締めたの？」
ミサトに問う。
「．．．」
ミサトが俯く。
沈黙が流れた。

ミサトが顔を上げた。
「寝顔を見ていて、むかむかしたから。私がこんなに苦しんでるのに。幸せそうな顔をして。許せなくなったから。」
ミサトが俯く。
「気が向いたから．．．だわ。確かに。」
ミサトが呟く。
「なら、それで、いいじゃない。」
「．．．」
「仕方ないわ。」
「．．．」
「他に人、いないんだもの。それで、人類が滅亡しても。」
「．．．」
「仕方ないわ。」
沈黙が流れた。

ミサトが、顔を上げた。
「お昼、食べようか。」
そう言って、ミサトが微笑む。
「うん。」
ミサトに微笑んだ。
 

食堂に入ると、シンジが立ちあがった。
「ちょっと待ってて。」
シンジが調理場に入っていった。
「ごめんね、待たしちゃって。」
シンジに声をかけた。
「ううん。大丈夫だよ。」
調理場からシンジの声がした。

「お待たせ。」
シンジが、焼きそばを盛った皿と箸を、私達の前に置く。
「焼きそばかあ。久しぶりね。」
そう言って、シンジを見上げた。
「ここだと、初めてだよね。前は、いつだったかな．．．」
シンジが、視線を左上にして、考えている。
「ま、いいわ。けど、これ、暖めなおしてくれたの？」
シンジが、私を見る。
「うん。そう。」
シンジが微笑む。
「ありがと。」
シンジに微笑んだ。
「食べようか。」
シンジが腰を下ろす。
「うん。」
「いただきます。」
「「いただきます。」」
シンジが、焼きそばに箸をつけた。

「「「ごちそうさまでした。」」」
シンジが、皿と箸をまとめて、立ちあがる。
「デザート、何がいい？」
シンジが私を見る。
「え？あ、何でもいいよ。」
「了解。」
「ごめん。」
シンジが、調理場に入っていく。

「はい。」
シンジが、器を私達の前と、シンジの前に置く。
みかんの缶詰をあけたものだった。
「ありがと、シンジ。」
「どういたしまして。」
シンジが微笑む。
器からスプーンを取りあげ、みかんを口に入れる。
「おいしいね。」
シンジに微笑んだ。
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