スリッパを履いて、廊下を歩き、ダイニングを通って、リビングへ。
「それじゃ。」
ミサトとシンジに手を振って、私の部屋に入った。
部屋を見まわした。
息を深く吸って、吐き出した。
「フフ。」
なんとなく微笑んで、そして、カーテンと窓を開けた。
「部屋着に着替えなくちゃ。」
そう言いながら、押入れを開け、収納箱を引き出す。
「そっか。」
よく着ていた、水色のタンクトップと青のジョギパンは、ここにはないんだ。
今、どこにあるんだろう。
ヒカリの家？
ネルフ本部と一緒に、どこかに消えた？
ちょっと悲しくなった。
「ま、仕方ないか。」
そう呟いて、ベッドに腰掛ける。
「何、持っていこうかな。」
部屋着と、外に着ていく服。
黄色のワンピースとか、青いブラウスとスカートとか、緑のワンピースとか．．．
「あんまり一度に持っていけないし．．．」
立ちあがって、押し入れの収納箱の中を眺めた。

とりあえず、大きめの紙袋１つにまとめた。
家で着ていたブラウスとスカート、ショートパンツ、そして、黄色のワンピースと緑のワンピース。そして．．．

窓とカーテンを閉めて、リビングに出た。
シンジがソファに座っていた。
「もう終わったの？」
シンジが私を見る。
「うん。僕は、制服以外、ほとんど着てなかったから。」
「そう。」
シンジの隣りに腰を下ろす。
「けど、ポロシャツとか着てたじゃない。」
「ああ。そうだね。」
「服装にも気を使わないと、もてないぞ。」
シンジが私を見る。
シンジが、前を見た。
「分かった。」
「そう。」
「今度、見たててよ。」
「了解。」
沈黙が流れた。

ゆるやかに風が流れていた。
窓が開け放たれている。
ベランダの外に、以前とほとんど変わらない風景。
「不思議な感じね。」
なんとなく呟いた。
「何が。」
シンジが答える。
「他に人がいないのに、ベランダの外には、前とほとんど変わらない風景があるから。」
外を眺めながら言った。
「そうだね。」
シンジが答える。
沈黙が流れた。

「シンジ、あの時の服、まだ持ってる？」
シンジに話しかけた。
「あの時の服？」
シンジの言葉が途切れる。
思わず息を詰めた。
「ユニゾンの時の服のこと？」
「そう。」
思わず微笑んだ。
「持ってるよ。」
「私、持っていくことにした。」
「そう。」
「シンジは？」
「．．．」
「持っていかないんだ。」
「持っていくよ。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「ねえ、シンジ？」
シンジに話しかけた。
「何？」
「チェロは、持っていかないの？」
「考えてもなかった。」
「持っていこうよ。」
「けど、アスカ達の服を持っていかないといけないし。」
「私は、今回は、これだけだし。」
そう言って、紙袋を指差した。
「ま、あんまり、シンジに持たせようとは思ってないから。」
そう言って、シンジに微笑んだ。
「ありがとう。アスカ。」
シンジが私を見て微笑んだ。

「お待たせ。」
ミサトが、大きな紙袋を３つ持って、部屋から出てきた。
「ミサト、また、ずいぶん多いわね。」
少し呆れながら、ミサトに言った。
「うーん。いつもの服をあるだけ出したら、結構多くなっちゃって。」
ミサトが苦笑いする。
「私達は、なんだかんだ言って、結構、制服が多かったからね。」
シンジを見た。
シンジが微笑みながら頷いた。
「ま、そういうわけなんで、シンジ君、悪いけど一つ持ってくれる？」
「分かりました。」
シンジが苦笑しながら答えた。
「チェロ、持っていけないね。」
シンジを見た。
「まあ、ここに弾きにくるのもいいかもしれないし。」
シンジの顔を見ていた。
「やっぱり、持っていけば？」
「．．．」
シンジが私を見ている。
「どうしたの？」
ミサトが、怪訝そうな顔をしている。
「シンジのチェロをどうしようかって、相談してたの。」
「ああ。じゃあ、私のは、今回は、１つにしてもいいけど。」
シンジを見た。
「ミサトも、ああ言ってるし、持っていけば？」
「うん。じゃ、そうするよ。」
シンジが微笑んだ。

玄関を出た。
ミサトが鍵を閉める。
「じゃ、行きましょう？」
三人で歩きだした。

「先に行っていいよ。」
シンジが、チェロのバッグを下ろして、休んでいる。
「そういうわけには行かないでしょ？」
シンジに傘をさし掛けた。
「ありがとう。アスカ。」
「どういたしまして。」
ミサトが、傘をさして私達を見ていた。

学校の前の坂道を上がっていた。
シンジが、息を荒げている。
「大丈夫？」
シンジに話しかけた。
「う、うん。」
「休んだほうがいいんじゃない？」
「大丈夫だから。」
シンジが、道路に視線を落としたまま言った。

「ふーーー。」
シンジが、チェロのバッグを床に置き、息を吐き出した。
「お疲れ様。」
シンジが私を見る。
「ありがとう。」
シンジが微笑んだ。
シンジから目を逸らして、床に視線を落とした。
「ごめんね。私が言ったばっかりに。」
沈黙が流れた。

「アスカのせいじゃないよ。僕が持ってくることに決めたんだから。」
シンジが言う。
「そう。」
小さく呟いた。
「シャワー浴びるから。」
シンジが言う。
「お昼、よかったら待っててくれる？」
シンジを見た。
「うん。」
シンジに微笑んだ。

私達もシャワーを浴びて、おにぎりを持って食堂に行った。
椅子にかけていたシンジが立ちあがり、調理場に入っていった。
しばらくして、シンジが、お味噌汁を持ってきた。
御椀を私達の前に置いていく。
シンジが、椅子にかけた。
「食べましょう？」
シンジに言う。
シンジが微笑む。
「「「いただきます。」」」
おにぎりの包みを開いた。

「何か、食べたいものある？」
シンジが言う。
「何か甘いもの。」
シンジに答えた。
「了解。」
シンジが微笑む。

おにぎりを食べ終わり、お味噌汁を飲んでいると、シンジが立ちあがり、調理場に入っていった。
少しして、シンジが、器を持って来た。
パインの輪切りだった。
「おいしそうね。」
そう言ってシンジを見た。
「そうだね。」
シンジが、器とフォークを私の前に置く。
ミサトと自分の前にも置いた。
フォークを取り、一口大に切って口に入れた。
「おいしい。」
シンジに微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 3:21 完 

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