食堂のテーブルには、おにぎりの並べられた皿が置かれていた。
「シンジ？」
「何？」
シンジが私を見る。
「どうせ、おにぎりなんだから、外で食べない？」
「ああ、それがいいかな。」
ミサトを見た。
「外で食べようか？」
「うん。」
ミサトが笑顔を浮かべる。
「だって。」
微笑みながら、シンジを見た。シンジも微笑んでいる。
「分かった。ちょっと待ってて。」
シンジが調理室に入っていく。
シンジがラップを持ってきて、おにぎりを包んでいく。
とりあえず、用意はしてあるから、あとは出るだけね．．．
近くの公園か、さもなければ、校庭でもいいし．．．
そんなことを考えながら、シンジを見ていた。

校舎から出ると、熱い空気の圧力を感じた。
「暑いわね。」
思わず呟いた。
「そうだね。」
シンジが呟く。
「帽子、いるかな．．．」
「そうだね。」
シンジが立ち止まる。
ふと思いついた。
「傘でいいかな。」
鞄から傘を取り出して、さした。
日影が大きく、結構よかった。
「これでいいわよ。」
「そうだね。」
シンジも傘を開いた。
シンジが頷く。
「ミサト。」
「うん。」
ミサトが鞄から傘を取り出して開く。
「どこまで行こうか？」
シンジに聞いた。
「街の見渡せる公園？」
シンジが答える。
「ここっていう手もあるけど。」
「そうしようか。疲れちゃいそうだし。」
「じゃあ、屋上にしない？」
「そうだね。」
「ミサト、屋上に行くから。」
「うん。」
３人で校舎の中に入った。

シンジがシートを敷いていく。
「いいよ。」
「はーい。」
ミサトがシートに座る。
ミサトの隣りに座った。
シンジが私の隣りに座る。
ミサトが、おにぎりを出して私達を見る。
私も、おにぎりを出した。
シンジを見た。
シンジも、おにぎりを出している。
ミサトを見た。
ミサトが微笑んでいる。
シンジを見た。
「じゃ、食べようか。」
シンジが私達を見る。
「「「いただきます。」」」
ミサトが、おにぎりを食べ始めた。
私も一口おにぎりを食べる。塩の味がした。

シンジと話していた。
「ここの校庭、どうして木を植えてないのかしら。」
「掃除とか面倒だからじゃない？
　裏山には木が植わってるから。」
「そうなのかしら。
　校舎の間以外は、日影が無いから、お昼とか困るのよね。」
「そうだね。」
「屋上も結構暑いし。」
「うん。」
「屋上に何か簡単な日よけとかあるといいのにね。」
「そうだね。屋根だけのテントみたいなもの、倉庫にないかな。」
「それいいかも。」
「あとで探してみようか。」
「そうね。」
沈黙が流れた。

空を見ていた。
夏空に雲が流れていた。
「平和ね。」
なんとなく呟いた。
「そうだね。」
シンジが呟く。

肩に重みを感じた。
目をやると、ミサトが肩によりかかって眠っていた。
私の肩で寝息を立てるミサト。
なんとなく頭を撫でてみた。
「マ．．．マ．．．」
ミサトが呟く。
空を見て、ため息をついた。

「行こうか。」
シンジの声がした。
「そうね。」
ミサトを見た。
「ミサト。」
「．．．ん．．．」
ミサトの肩に手を伸ばし、軽く揺すった。
「ん．．．」
ミサトが顔を上げて、目をパチパチさせる。
ミサトが私を見た。
「何。ママ？」
「中に入るわよ。」
「うん。分かった。」
「シートから出て。」
「うん。」
ミサトが立ちあがり、シートの脇に立つ。
私もシートから立ちあがった。
シンジがシートを畳んで、鞄に入れる。
「少し涼しくなったら、公園に行こうか？」
シンジが私達を見て言う。
ミサトを見た。
「うん。そうしよう。」
ミサトが私を見て、微笑みながら言う。
シンジを見て、頷いた。
シンジが私に頷く。
シンジが、階段へと歩き出した。

ミサトが眠っているのを見ていた。
「疲れてるのね。」
ミサトの髪を撫でながら言った。
「そうだね。」
シンジが答える。
「ミサト、私達といて、ストレスたまったりしないかしら。」
「分からない。」
「．．．」
「いい子でいようとしてるのかな。」
「いい子でいようとしてる？」
「あそこで、ミサトさんとも会ったんだ。」
「．．．」
「いい子でいようとしていたんだって。」
「．．．」
「父さんがいない時、泣いてばかりいる母さんを助けるために。」
パパがいない時、泣いてばかりいるママを助けるために．．．
「父さんに嫌われないために。」
パパに嫌われないために．．．
「きれいなふりをしていたんだって。認められるために。」
きれいなふり．．．認められるために．．．
ミサトを見ていた。
フラッシュバックする記憶。
 

「ママ！！ママ！！私、選ばれたの！
  人類を守るエリートパイロットなのよ！
  世界一なのよっ！」
「誰にも秘密なの。でもママにだけ、教えるわねっ！
  いろんな人が親切にしてくれるわ。だから、寂しくなんかないの！」
「だから、パパがいなくなっても大丈夫。寂しくなんかないわ。
  だから、見て。私を見て、ねえママ！」
扉を開ける。
首を吊ったママのシルエット。

量産機達が弐号機の筋を引っ張りながら、飛び立つ。
装甲を剥がされ、内臓がむき出しになった弐号機。
「ママ、どうして．．．」
弐号機の手が私の方に伸びる。
「．．．アスカ．．．」
「私を一人にしないで！！」

「ママ．．．
  どうして、いつも一人で逝ってしまうの．．．」
「誰も私を見てくれないわ。
  もう、誰も。」
「私が生きてく、理由もないわ。」
 

「アスカ？」
シンジの声がした。
「え？」
シンジを見た。
シンジが私を見ていた。
「少し寝る？」
シンジが私に聞く。
「え．．．」
ミサトを見た。ミサトは相変わらず寝息を立てていた。
「あ．．．そうね。少し寝るわ。」
「じゃ、３時ごろ呼びにくるから。」
「うん。」
「それじゃ。」
シンジが立ちあがり、広間を出ていった。
ミサトを見た。
ふと、手前に視線を移した。
制服のスカートに、いくつもの染みができていた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:12 完 

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