「今日は、芦ノ湖行くの？」
ミサトが聞く。
「ええ。」
シンジが答えた。
「そう。アスカは？」
ミサトが私を見る。
「そうね。行こうかしら。」
「そう。」
ミサトが私を見ていた。
「どうしたの？」
ミサトに言った。
「なんでもないわ。」
ミサトがテーブルに視線を移した。
「．．．」
ミサトを見ていた。

お味噌汁を飲んでいた。
「けど、なんだか、３人で暮らしてたころみたいね。」
ミサトが言う。
「そうですね。」
シンジが答えた。
「懐かしい？」
ミサトに聞いた。
「そうね。こんなの、もうないと思ってた。」
「私は、出て行っちゃったし？」
「アスカだけじゃないわ。最後は、シンジ君も。ううん、私も帰らなかったのよ。」
シンジを見た。
「．．．」
何か言おうとして、シンジが、私の病室に来て、やったことを思い出した。
そう．．．
何のために、あんな目にあったんだろう、私達．．．

「アスカ？」
ミサトの声がした。
ミサトを見た。
「何か言った？」
ミサトに聞いた。
「シンちゃんのこと見つめちゃって。朝から熱いわね。」
ミサトがからかうような調子で言う。
「ちょっと思い出してた。」
「もしかして、昨日、あの後、何か間違いがあったとか？」
「．．．ミサト？」
少し、声を低めた。
「．．．ごめん。」
ミサトが、引いた。
「シンジが、帰ってこなかった、って言ったのを聞いて、あのころのことを思い出してたのよ。何のために、あんな目にあったんだろうって．．．」
ミサトが、少し悲しそうな顔になる。
「．．．そうね。
　エヴァを動かせるのが、あなた達だけだったっていうのもあるけど。それでも、無茶言ってたわ。あげくのはてに、アスカは、一度、死んでしまったし。」
ミサトが息をつく。
「ごめんね、二人とも。」
沈黙が流れた。

「「「ごちそうさまでした。」」」
シンジが、皿と椀を片付けていく。
シンジの手を見ていた。
シンジが調理場に歩いていく。
立ちあがって、シンジの後をついていった。
「何かすることある？」
「え？」
シンジが、少し驚いたような顔で、私を見る。
「珍しいね。」
「珍しいとは、失礼ね。」
「ごめん。」
「ううん。ごめん。」
「クス。」
「何よ、もう。」
「じゃ、水筒を洗って、水を入れてよ。あと、何持っていくか考えておいてくれる？」
「水筒は？」
「衣料倉庫にあるけど、僕の分は、そこにあるから。」
シンジが顎で流しの脇を指す。
「了解。」
そう言って、調理場を出た。

水筒を二つ取って、衣料倉庫を出た。
ミサトが廊下を歩いていた。
「ミサト。」
ミサトに声をかける。
「何？」
「芦ノ湖、何持っていく？」
ミサトが私の向こうに視線を移す。
「そうね。水と食料と、タオルと、雨具と．．．拳銃．．．かな。」
「銃ね．．．」
そうね。確かに。
「武器倉庫の鍵とか、どうしてる？」
「分からないけど、多分、制御室とか、校長室とかじゃない？」
「そう。じゃ、探しとく。アスカにも渡すから。」
「了解。」
ミサトが武器倉庫の方へ歩き出した。

調理場に入ると、シンジが、おにぎりを包んでいた。
水筒の口をあけて、水を入れていく。
半分位入れて、口を閉め、振った。
水を捨て、水を入れて、もう一度洗う。
水筒を水で満たした。
もう一つの水筒も洗って、水を入れる。
「シンジのは？」
「もう入れたから。ありがとう。」
「そう。」
水筒を持って、食堂に歩いていく。
テーブルに水筒を置いた。
「ちょっと、他のもの探してくるから。」
「了解。」
テーブルに歩いてきたシンジが答えた。

衣料倉庫に歩いていくと、ミサトと会った。
「はい、これ。」
ミサトが拳銃を渡す。
「ダンケ。ミサト。」
「使い方は、分かるわよね。」
銃を眺めた。
「ええ。」
「ＯＫ。あと、これね。」
ミサトが鍵を渡す。
「２つあるの？」
「ええ。まあ、アスカが持っていればいいと思うわ。」
「了解。」
「アスカは、何しにいくの？」
「タオルと雨具、それに鞄かな。」
「なるほど。私も行くわ。」
「了解。」

「けど、ここが生きてて助かったわ。」
衣料倉庫から出ながら、ミサトが言う。
「私も、ここに着いた時、そう思った。」
「そうよね。せっかく生き返っても、水と食べ物がなければ、死ぬのを待つだけだし。」
「そう。」
「他の人、帰ってくるかな。」
「レイと、シンジのママは、帰ってくるって言ってたけど。」
「会ったんだ。」
「あの中でね。」
「そう。
　私は、会わなかったわ。夢から覚めたと思ったら、芦ノ湖に来ていた。」
「そう。人によって違うんだ。」
「レイって、戻ってくるのかしらね。」
「どうかな。レイは、人間じゃないし。」
「え？人間でしょ？クローンだけど。」
「ターミナル・ドグマにいたリリスと同化して巨大化し、アンチＡＴフィールドを展開して、人類をＬＣＬ化した。知ってる？」
「！」
ミサトが立ち止まる。
ミサトを見た。
「あれ．．．レイなの．．．」
ミサトが呟く。
「データ、残ってたんだ。」
「ええ。はっきりとは分からなかったんだけど．．．」
「そう。
　けど、おかげで、こうやって生きてるんだから、あんまり固いこと言っても仕方ないと思うけど。」
「そうね．．．」
沈黙が流れた。

「ミサト？」
ミサトが私を見る。
「ああ。ごめん。」
ミサトの顔が少し青くなっていた。
「大丈夫？」
「う、うん。大丈夫よ。」
沈黙が流れた。

ミサトが立ち尽くしていた。

「ミサト？」
ミサトが私を見る。
「座らない？」
「え？」
少し驚いたような顔でミサトが私を見る。
ミサトから目を離して、壁際に座り込んだ。
沈黙が流れた。

しばらくして、ミサトが私の横に腰を下ろす。
何の会話もなく、時間が過ぎていった。

靴音が近づいてきた。

「二人とも、何してるの？」
シンジが私達に話しかける。
「別に．．．何もしてないわ。」
シンジに答えた。
「そう。」
沈黙が流れた。

「芦ノ湖、行かないの？」
シンジが不思議そうに私達を見る。
ミサトを見た。
どことなく、虚ろな感じがした。
シンジに視線を戻した。
「なんだか、調子よくないのよ。」
「そう。」
シンジが、腑に落ちない様子で、答える。
沈黙が流れた。

しばらくして諦めたのか、シンジが、歩いていった。

「ミサト？」
前の壁を見ながら言った。
「何？」
ミサトが、気だるそうに答える。
「幸せ？」
何となく、口に出してみた。
「幸せ．．．」
ミサトが人形のように繰り返す。
沈黙が流れた。

「分からないわ。」
ミサトが呟いた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:10 完 

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