「あいかわらず、殺風景な部屋ね。」 
部屋の中を見て、アスカが言う。 
「ええ．．．」 
ベッドに腰を下ろしながら、レイが呟く。 
アスカが、その脇に腰を下ろす。 
沈黙が流れた。 

「どうせなら、ヒカリの家の方がよかったんじゃないの？ 
  皆、いないみたいだし。」 
アスカが口を開く。 
「一応、人の家だから．．．」 
レイが壁を見ながら答える。 
「まあ、そうなんだけど．．．」 
アスカも壁を見ながら答えた。 
沈黙が流れた。 

レイがベッドに横になる。 
「何か、聞きたいことある？」 
アスカもベッドに横になる。 
「別に．．．」 
「そう．．．」 
沈黙が流れた。 

「あんた、リリスなんでしょ？」 
アスカが口を開く。 
「ええ。」 
レイが天井を見ながら答える。 
「じゃあ、あんたが私達を生み出したことになるわけ？」 
アスカが天井を見ながら問う。 
「．．．そういうことになるわね。」 
「ふーん。」 
沈黙が流れた。 

「なんで、そんなことしたわけ？」 
アスカが問う。 
「．．．生まれたくなかった？」 
レイが問う。 
「．．．」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「私一人にできることは、あまりないわ。」 
レイが呟く。 
「．．．」 
「巨大な私は、巨大なものを形作ることや、壊すことができる。」 
「．．．」 
「人の形をした私は、人としてできることしかできないわ。」 
「．．．」 
「けれど、たくさんの人がいると、大きくて精巧な建物ができたり、街ができたり、芸術ができたりするわ。」 
「．．．」 
「そういう、知恵の結集された美しいものが、私は見たかったの。」 
「．．．」 
「その裏付けとなる、創造的な精神が見たかったの。」 
「．．．」 
「精神の方は、あまり創造的な方向に伸びなかったようだけど。」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「使徒って？」 
アスカが呟く。 
「生きる力の結集されたものよ。」 
レイが呟く。 
「．．．」 
「破壊的な精神を持つ者を破壊するための者。」 
「！」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「何で、こんなに苦しいのかな？」 
アスカが呟く。 
「苦しくなければ、考えないでしょ？」 
「！」 
「苦しくなければ、調べないでしょ？」 
「！」 
「苦しくなければ、動かないでしょ？」 
「！」 
「．．．」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「皆、思惑どおりって訳．．．」 
アスカが呟く。 
「．．．」 
「楽しい？」 
アスカが、レイを見た。 
レイが天井を見ている。 
「自分のプログラムしたように、自分の生み出した人間が苦しむのは楽しい？」 
アスカが声を荒げる。 
レイが天井を見ている。 
「何とか言いなさいよ！」 
アスカが起き上がり、レイを見る。 
レイが天井を見ている。 
「何か言ってみなさいよ！」 
アスカがレイの首に手をかける。 
「もしかして、人が苦しんでるのを見て、心の中で笑ってんじゃないの？！」 
アスカがレイの首にかけた手に力を入れる。 
「ふざけんじゃないわよ。」 
レイがアスカを見た。 
レイが微笑む。 
『破壊的な人．．．』 
アスカの頭の中で、レイの声がした。 
「え？」 
レイの首を締めていたアスカの手が、レイの首に吸い込まれはじめた。 
「ひっ！」 
アスカが手を引きぬこうとする。 
「苦しいわ。」 
「な？！」 
「そして、悲しい。」 
アスカの肘までが、レイの首に吸い込まれた。 
「止めてよ、レイ！」 
泣きながら、アスカが言う。 
「寂しい。」 
アスカの腕が、ほとんどレイに吸い込まれた。 
「私が悪かったから！助けて！」 
アスカの頭が、レイに吸い込まれた。 
「人が殺しあったりするのを見ると、何故、こんなことをしたのかと思うわ。 
  そう思うことの方が多いかもしれない。」 
アスカの全身が、レイに吸い込まれた。 
一人、ベッドに横たわるレイ。 
「苦しかったのね．．．アスカ．．．」 
レイが天井を見ている。 
「ごめんね。」 
レイが姿を消した。 
 
 

『私、どうしたんだろう．．． 
  ！ 
  そう．．．レイに吸い込まれた。 
  そう．．． 
  結局、殺されたんだ．．．』 

何もない空間。 

『ま、殺そうとしたんだから、仕方ないか．．． 
  破壊的な人．．． 
  ごめんね．．．か．．．』 

空間に何かが現れ始める。 

『？』 

暗い空間に浮かぶ初号機。 

「心配ないわよ。すべての生命には復元しようとする力がある。 
  生きて行こうとする心がある。生きていこうとさえ思えば．．． 
  どこだって天国になるわ。だって生きているんですもの。 

  幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ。 
  太陽と月と地球がある限り大丈夫．．．」 

シンジの頬に触れるユイ。 
「もういいのね。」 
「幸せがどこにあるのか．．．まだわからない。」 
ユイから離れ、地球に引き寄せられていくシンジ。 
「だけど．．．ここにいて、生まれてきてどうだったのかは、これからも考え続ける。 
  だけど、それも当たり前の事に何度も気付くだけなんだ。 
  自分が自分でいるために。」 
ＬＣＬの海から浮かび上がるシンジ。 
「．．．でも、母さんは．．．母さんはどうするの？」 

『あれが、シンジのママ．．．』 

芦ノ湖湖畔。昼。 

「ヒトが神に似せてエヴァを作る．．．これが真の目的かね。」 
若かりし日の冬月が言う。 
幼いシンジを抱くユイ。シンジがユイの頬を軽く叩く。 
「はい。ヒトはこの星でしか生きられません。 
  でも、エヴァは無限に生きていられます。その中に宿る、ヒトの心と共に。 
  例え、５０億年たって、この地球も月も太陽すらなくしても残りますわ。 
  たった一人でも生きて行けたら．．． 
  とてもサビしいけど生きていけるなら．．．」 
「人の生きた証は、永遠に残るか．．．」 

銀河へと流れていく初号機。 

「．．．さよなら．．．母さん。」 
 
 

！ 

苦しい．．． 
首が．．． 
目を開けた。 
シンジが私の首を締めている。 
このままじゃ．．． 

！ 

レイに吸い込まれた後に見た光景が蘇る。 
まさか．．． 

右手でシンジの頬に触れた。 
私を見るシンジ。 
私の頬にシンジの涙が落ちる。 
シンジの手が緩む。 
シンジが俯いた。 
シンジの頬から、ゆっくりと手を離す。 

マザコン男．．． 

シンジを見た。 

「気持ち悪い．．．」 

私も同じか．．． 
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モニターのこちら側 Genesis 3:2 完 

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