「つまんない男。」
思わず口に出した。
「ごめん。服でも取りに行くの？」
シンジが言う。
「ミサトが、ドアの開け方知ってるみたいだから、そうしようと思って。」
「そう。」
シンジが、スパゲティーをフォークに絡めている。
沈黙が流れた。

「シンジ？」
ちょっと声を荒げた。
「一度に、たくさん持ち出せないから、ちょっと大変かな。」
シンジが、視線を落したまま言う。
「．．．」
シンジを見た。
「とりあえず、３往復位する？」
シンジが私を見る。
「そうね。」
シンジに微笑んだ。

「「「ごちそうさまでした。」」」
シンジが、食器を片付けていく。
私も、食器をまとめて立ちあがった。
シンジの後から調理場に入っていく。
「そこに置いておいてくれれば、いいよ。」
シンジが、スポンジに洗剤をかけている。
「それでいい？」
「うん。」
「ありがと。」
「どういたしまして。」
シンジが微笑みながら、カップを洗い始めていた。

食堂の入り口にミサトが待っていた。
「お待たせ。」
ミサトを見た。
「ううん。勝手に待ってただけだから。」
ほんの少し視線を落として、ミサトが言う。
「ふふ。行こう。」
「うん。」
ミサトが私に微笑んだ。

広間に戻って、布団に横になっていた。
「明日どうしようか。」
天井を見ながら、ミサトに言った。
「２時ごろは、ここにいた方がいいと思うけど。」
ミサトが言う。
「ああ。そうね。運ぶのもそうだけど、マンションにいるだけで、汗出てきそう。」
「ふふふ。」
ミサトが小さく笑う。
「じゃあ、午前中と、夕方の２回かな。」
「開けるのに手間取らなければ午前中２回行けるかもしれないけど。」
「帰ってくるときは、一応、締めないといけないし。」
「うん。」
「２回かな。」
「そうね。」
沈黙が流れた。

「ふふふ。なんか楽しみ。」
服を選んでいるのを想像して、呟いた。
「久しぶりだもんね。」
ミサトが、呟く。
「そっか。あの時以来なんだ。」
「うん。」
「そっか．．．」
あのころのことを思い出す。
何か懐かしいような不思議な感じがした。
「ね、ミサト。」
「何？」
天井を見ていた。
沈黙が流れた。

「ね。私のこと抱きしめてくれない？」
「．．．」
ミサトが起きあがる気配がした。
ミサトが私の顔を見る。
「どうしたの？」
「なんとなく。」
「そう。」
ミサトが私に覆い被さるようにして、首と背中に手を回す。
「なんだか、いい気分。」
ミサトに呟いた。
「そう。」
「少し、このままでいてくれる？」
「いいよ。」
「ありがと。」
ミサトの背中に手を回して、目を閉じた。
 

ふと目が醒めた。
目の前に、ミサトの顔。
時計は、３時を指していた。
ミサトを見ていた。
「マ．．．マ．．．」
ミサトの唇が動く。

ママ．．．か．．．
３人ともマザコンなのね。
うまく行かなかったはずだわ．．．

しばらくミサトの髪を撫ぜていた。
 

目が醒めた。
目の前にミサトの顔。
時計を見る。６時半。起きる時間。
ミサトを見る。
ミサトの肩を揺らした。
「ミサト。」
「．．．」
「ミサト。」
「．．．ん。」
ミサトが目を開ける。
ミサトが私を見た。
「ママ。」
「朝よ。」
「うん。」
ミサトが目を擦りながら、起きあがる。
ミサトの髪を手櫛で軽く梳くようにする。
ミサトが私を見る。
「夢を見たの。」
ミサトが言う。
「どんな？」
ミサトの髪を梳きながら言った。
「ママに頭を撫でられている夢。」
「そう。」
「アスカ？」
「何？」
ミサトが私の肩に額を乗せる。
「抱きしめてくれる？」
「いいよ。」
ミサトの背中に手を回した。
「あったかいね。」
「何が？」
「アスカの手。」
「そう。」
沈黙が流れた。
 

「ありがと。ママ。」
ミサトから手を離した。
ミサトが体を起こす。
「変かな。私。」
ミサトが、軽く俯いて言う。
「変じゃないよ。」
ミサトが私を見る。
「ありがと。」
ミサトが微笑んだ。

トイレに行き、顔を洗って、タオルを置き、食堂に行く。
食堂に入ると、テーブルに、おにぎりが置かれていた。
「おはよう。」
調理場からシンジが言う。
「「おはよう。」」
ミサトと言った。

椅子に座っていると、シンジが、お味噌汁の御椀を私達の前に置いた。
「お待たせ。」
シンジが椅子に腰を下ろしながら言う。
「ううん。」
シンジに言った。
「食べよう。」
「うん。」
「「「いただきます。」」」
シンジがお味噌汁に口をつけた。

「午前中１回と午後１回で、お昼は、ここで食べるのがいいと思うんだけど。」
おにぎりを食べ終えて、お味噌汁を飲みながら、言った。
「なるほど。確かに、冷房が入ってないと、あそこは、暑そうだね。」
シンジも、御椀を持ちながら言う。
「うん。ミサトと話したんだけど、鍵の開け閉めも、大変かもしれないし。」
「そうだね。」
沈黙が流れた。

シンジが御椀と箸を洗っている。
「何、持っていこうか。」
シンジを見ながら言う。
「懐中電灯はいるよね。」
シンジが答える。
「うん。あとは、水筒と、傘と、サバイバルキット？」
「鍵を開けるための特別な道具があるようなら、持っていったほうがいいかも。」
ミサトが言う。
「あと、拳銃？」
ミサトを見た。
「いらないと思うけど、一応ね。」
ミサトが苦笑した。
「服を入れる袋とか鞄は、いらないの？」
シンジが言う。
「あー、そうね。あるかな？」
ミサトを見た。
「車の付いたスーツケースとか持ってる？」
ミサトが言う。
「あ、多分あると思う。」
「それがあれば、いいんじゃないかな。」
「そうね。」
ミサトと微笑んだ。
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