「大丈夫かい？」
「ええ。ありがとう、カヲル。」
渚カヲルが私の方に歩を進め、拳銃を渡そうとする。
「持っていってくれる？」
「分かった。」
そう言って、渚カヲルは姿を消した。

赤木博士を見た。
膝をついて、俯く赤木博士。
「リツコ．．．」
碇司令が膝をつき、赤木博士の肩を抱く。
「．．．」
「済まなかった。」
すすり泣きはじめる赤木博士。
「行こう。」
赤木博士を立ち上がらせる碇司令。
二人が、支部の建物の方へ歩いていった。

皆の方を振り向いた。
アスカが歩いてくる。
バシッ。
アスカに左頬を平手打ちされた。
「．．．」
アスカを見た。
「あんた、もし死んだら、どうするつもりだったのよ！
  あたしのこと、どうするつもりだったのよ！！
  あんたまで、どうして．．．ウ．．．あたしを．．．
  う．．．うあぁぁ．．．」
アスカが、私の胸に顔をあてて、泣きはじめる。
「アスカ．．．ごめんね．．．」
アスカの髪に手を滑らせた。

しばらくして、アスカが顔を上げる。
「ごめんね．．．レイ．．．」
アスカが私を見つめる。
「．．．ごめんね、アスカ。」
アスカの頬に手をあてて、親指で涙を拭った。
アスカを見つめた。
「行こう．．．」
アスカが目を閉じる。
アスカに軽くキスした。
「行きましょ。」
そう言って、アスカが私に微笑む。
アスカが葛城三佐、加持一尉の車の方に歩き始める。
アスカの後を歩き始めた。

私達を見つけて、加持一尉が降りてくる。
「もういいのかい？」
「ええ。」
アスカが答える。
「ＯＫ。乗って。」
「はい。」
加持一尉が私の方を見る。
「レイ。」
「？」
「大丈夫かい？」
「ええ。」
「そうか。すまなかったな。」
加持一尉が少し悲しげな表情をする。
加持一尉に頭を下げて、車に乗り込んだ。

「やっと、お昼ね。」
「あっ。それなんだけどさー。」
葛城三佐がアスカに答える。
「予約の時間過ぎちゃったのよ。ごめん。他の所でいいかな。」
バックミラーごしに葛城三佐が顔の前に手のひらを立てて、頭を下げる。
「．．．文句言えないわね。分かったわ。それで、どこ行くの？」
「次に行く予定だった所の、すぐ近くにあるのよ。」
「時間、どの位かかるの？」
「高速で１時間。」
「あと、１時間?？！」
アスカが、頬を膨らませる。
葛城三佐がバックミラーごしに謝っている。
「あー、もーいい！私、ふて寝する。」
そう言って、アスカが目を閉じた。

「．．．イ．．．レイ．．．」
加持一尉の声。目を開けた。
加持一尉が私を見ながら、窓の外を指差す。
窓の外に湖が広がっていた。
「．．．」
「アスカ、起こしてくれるかい？」
加持一尉に肯いて、アスカの方を見る。
「アスカ．．．アスカ．．．」
アスカの肩を揺らした。
「．．．ン．．．何？」
アスカが私を見る。
「外。湖がきれいよ。」
アスカが外を見る。
「そうね。」
「．．．」
「島があるのね。」
「そうね。」

湖を右に見ながら、しばらく走った後、山沿いの道を１０分程走って、車が停まった。
「ここは？」
アスカが加持一尉に聞く。
「諏訪大社上社本宮。さっきの湖は、諏訪湖。」
答えながら、加持一尉が車を降り、シートを前に倒す。
「そう。」
「ま、とりあえず、お参りしようか。」
車を降りた。
アスカが降りてくる。
葛城一尉がドアをロックしている。

駐車場を出ると、土産物屋や食堂が軒を連ねる短い参道に出た。鳥居をくぐる。
参道を歩いていく。先の方に鳥居と山門。
「暑いわね。」
「砂利が白いせいもあるかもしれないな。」
「そうね。」
葛城三佐が参道に目を落とす。
鳥居をくぐると、左手に手水舎。
皆、思い思いに手と口をすすぐ。
「いい？」
葛城三佐が目くばせする。皆歩き出した。

階段の手前の両脇に、皮の剥がされた木が立てられている。
階段を上り、門を通る。右手に神札授与所、前に宝物殿、左手奥に拝殿があった。
皆、拝殿の方に歩いていく。砂利を踏みしめる音。
拝殿の手前１０メートルほどに柵があり、賽銭箱が置かれている。
「二礼二拍手一礼だっけ？」
「そ。」
「何、その、にれいにはくしゅいちれいって？」
「二回お辞儀して、二回拍手して、一回お辞儀してから願い事を祈るっていうの
が、作法なのよ。」
「ふーん。そうなの。」
葛城三佐が最初に、その後、皆、思い思いにして、何かを祈っていた。私も、そうした。

