かわいそうなミサト．．．

ついさっきのやり取りが甦る。
『アスカ？』
『え？』
『少し寝る？』
『え．．．
  あ．．．そうね。少し寝るわ。』
『じゃ、３時ごろ呼びにくるから。』
『うん。』
『それじゃ。』

かわいそうなのは．．．私．．．か。

『ごめん。ごめんよ、アスカ。アスカが何と言ったってミサトさんと続きをしたりしないから、だから、だから、僕といてよ。僕と話しをして。僕を．．．』
シンジの言葉が浮かんだ。

しばらく、壁を見ていた。
涙を拭って、立ちあがった。

シンジの部屋の入り口。
シンジが布団に横になっていた。

コン、コン。

入り口の脇の壁を叩く。
シンジが私の方を見て、起きあがる。
「あ．．．どうしたの、アスカ？」
「入っていい？」
「え？．．．うん。」
部屋に入り、シンジの布団の脇に座った。
「シンジ．．．」
シンジを見た。
「何？」
シンジが私を見る。
シンジから目をそらした。
「泣いてる女の子は嫌い？」
「あ．．．」
沈黙が流れた。

「シンジは、私にいて欲しいって言って、私も分かったと言ったのに、私とはいてくれないの？」
「．．．」
沈黙が流れた。

「あの時、抱きしめたくなったんだ。アスカを。」
シンジが口を開く。
「けど、そんなことしていいのか、よく分からなくて。」
「．．．」
「僕は、一人で横になって、流してきたから。」
「．．．」
「それがいいかと思って。」
沈黙が流れた。

「そっか。」
床を見たまま呟いた。
「分かった。」
沈黙が流れた。

「ミサトの部屋に戻るね。」
「．．．」
「呼びに来てね。」
そう言って、立ちあがった。
「アスカ。」
シンジの声。
「何？」
シンジが立ちあがって、私を抱きしめる。
「ごめんね。アスカ。」
「．．．」
「ごめんね。」
「ホントに．．．ウ．．．バカ、ヒック、なん．．ク．．だから．．．」
「ごめん。」
しばらく、そのままでいた。

「シンジ。」
「何？」
「ありがと。」
「．．．」
シンジが手を離す。
シンジから離れた。
「ミサトの部屋に戻るから。」
「うん。」
「呼びに来てね。」
「うん。」
シンジを見た。
シンジが私を見ていた。
「じゃ。」
「．．．」
入り口に歩き出した。

入り口で振りかえった。
シンジが私を見ていた。
「シンジ？」
「何？」
「一緒に寝ようか、とか言わないんだ。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「一緒に寝ようか。」
シンジが言う。
「いいよ。」
そう言って、シンジを見つめた。
「分かった。」
シンジが私の方に歩き出した。

シンジが私の隣りに布団を敷いていく。
シンジが布団にもぐりこんだ。
「シンジ？」
「何？」
「変なことしたら承知しないから。」
「了解。」
沈黙が流れた。

「シンジ？」
「何？」
「ずっと、いてくれる？」
「アスカが、許してくれるなら。」
「．．．バカ。」
なんとなく、うれしくなった。
ミサトの布団に手を伸ばして、ミサトの手を握った。

「．．．カ。アスカ。」
シンジの声。
「ん．．．」
目を開けた。
シンジが私を見ていた。
「もうすぐ、４時だけど。」
「そう．．．」
「外、行く？」
「ちょっと大変？」
「そうだね。」
ミサトの方を見た。
「んん．．．」
ミサトが体を動かす。
ミサトが目を開けた。
ミサトが私を見る。
「ママ。」
「おはよう、ミサト。」
「今、何時？」
「４時少し前だって。」
「寝坊しちゃった？」
「そ、ママとパパがね。」
「ふーん。お外行かないの？」
シンジを見た。
「ちょっと、出てみる？」
「そうだね。」
ミサトを見た。
「じゃ、ちょっとだけ、いこう。」
「わーい。」
ミサトが微笑む。
シンジを見る。
「じゃ、悪いけど、部屋、出ててくれる？」
「了解。布団、このままでいい？」
「．．．そっか。どうする？」
「自分の部屋で寝ることにするよ。上げてくから、ちょっと待ってて。」
「了解。」
シンジが布団を畳み、押入れに入れて行く。

「じゃ、食堂で、待ってるから。」
シンジが言う。
「うん。ありがと。」
シンジが微笑んで、部屋を出ていった。
 

街の見渡せる公園

３人でベンチに座っていた。
街が夕陽でオレンジ色に染まっていた。
「誰もいないわね。」
しかも妙に静かな感じがする。
「街の音がしない。車の音がしない。セミが鳴いていない。鳥も鳴いていない。」
思いついて呟いた。
「そうだね。」
シンジが言う。
風が、木々を揺らし、葉の擦れる音を出した。

「行こうか。」
シンジが言う。
「そうね。」
ミサトを見る。
「いい？」
「うん。」
ミサトが答える。
立ちあがり、歩き出した。

街の中を歩いていた。
「お店、やってないね。」
ミサトが言う。
「そうなのよ。ここは、災害があって、皆、疎開しているの。」
「そう。
  私達は？」
「パパとママは、災害を食い止めるお仕事をしていたの。だから、今もここにいるのよ。」
「そうなの。」
ミサトが、何か考えるような顔をしている。
シンジを見た。
シンジが頷いた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:13 完 

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