食堂に入ると、お味噌汁の匂いがしていた。
「おはよう。」
調理場のシンジに声をかける。
「おはよう、アスカ。もう出来てるよ。」
シンジの声がした。
「じゃあ、ミサト呼んでくるから。」
「了解。」

広間に戻って、ミサトが寝ている布団の脇に座る。
「ミサト。」
そう言いながらミサトの肩を揺らす。
「んん．．．」
ミサトが目を開ける。
「ミサト。」
「あ．．．ママ。」
背中に冷たいものが走った。
「ミサト？！」
ミサトの肩を掴んだ。
ミサトがびっくりしたような顔をする。
「ごめん、アスカ。」
思わず、ミサトの肩から手を離した。
「．．．」
ミサトが、私の顔を見て、真顔になる。
「ごめんなさい．．．」
ミサトが言う。
視線を太ももに落とした。
沈黙が流れた。

「あの．．．アスカ？」
ミサトが言う。
私は、口がきけないでいた。
沈黙が流れた。

「ごめんなさい。」
ミサトが言う。
「朝ご飯、できたから。」
視線を落としたまま、やっとのことでそれだけ言うと、立ちあがって、視線をそらしたまま、広間から出た。

食堂に入り、調理場の近くのテーブルの椅子に座った。
シンジがやってきて、コーンなどを炒めたものをのせた皿を置く。
シンジが、ご飯とお味噌汁の入った鍋を置く。
シンジが、私の向かいの椅子に座った。
シンジが私を見て、ご飯をよそいはじめた。
「はい。アスカ。」
「．．．」
シンジが、自分の分のご飯をよそい、自分の前に置く。
シンジがお味噌汁を御椀によそう。
私の前に置いた。
シンジが、自分の分のお味噌汁をよそい、自分の前に置いた。
シンジが私を見る。
沈黙が流れた。

シンジが立ちあがり、少しして戻ってきた。
シンジが私の前に湯のみを置く。
いい香りがした。
シンジが私の向かいに腰を下ろした。
「食べない？」
「．．．食べる。」
「いただきます。」
シンジが言う。
「．．．いただきます。」
小さな声で言った。
シンジがお味噌汁を啜った。

「ごちそうさまでした。」
シンジが言う。
「ごちそうさまでした。」
少し小さな声で言った。
「ミサトさん呼んでくるけど。」
シンジが言う。
「そう。」
「アスカの広間に戻る？」
思わず、シンジの顔を見た。
「．．．」
シンジが私を見る。
小さく頷いた。

シンジと一緒に食堂を出た。
私がいた広間に入る。
シンジがミサトを呼びに行く。
ミサトとシンジが私のいる広間の前を通り、食堂に歩いていった。
 

コン、コン。

入り口の脇の壁を叩く音。
入り口を見るとシンジとミサトが立っていた。
思わず、目を逸らした。
「入っていい？」
シンジが言う。
「シンジは、入っていいわ。」
「ありがとう。」
シンジが歩いてきて、私の隣りに座る。
「．．．」
沈黙が流れた。

「許せない？」
シンジが唐突に言う。
「許せない。」
沈黙が流れた。

「そうだよね。」
シンジが言う。
沈黙が流れた。

「今日、芦ノ湖、行く？」
シンジが言う。
「ミサトとは嫌。」
「じゃ、二人で行こう。」
シンジを見た。
「．．．うん。」
シンジが微笑む。
「よかった。」
「ミサトは、どうするの？」
「ここにいてもらえばいいんじゃない？」
視線を落とした。
「そう。」
「．．．」
「ここにいるんでもいいかな．．．」
「そう．．．」
「シンジは？」
そう言って、シンジを見た。
「アスカの近くにいるよ。」
シンジが言う。
「そう．．．」
なんとなく、少しうれしくなった。
視線を自分の前に落とした。

「ここにいよう。」
シンジに言った。
「じゃ、そうしようか。」
シンジが言った。

「ね。」
俯いたまま言った。
「何？」
シンジが言う。
「キスしようか。」
「．．．」
「ね。」
「いいよ。」
シンジを見た。
「目、閉じてくれる？」
「うん。」
シンジが目を閉じる。
シンジの唇に唇を近づけ、軽く触れた。
少しそのままでいて、そして離した。
視線を自分の前に落とした。
「シンジ。」
「何？」
シンジの右手に左手を重ねた。

「アスカ？」
しばらくしてシンジが口を開く。
シンジを見た。
「何？」
「．．．」
シンジが私を見る。
「悪いんだけど、後片付けが残ってるんだ．．．」
「クス。」
思わず笑ってしまった。
「ごめん。」
シンジが申し訳なさそうな顔をする。
「いいよ。」
「じゃ、片してくるから。」
「うん。」
シンジが立ちあがって、広間を出ていった。

ふと思いついて、広間を出て、ミサトのいる広間を覗いてみた。
ミサトが布団の上に座っていた。
ミサトを見ていた。

しばらくして、ミサトが私の方を見た。
ミサトが私を見つめて、そして、俯いた。
「ミサト。」
ミサトが私を見て、そして、また俯く。
広間に入り、布団の脇に座った。
「ごめんね、ミサト。」
私を見たミサトの目から涙がこぼれる。
ミサトが私に抱きついた。
「ミサト．．．」
ミサトの泣き声が広間に響いていた。

布団に横になり、ミサトと手を繋いで、天井を見ていた。
「アスカ？」
ミサトが口を開く。
「何？」
「私、時々、アスカのこと、ママって呼ぶかもしれない。」
「．．．」
「その時は、許してね。」
「．．．」
「今も、本当は、ママって呼びそうになってる。」
「．．．」
沈黙が流れた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:15 完 

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