衣料庫のマップを見ると、懐中電灯の目星はついたが、鍵を開ける道具は、見当たらなかった。
二人で懐中電灯のあるあたりに歩いていく。
「鍵は、武器庫かな。」
ミサトに言う。
「そうかも。けど、無いかもね。」
ミサトが、いつもの調子で言う。
「そう？」
「鍵開けるのって、そういう商売の人がいるじゃない？」
「ああ。そう言えばそうね。」
「技術がいるんじゃないかな。」
「そうかも。」
沈黙が流れた。

「加持とか、得意だったかもね。」
ミサトが、突然呟く。
「．．．」
ミサトを見た。
前を見ていたミサトが私を見る。
「私は、そういうの駄目なんだ。最後は、銃で壊しちゃえばいいって思っちゃって。」
微笑みながらミサトが言う。
「．．．」
前を見た。
沈黙が流れた。

棚から懐中電灯を取る。
スイッチを入れてみた。
「大丈夫みたいね。さすがに、ちゃんと管理してあるみたい。」
懐中電灯の光を見て、微笑みながら言った。
「替えの電池は．．．」
ミサトが周囲を探している。
下の棚にあった。
「これ？」
ミサトが私に電池を差し出す。
懐中電灯を眺めて、電池を取り出した。
「そうみたい。２つ。」
「一人、２セットでいいよね。」
「多分。」
ミサトが電池を取り、私に渡す。
「ダンケ。」
懐中電灯と電池をバッグに入れた。
ミサトも、懐中電灯２つと、電池をバッグに入れた。
「行こう。」
ミサトに言う。
「うん。」
ミサトが微笑んだ。

「ミサト、加持さんには会わなかったの？」
衣料庫の出口に歩きながら、言った。
「会ったわよ。」
ミサトが言う。
「そう。」
「というか、会ったのかな。」
「．．．」
「夢みたいだったし。」
「．．．」
「アスカやシンジ君にも会ったよ。」
「そう。」
「アスカは、私に会った？」
「ううん。会わない。」
「そっか。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「やっぱり、夢だったんじゃないかな。」
ミサトが口を開く。
「．．．」
「確かに、私達は、死んで、生き返ったけど。」
「．．．」
「まあ、分からないけど。」
「．．．」
沈黙が流れた。

衣料庫を出た。
「一応、武器庫、見てみようか。」
ミサトが言う。
「そうね。」
武器庫の入り口に歩いていき、鍵を開ける。
マップを見てみるが、それらしきものがない。
「工具類．．．かなあ。」
ミサトが、自信なさげに呟く。
「一応、見ておきますか。」
二人で歩き出した。

工具類の棚を眺めると、工具箱が並んでいた。
開けてみると、武器の保守に使う工具が入っていた。
「重いし、ちょっち違うみたいね。」
苦笑しながら、ミサトが言う。
「そうね。」
苦笑しながら、ミサトを見た。
「サバイバルキットで駄目なら、あとは、銃ってことで。」
ミサトが微笑む。
「まあ、我慢するっていうのも無くはないし。」
工具箱に目を戻しながら言った。
「なんだか、アスカとは思えない発言ね。」
ミサトが言う。
ミサトを見た。
「．．．そうね。」
「．．．」
ミサトが私を見ている。
「何言ってんだろう。私。」
「大丈夫？」
ミサトが心配そうな顔をして言う。
「え？」
「．．．」
「うん。多分。」
「．．．」
沈黙が流れた。

ミサトが、工具箱の蓋を閉めて、棚に置いた。
「行こうか。」
ミサトが微笑む。
「うん。」
ミサトと武器庫の入り口に歩き出した。

食堂に入ると、水筒とおにぎりの包みを置いたテーブルの椅子に、シンジが掛けていた。
シンジが私達を見る。
「見つかった？」
「懐中電灯はね。」
シンジに答えた。
「そう。」
「サバイバルキット、持ってるわよね？」
「うん。」
ミサトが懐中電灯と電池を取り出し、シンジに差し出す。
「シンジ君、これ。」
「あ、ありがとう。」
シンジが、懐中電灯と電池を受けとって、鞄に入れる。
シンジがテーブルを見ながら口を開く。
「おにぎりは、４つずつ包んだけど、残ったら、渡してくれれば、夜、適当に使うから。」
「了解。」
そう言いながら、おにぎりの包みと水筒をバッグに入れた。
「いい？」
シンジが私達を見る。
「ええ。」
ミサトが頷いた。
３人で、食堂を出た。

校舎を出ると、熱い空気の感触が体を包んだ。
「暑くなりそうね。」
思わず、呟いた。

坂を降り、街中を歩く。あいかわらず、人がいない。
「人、戻ってこないのかな。」
誰にともなく言った。
「皆、疎開してたし。」
ミサトが言う。
「芦ノ湖には、戻ってきてるかもしれないよ。」
シンジが言う。
「けど、戦自も戻ってきてるかも。」
ミサトが言う。
「もし、そうだったら、迂闊に行けないわね。」
ミサトに言った。
「そうね。ただ、この辺りは、しばらく放棄されると思う。旧東京が、そうだったように。だから、向こうから、迎えに来なければ、このままずっと居られるわよ。」
ミサトが言う。
「けど、そうだとしたら、しばらく、家にいるっていう作戦もあるかもしれないわね。」
「．．．」
ミサトを見た。
「そうね。いいかもしれない。」
ミサトが呟いた。
沈黙が流れた。

しばらく歩くと、コンフォート１７マンションに着いた。
「とりあえず、入り口のドアを開けないとね。」
そう言いながら、ミサトがドアを調べ始める。
ミサトが、サバイバルキットを、ドアの鍵穴に挿しこみ、鍵を開け始めた。
１ヶ所、２ヶ所、３ヶ所。全部で４ヶ所の鍵を開けた後、おもむろにドアをずらし始める。ドアが少しずつ開いていった。
「これで、いいかな？」
片側のドアを開けきったところで、ミサトが私達を見る。
「ＯＫ。」
手で、ＯＫサインを出しながら、ミサトに微笑む。
「じゃ、入って。」
中に入ると、ミサトがドアを閉めようとする。
「あ、僕がやりますから。」
シンジが言う。
「悪いわね。シンジ君。」
「いえ。かなり大変そうだったから。」
シンジがドアを閉めた。

「次は非常階段だけど．．．」
非常階段と書かれたドアのノブを、ミサトが回すと、ドアは簡単に開いた。
「これは、登るだけね。それだけでも大変だけど。」
ミサトが私達を見て、苦笑する。

私達の部屋のドアの前に着いた。
「このドアは、どうするの？」
ミサトに聞いた。
「このドアは、私達の持ってる鍵で開くはずだけど。」
そう言って、ミサトが鍵をドアの脇の鍵穴に入れて回す。
当然、自動では開かない。
ミサトがドアに手をかけ、動かすと、ドアが開いた。
「入りましょう？」
ミサトが微笑んだ。
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