「ミサトが、うじうじ考えてるのが、むかついたのよ。」
少し語気が荒くなったかもしれない。
「そう．．．」
ミサトが呟く。
「ごめん。」
ミサトが呟いた。

「ミサトやバカシンジの使ったお湯なんかに誰が入るもんか。
  ミサトやバカシンジの下着を洗った洗濯機なんか、誰が使うもんか。
  ミサトやバカシンジの使ったトイレなんかに誰が座るもんか。
  ミサトやバカシンジと同じ空気なんか誰が吸うもんか。」
一息に呟いた。
沈黙が流れた。
「憶えてる？」
ミサトに聞いた。
「ええ。」
ミサトが呟く。
「ミサトもイヤ。シンジもイヤ。ファーストはもっとイヤ。
  パパもイヤ。ママもイヤ。でも自分が一番イヤ。
  もぉおイヤ！！がまんできないっ！！
  何でこの私が！！私がぁっ！！」
一気に言った。
息を吸い込んで、吐いた。
「憶えてるわ。」
ミサトが呟いた。
沈黙が流れた。

「あの時、何を考えてたの？」
私、何、聞いてんだろ。
「手に負えないな、って思ってた。面倒だな、とも。」
「．．．」
「シンジ君が荒れたんだったら、最悪、寝ればいいかと思ってたけど、アスカには、どう接したらいいのか分からなかったわ。」
「．．．」
「私を拒絶してる人に、何、言ったらいいのか分からなかったし。」
「．．．」
「私がアスカ位のころは、セカンドインパクトのショックで、自分の中に閉じこもってたし．．．まあ、いづれにしろ、エヴァに乗ってたわけじゃないから、アスカの気持ちなんて分からなかったわ。」
「．．．」
「私は、アスカの母親じゃないし。」
ミサトの背中がピクリと動いた。
沈黙が流れた。

「ごめん．．．アスカ。」
ミサトが呟く。
「何が？」
小さく呟いた。
「アスカは、ママをしてくれたのに。」
「．．．」
「ごめん。」
沈黙が流れた。

「今は、この３人しかいないから。」
口を開いた。
「．．．」
「それに、退行してたミサトは結構かわいかったわよ。」
「．．．そう。」
「それに、かわいそうだった。」
「．．．」
「あの時とは、状況が違うから。」
「．．．」
沈黙が流れた。

ミサトの背中から体を起こし、背伸びをした。
「なんだか、眠くなっちゃった。」
そう呟いた。
「．．．」
「私、寝るね。」
ミサトに言った。
「うん。」
ミサトが呟く。
ミサトの隣りの布団に横になった。天井を見ていた。
ミサトが布団に横になる気配がした。
ミサトが私の手を握る。
「おやすみ。ママ。」
ミサトの声がした。
「おやすみ。ミサト。」
そう呟いて、目を閉じた。
 

「．．．マ．．．ママ。」
声が聞こえた。
「ん．．．」
目を開けるとミサトが私を見ていた。
「ミサト？」
「４時だけど。」
ミサトが私を見る。
「そう．．．」
手をついて、上半身を起こし、周りを見た。
シンジが来たわけではないようだった。
「ミサトが起きたの？」
「うん。そう。」
「外に行く？」
「それがいいかなって思って。」
「じゃ、ちょっと待ってて。」
「うん。」
立ちあがって、広間を出た。

シンジのいる広間を覗いた。
シンジが布団に横になって天井を見ていた。
「シンジ？」
シンジに声をかける。
シンジが布団から起きあがる。
「何、アスカ？」
「ミサトが外に行かない？って。」
「ああ．．．いいよ。」
「じゃ、呼びに来るから。」
「うん。分かった。」
ミサトのいる広間に歩き出した。

シェルターから出ると、校舎内の熱い空気の圧迫感を感じる。
「あっつ。」
思わず呟いた。
「お昼、暑かったからね。」
シンジが言う。
「そうね。冷麦食べたから、それほどでもなかったけど。」
「けど、昨日も今ごろは、それほど暑くなかったし。」
「そうね。」
校舎の外に出ると、少し風が吹いていた。
「結構気持ちいいわね。」
「そうだね。」
３人で、坂を下り始めた。

昨日と代わり映えのしない街中を、ぶらぶらと歩いて、公園に来た。
ベンチに腰を下ろし、町を眺める。
「静かね。」
呟いた。
「そうだね。」
シンジが呟く。
「誰も戻って来ないのかな。」
「ミサトさんが戻ってきたから、そのうち戻ってくるんじゃない？」
「そう．．．」
「この辺りは、皆、疎開してたし。」
「そうね。」
「ヒカリ、戻ってきたかな。」
「．．．」
沈黙が流れた。

シンジを見た。
「どうしたの？」
「トウジやケンスケは、どうしたかな、と思って。」
「ああ．．．そうね。」
「皆、疎開してた。」
ふと思いついた。
「ミサト？」
ミサトに話しかける。
「何？」
ミサトが言う。
「私達は、殺されかかったけど、鈴原が、そういう目に合ったってことはないのよね？」
「．．．」
沈黙が流れた。

「分からないわ。」
ミサトが口を開く。
「そう．．．まあ、そうよね。」
まずったかな、と思った。
空を見た。
「シンジ。」
空を見ながら呟いた。
「何？」
シンジが言う。
「ごめん。変な話振って。」
「ううん。アスカが気にすることないよ。」
何を言っていいか分からずに黙っていた。
沈黙が流れた。

「ごめんね。シンジ。」
また、謝ってしまった。まるでシンジみたい。
「だから、アスカが謝ることないって。」
シンジが言う。
「ね、シンジ？」
「何？」
「あんまり気を使われるのはイヤ？」
「あ．．．うん．．．まあ、そうかな。」
「私も、今日、ミサトが私に気を使うのが鬱陶しくなったりしたから。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「あんまり気を使われるのもイヤだし、何とも思ってくれないのもイヤかな。」
シンジが言う。
「．．．」
「．．．考えてみれば勝手だよね。」
「．．．そうね。」
沈黙が流れた。

「んーーーーっ。」
シンジが声を出す。
シンジを見た。
シンジが伸びをしていた。
シンジが体を戻し、私の方を見る。
「アスカ、やさしいね。」
シンジが言う。
「な．．．突然、何言ってんのよ！バッカじゃないの？」
顔が赤くなるような気がした。
「ありがとう、アスカ。」
シンジが微笑んだ。
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