「ミサト。」
泣き止んで体を丸めているミサトに話しかけた。
「．．．」
反応がなかった。
「風邪ひくわ。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「ミサト。」
ミサトに近づいて、肩に触れた。
「触んないでよ。」
ミサトが体を縮みこませる。
手を離した。
「アスカには分かんないわ。」
「．．．」
「アスカは子供だから。」
「．．．」
沈黙が流れた。

銃を拾って、椅子に腰を下ろした。
ミサトを見ていた。
 

「アスカ。」
目を開けると、ミサトが私を見ていた。
「ミサト。」
「風邪引くわよ。」
ミサトが微笑む。
「そうね。」
ミサトに微笑んだ。
椅子から立ちあがって、ミサトの後から部屋を出る。
広間に戻って、布団に入った。
「おやすみ。」
天井を見て言った。
「おやすみ。」
ミサトの声がした。
 

「ミサト？」
ミサトの肩を揺らした。
「ん．．．」
ミサトが寝返りを打つ。
眠れなかったんだ。
立ちあがって、広間を出た。

食堂に入ると、シンジが椅子にかけていた。
「おはよう。」
シンジに声をかける。
「おはよう。」
シンジが私を見た。
「ミサトさんは？」
「うん．．．ちょっとね。」
シンジの隣りの椅子に腰を下ろした。
シンジが、私を見ている。
少しテーブルを見ていた。
「どうしたの？」
シンジが言う。
「今朝、３時ごろ目がさめたの。」
テーブルを見たまま口を開いた。
「．．．」
「そしたら、ミサトの布団が空になってて。もしかしたらと思って制御室に行ったら、ミサトがマギにアクセスしてたわ。」
「そう。」
「アクセスの形跡なし。」
「．．．」
「ミサト、自殺しようとしちゃって。」
「．．．」
「とりあえず、しなかったけど、ちょっと危ないのよね。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「今日は、どうしようか。」
シンジが口を開く。
「どうしようって言っても．．．」
シンジを見て、そして、右上に視線を逸らした。
「気晴らしに、マンションにでも行こうか。」
「けど、お昼時は暑いわよ。」
「そうだね。」
「けど、それがいいかな。」
「芦ノ湖に行くのもいいかもしれない。」
「．．．それは、ちょっと怖いかな。」
「．．．そうだね。」
会話が途切れた。
「とりあえず、ご飯食べようか。」
シンジが続ける。
「そうね。けど、ミサト、眠れなかったみたいで、今、寝てるの。」
「とりあえず、もう一度起こしてみれば？」
「そうする。」
椅子から立ちあがり、シンジを見て、入り口に歩き始めた。

広間に戻ると、ミサトの布団は空だった。
廊下に出て、トイレの方に歩き出すと、ミサトがトイレから出てきた。
「おはよう。」
ミサトに声をかけた。
「おはよう。」
ミサトが、目を伏せて言う。
「大丈夫？」
ミサトに近づきながら言った。
「うん。ちょっと駄目かな．．．」
ミサトが、私を見て、そして、壁にもたれた。
私もミサトの隣りにもたれた。
沈黙が流れた。

「今日は、ここにいようか。」
床を見ながら言った。
「．．．そうね。」
ミサトが呟く。
「朝ご飯、食べる？」
「うん．．．どうしようかな。」
「しゃべるの、辛い？」
「うん．．．」
「そう．．．」
ミサトの手を握った。
沈黙が流れた。

「私、ご飯食べてくるけど、死なないでね。」
なんとなく言ってみた。
「うん。」
ミサトが呟く。
「なんか、凄く不安。」
「．．．」
「食べなくてもいいから、食堂行かない？」
「．．．」
「駄目？」
「いいよ。」
ミサトを見た。
ミサトが儚げに微笑んだ。

食堂に入ると、シンジが椅子から立ちあがった。
ミサトと椅子に座る。
 

しばらくしてシンジが、海苔と鮭の缶詰をお皿に出したもの、そしてお味噌汁を持ってきた。シンジがご飯をよそって、私の前に置いた。
「ミサトさんは．．．」
シンジがミサトを見て言う。
「．．．お味噌汁だけ。」
ミサトがテーブルに視線を落としたまま言う。
「はい。」
シンジが自分の分のご飯をよそった。
「いただきます。」
「いただきます。」
「いただきます。」
ミサトが呟いた。

食器とテーブルの出す音だけがしていた。

「ごちそうさま。」
シンジが言う。
「ごちそうさま。」
そう言って、ミサトを見た。
ミサトが俯いていた。

シンジが食器を片付けていく。
シンジを見た。
シンジが頷いた。
「ミサト。」
ミサトが私を見る。
「行こう。」
ミサトが頷いて、椅子から立ちあがった。

歯を磨いて、広間に戻った。
布団に横になって、天井を見上げる。
気分が重かった。
「アスカ。」
ミサトの声がした。
ミサトの方を見る。
横になっていて、ミサトが見えなかったので、起きあがった。
ミサトが、横になって上を見ていた。
「私、何で生きてるんだろう。」
ミサトが呟く。
「１４才の時も、今も。」
「．．．」
「皆、死んじゃったのに。」
「．．．」
「どうして．．．」
ミサトの目から涙が流れる。
ミサトが寝返りを打って、向こうを向いた。
ミサトを見ていた。

「そうね。」
やっとの思いで、それだけ言って、また、横になった。
『私、何で生きてるんだろう。』
頭の中で呟いてみた。
『苦しくなければ考えないでしょ？』
レイの言葉が浮かんだ。

嫌がらせか．．．
神様の．．．

なんとなく可笑しくなった。
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モニターのこちら側 Genesis 3:24 完

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