ロンギヌスの槍の前に、弐号機が立っている。 
ロンギヌスの槍が、弐号機の頭を貫通する。 
弐号機が倒れた。 
「ママ．．．」 
倒れていた量産機が、次々に起き上がり、再生していく。 
羽を広げた量産機達が、目の前の弐号機に群がり、ついばんでいく。 
「いきなさい、アスカ。」 
量産機達が弐号機の筋を引っ張りながら、飛び立つ。 
装甲を剥がされ、内臓がむき出しになった弐号機。 
「ママ、どうして．．．」 
弐号機の手が私の方に伸びる。 
「．．．アスカ．．．」 
「私を一人にしないで！！」 
「愛してる．．．わ．．．」 
ロンギヌスの槍が、目の前の弐号機に突き刺さっていく。 
「ママ！！！！！」 
「い．．．き．．．なさい．．．アスカ．．．」 
「ママ．．．」 
 

薄暗い廃虚の家。 
汚れたバスタブ。プラグスーツ姿のアスカ。 
股間のあたりまでの水。こけた頬。 
頭をバスタブの縁に預け、空を見上げるアスカ。 
「ママ．．． 
  どうして、いつも一人で逝ってしまうの．．．」 
空に浮かぶバスタブの蛇口。 
「誰も私を見てくれないわ。 
  もう、誰も。」 
椅子の上に置かれたヘッドセット。 
「私が生きてく、理由もないわ。」 
ドアを破壊する音。 
なんの反応もないアスカ。 

ギシ．．．ギシ．．． 
足音が止まる。 
再び足音がして、止まる。 
足音がして、椅子を下ろす音、椅子の埃を払う音、そして、椅子にかける音がした。 
椅子にかけて、アスカを見るレイ。 

静止したまま過ぎていく刻。 

「もういいの？」 
レイが口を切る。 
「なんで、アンタが来るのよ。」 
呟くように言うアスカ。 
「．．．」 
沈黙するレイ。 
「何が、『もういいの？』、よ。」 
「．．．」 
「何も判ってないくせに、私の側に来ないで。」 
「．．．」 
「何か、言ってみなさいよ。この人形女が。」 
レイが口を開く。 
「どこまで憶えてる？」 
「？」 
「エヴァシリーズに殺された所まで？」 
「！」 
「お母さんが助けてくれた所まで？」 
「！！」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「そうよ。ママが死んだのよ。私をかばって。私が殺したのよ。」 
「．．．」 
「それが、どうしたのよ。もう誰も．．．」 
「．．．」 
「私を見てくれないのよ．．．」 
「．．．」 
「！」 
アスカが目線をレイに向ける。 
「．．．」 
「アンタ．．．死んだはず．．．」 
「憶えてるの。」 
「アンタ．．．誰？」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「私が、クローンなのは、知ってる？」 
レイが呟く。 
「あ．．．」 
目を見開いて、アスカがレイを見る。 
「私は、３人目。」 
「．．．」 
「なんて呼べばいい？」 
「？」 
「．．．」 
「『なんて呼べばいい？』．．．なんの事？」 
「どこまで知ってるの、アスカ？」 
「．．．」 
「セカンドインパクトが、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵に還元するために起こされたこと。」 
「！」 
「人間が、アダムと同じリリスと呼ばれる、生命体の源から生まれた１８番目の使徒であること。」 
「！！」 
「人類補完計画が発動して、すべてが一つになっていること。」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「すべてが．．．一つ？」 
いぶかしげな顔をするアスカ。 
「ええ。」 
そう言って、レイがアスカに手を伸ばす。 
レイの手が、アスカの頬に触れ、そのまま中に入っていく。 
「ひっ！」 
自分の顔に入ってくるレイの手に悲鳴をあげ、泣きそうな顔でレイを見るアスカ。 
「な、なんなのよ、これは？」 
「一つになっているのよ。アスカも、碇君も、皆．．．」 
手を引きだし、いつもの表情で、淡々と語るレイ。 

「あんたが．．．やったの？」 
「碇司令が中心になって進めていたのよ。」 
「．．．」 
「最終的には、碇君と初号機が依り代となって、計画を発動させた。」 
「．．．あのバカが．．．」 
「補完計画は、人類の欠けた心を一つにすることで、完全な人を生み出す計画。」 
「．．．」 
「その依り代には、欠けた自我が必要だった。」 
「．．．」 
「だから、適格者の自我は、欠けさせられた。」 
「？」 
「例えば、一人目の私は、殺された。」 
「！」 
「例えば、碇君は、実験中にお母さんを目の前で失い、その後、お父さんからも遠ざけられた。」 
「．．．」 
「例えば、アスカは、お母さんを殺された。」 
「な．．．」 
「おかしいと思わなかった？」 
「嘘じゃないでしょうね。」 
「さあ。」 
「さあって、アンタねぇ！」 
アスカがバスタブから出て、レイの前に立つ。 
「いいかげんなこと言うと、承知しないわよ。」 
アスカがレイの制服の襟をつかんだ。 