「おみくじ引く？」
葛城三佐が、神札授与所の前で言う。
「おみくじって？」
「Tempelorakelzettel。」
「ああ、なるほど。ひくって、どうするの？」
「やって見せてあげるわ。
  すみません。おみくじ、４人お願いします。」
「はい。一回１００円になります。」
箱に４００円入れると、葛城三佐が、筮竹の箱を手に取り、軽く振って、逆さにして振る。
筮竹が出てきた。
「はい。」
葛城三佐が、筮竹と箱を巫女さんに渡す。
巫女さんが、筮竹を見て、後ろの棚からおみくじを取り出して、葛城三佐に渡す。
「ごくろうさまでした。」
「はい。」
葛城三佐が、おみくじを見ている。
葛城三佐が、アスカを見た。
「こんな感じ。」
「ふーん。」
アスカが、筮竹の箱を振り始めた。

「レイ、どうだった？」
アスカに、おみくじを見せる。小吉。
「はい。」
アスカが、おみくじを見せる。大吉。
「よかったじゃない。」
「ふふふ。ありがと。」
「何か、もっとこうして欲しいっていう事があったら、あそこに結ぶのよ。」
葛城三佐が、柵に渡された、紙がたくさん結び付けられている紐を指して言った。
「結んじゃおうか？」
「そうね。」
微笑みながら、アスカに答えた。

葛城三佐達が門を出る。
すぐに右へ。
「あれ？参道に行くんじゃないの？」
「ああ。ちょっと、違う所にいくんだ。」
渡り廊下のような通路を歩いていく。
屋根がなくなると、目の前に鳥居、そして左手に、また、皮が剥がされた木が立てられていた。
鳥居の前には道が伸びていて、鳥居の所で左に曲がっている。
向いの角に、きよめ茶屋という土産物屋。
「ここなんだ。」
「ここ？お土産屋さん？」
加持一尉の言葉に、アスカが応える。
「見かけによらず、蕎麦がうまいんだよ。」
「へー。ここでお昼ね？」
「そういうこと。」

しばらくして、お蕎麦が運ばれてきた。
「じゃ、食おうか。」
「いただきます。」
アスカが、お蕎麦を、つゆに軽くつけて、すする。
「あ、昨日のお蕎麦とは、また違って、おいしい。」
「長野は、蕎麦が名産だからな。」
「そうなの。」
「ああ。」

食べおわり、蕎麦湯を飲む。
「それは？」
アスカが、加持一尉と葛城三佐が、つまんでいるものを指差す。
「おいしいわよ。食べてみる？」
「けど、それ、虫みたいよ？」
「そ。蜂の子。けど、おいしいから。」
「えー、虫を食べるわけ？」
「そ。セカンドインパクト世代は、苦労したのよ。けど、これは、昔からあるし、おいしいのよ。」
「そう。レイ、どうする？」
「食べてみるわね。」
箸でひとつ取って、口に入れてみる。甘い味が口の中に広がる。アスカに微笑んだ。
「甘くて、おいしいわよ。」
「そう。」
アスカが、こわごわ口に入れる。
アスカが微笑む。
「本当。おいしい。」
皆、笑っていた。

鳥居をくぐり、再び諏訪大社の中へ。
さっきの渡り廊下は通らず、右手の坂を下りる。
「あれは？」
右手に屋根の付いた盛り土。
「お祭りの時に、奉納相撲を取る土俵だよ。」
「あー、相撲。日本の国技ね。」
「そう。よく知ってるじゃないか。」
「日本の文化の本には、必ず書いてあるわ。」
「そう言えば、そうだな。」

山門の前の階段の下に出た。参道を歩いていく。
「おやきって？」
「蕎麦粉で作った大き目のまんじゅうってとこだな。具は、野沢菜とか茄子だったけど、今は、見てのとおり、あんことかクリームの入ったのが売ってる。」
「ふーん。食べてみようかな。」
「どれがいい？」
「やっぱり、あんこかな。レイは？」
「アスカが食べてみたいのでいいわ。」
「じゃ、クリームも。」
「ＯＫ。葛城は？」
「え？私？」
「そう。」
「そうねー。野沢菜かな。ビールもいい？」
「いいよ。ここから、運転、俺だし。じゃ、俺達は、野菜物でいってみるか。」
苦笑しながら、答える加持一尉。
「サンキュー、加持。」
葛城三佐が笑っている。

バタン。
ドアを閉める葛城三佐。
「いいかい？」
「ええ。」

「どう？」
葛城三佐が、バックミラーごし、ビール片手に、私達に聞く。
「おいしいわよ。皮もなかなかおいしいし。」
アスカが答える。
私も肯いた。
「二人とも、お酒、イケそうね。」
葛城三佐が、笑いながら言う。
アスカと顔を見合わせて笑った。
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