虚空に目を泳がせるレイ。 
「私は、補完計画のための道具。」 
「．．．」 
「けれど、その役目も終わったわ。私を必要とする人は、もういない。」 
「．．．」 
「碇君も、私を必要としない。」 
「．．．」 
「クローンは、怖いって。」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「何言ってんのよ？！」 
「すべてが一つになって、すべてが私に流れ込んできた。すべて、知ってるわ。」 
「！」 
「気に入らなければ、私を殺す？」 
「！」 
「真実は、いつも、人の心の中にあるわ。」 
「．．．」 
「アスカの真実は、アスカの心の中に。」 
「．．．」 
「アスカにも見せてあげるわ。」 
「？」 

そう言って、レイが、アスカの腕を掴み、アンチＡＴフィールドを展開する。 
アスカの中に様々な意識が流れ込む。 
人類補完計画に関わった人々の意識。 
初号機、エヴァシリーズ、そしてジオフロントの上昇。 
リリスと同化し、巨大化するレイ。 
溶けていく人々。 
「何なのよ．．．これ．．．」 
「．．．」 
「私．．．何を．．．」 
「．．．」 
「．．．」 
座り込むアスカ。 

「アンタ．．．何なのよ．．．」 
「道具よ。補完計画のための。」 
「．．．私も？」 
レイを見上げるアスカ。 
レイは、虚空を見ている。 
「．．．」 
「．．．」 
アスカが俯く。 
「何か言いなさいよ！」 
「．．．」 
「黙ってないで、何か言いなさいよ！」 
「．．．」 
「何とか言いなさいよ！」 
「．．．」 
「どうして．．．黙ってんのよ。」 
「．．．」 
「何か．．．言って．．．よ．．．」 
「．．．」 
「う．．．何なのよ．．．これ．．．ヒック．．．私．．．なんのために．．．」 
床に落ちる涙。 

「碇君は、一人一人に分かれることを望んだわ。」 
「．．．」 
「また、会いたいって。」 
「．．．」 
「羨ましいわ．．．殺したいくらいに。」 
「え？」 
アスカがレイを見上げる。 
レイがアスカに手を伸ばす。 
「魂まで、溶かしてあげるわ。跡形もなく。それはとても気持ちのいいこと。」 
レイがアスカに冷たく微笑む。 
「ひっ！」 
アスカが、勢いよく立ち上がり、壁の方へ後退る。 
レイが、ゆっくりと歩を進める。 
「じょ、冗談でしょ、ファースト？」 
無言のまま微笑み、手を伸ばすレイ。その手が赤く光る。 
「い、いやあああぁぁぁ！！！！」 
走り出すアスカ。 
レイも走り出す。 
「嘘．．．嘘でしょ。」 
廊下を曲がるときに後ろを見る。アスカを見据えるレイ。 
「このままじゃ、やられる．．．何か．．．」 
折れた材木が目に入った。 
座り込んで手にとり、振り向きざまレイの横腹に打ち込む。 
「かはっ！」 
レイが倒れた。 
「こんのやろぉ！！！！」 
レイに材木を打ち込む。一度、二度、三度、四度．．． 
レイの制服が血に染まり、レイが動かなくなった。 
「はあ．．．はあ．．．はあ．．．」 
材木を手から離す。 

カラン。 

「なんなのよ．．．こいつは．．．」 
その瞬間、レイが溶け出し、ＬＣＬ化した。 
「！．．．まさか．．．」 

ギシ。 

背後で音がした。 
アスカがゆっくりと後ろを見る。 
レイが立っていた。 
「不死身ってわけ？」 
「ええ。」 
「そう。じゃ、私が殺されるのも時間の問題ね。」 
「いいえ。アスカは死なないわ。」 
「どういうこと？」 
「死ぬ気、ないでしょ？」 
「当たり前じゃない！アンタなんかに殺されてたまるもんですか！」 
小さく笑うレイ。 
「お母さんが見てなくても、アスカは生きて行けるわ。」 
「！」 
目を見開くアスカ。 
微笑むレイ。 
「冗談ってわけ？」 
アスカがレイを睨む。 
「冗談で命のやり取りはできないわ。」 
真顔になるレイ。 
「．．．そう。」 
真顔のまま、アスカがレイに近づく。 

バシッ。 

アスカがレイの左頬を打った。 
レイがアスカを見る。 
アスカがレイを見た。 
アスカが視線を左下に落とす。 
「怖かったんだぞ。」 
アスカが呟く。 
「ごめん。」 
レイが呟いた。 
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モニターのこちら側 Genesis 3:1 完 

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