「レイ？」
目を開けて、声の方を見た。アスカが見ている。
「．．．アスカ。」
「起きて。朝御飯の時間だって。」
「．．．うん。」
布団から抜け出して、体を起こした。目をこする。

ドアがノックされた。
「はーい。」
アスカが答える。
「布団を上げに来ました。」
「はーい。
  これ着て、あっちに行って。」
アスカに半纏を渡された。
半纏をはおり、立ち上がって、窓の脇の椅子に掛ける。

アスカに続いて男の人が入ってきて、布団を上げていく。
アスカが前の椅子に座った。
「御飯食べたら、また、お風呂に入りにいこう？」
「時間、ある？」
「朝は、あんなに量ないから、１時間位あるわよ。」
「そう。」

仲居さんが入ってきて、朝食のお皿をならべていく。
焼き魚、半熟卵、山菜の煮物、御新香、焼き海苔、お味噌汁．．．
「それでは、ごゆっくり。」
「はい。」

「食べよう？」
「ええ。」
御膳の脇の座布団に座る。目の前にアスカ。
アスカが微笑む。
「「いただきます」」
御味噌汁に口を付けた。

アスカがフロントに電話をかけている。
「．．．」
「紫陽花の惣流ですけど。食事終わりました。ごちそうさま。」
「．．．」
アスカが受話器を置いた。

「荷物、まとまってる？」
アスカが私に言う。
「着替え、持っていくの？」
アスカを見た。
「そうね。」
「じゃ、ちょっと待ってて。」
「ええ。」

着替えをトートバッグに入れていく。
「おまたせ。」
「じゃ、いきましょ。」
アスカがバッグを持って立ち上がる。
「ええ。」

内風呂で頭や顔、体を洗って、少しお湯につかってから、露天風呂に出た。
「もう、暖かいね。」
「そうね。」
湯船につかる。
息をついた。

湯船の縁に腰掛けて、空を見ていた。
「レイ。」
横にいるアスカが口を開いた。そのまま空を見ていた。
「．．．」
「何、考えてるの？」
「朝のお風呂は空が高いのね。」
「．．．そうね．．．」

「ね、レイ？」
「．．．」
「ね。」
アスカを見た。アスカが私を見ている。
「あのね．．．」
アスカが湯船に視線を逸らす。
アスカの左手に右手を重ねた。
「ありがとう。」
アスカが湯船に視線を落としたまま、そう呟いた。

脱衣所で髪を乾かしていた。
横でアスカも髪を乾かしている。
大体終わったので、アスカの方を見た。
「手伝う？」
「じゃ、後ろお願い。」
アスカの後ろに回って、手を添えながら髪を乾かしていく。

アスカがドライヤーのスイッチを切った。
「もういいわ。ありがとう。」
「どういたしまして。」
アスカが髪に手を滑らせ、いつものヘッドセットを付ける。
アスカがドライヤーのコードをまとめている。
私も、そうした。

「さ、急がなきゃ。」
「ええ。」
アスカに微笑んだ。

部屋に戻り、着替えと洗面具をバッグに詰めて、浴衣を簡単にたたんだ。
「いい？」
「ええ。」
「じゃ、行こう。」
アスカが立ち上がる。
「えーと、忘れ物は．．．」
アスカが、窓の方へ歩きつつ、部屋の中を見まわす。
「いいみたいね。行こう。」
「ええ。」

「チェックアウト、お願いします。」
アスカがフロントに鍵を出す。
「何かお使いのものはありますか？」
「いいえ。」
「ありがとうございました。」

ソファに腰をおろした。
「時間ぴったりね。」
「そうね。」
そう言って、アスカを見た。
「ミサト達、何してるのかしら。」
奥から、加持一尉と葛城三佐が出てきた。
「おそーい、ミサト。」
「ごめーん。ちょっと待ってて。」
加持一尉が清算を済ませている。
葛城三佐が外に出ていった。

加持一尉が歩いてきた。
「加持さん、今日の予定は？」
アスカが加持一尉に聞く。
「とりあえず、松代で昼飯にしようかと思ってるけど。アスカは、どこがいい？」
「松代支部？」
「ハハハ。定鑑堂っていう旅館で、名物の長芋料理にしようかと思ってる。」
「へー。楽しみね。」
「二人は、松代支部には？」
「行ったことないわ。」
「私も。」
「じゃ、ちょっとだけ、寄ってみるか。」
「それもいいかもね。」

玄関の前に車が停まった。

「さ、行こうか。」
「ええ。」
加持一尉とアスカが立ち上がる。
私も立ち上がった。
「アスカ。」
アスカが振り向く。
「何？」
「私の前に、立たないようにしてね。」
「？」
「今日、ちょっと、危ないのよ。」
「．．．そう。」
アスカが真顔で私を見つめる。
「大丈夫。アスカは死なないわ。私が守るもの。」
「．．．」

「おーい、アスカ、レイ！」
加持一尉が私達を呼ぶ。
「はーい。
  行こう。」
そう言って、アスカが私に微笑む。
「ええ。」

「アスカ、荷物。」
「はい。」
「レイも。」
「はい。」

車に乗り込みながら、アスカが聞く。
「松代に行くの？」
「ええ。そのつもり。」
「着くのは？」
「ちょうどお昼時の予定。」
「そうなの。」
加持一尉が乗り込み、ドアを閉める。
「いい？」
「ああ。
  そうそう。アスカ達が松代支部を見たいってさ。」
「松代支部？了解。」
車が動き出した。

車は、急なカーブの続く山道を走り、ぐんぐんと高度を上げていく。
しばらくすると視界が開け、両側に山が見えた。
さらに高度を上げた後、だんだんと下っていく。
「ここだっけ？オリンピックがあったのは？」
「そう。１９９８年。」
「そうか。見る影もないな。」
「冬がなくなっちゃったから。」
「そうだな。」

山道を抜けると、温泉の看板をよく見かけるようになった。
車が町中を走っていく。

「．．．イ．．．レイ？」
目を開けた。アスカが私を見ている。
「アスカ。」
「松代支部、着いたわよ。」
「うん。ありがとう。」
起き上がって、車を降りる。
広い駐車場の向こうにドームが見えた。

「あれ、リツコかしら？」
ドアをロックしていた葛城三佐が言う。
葛城三佐の視線の先に、碇司令と赤木博士。
「そうだな。」
加持一尉が答える。
「リツコ！」
葛城三佐が赤木博士の方に歩き出す。
加持一尉が後を追う。
「レイ？」
アスカの声。アスカの方を見た。
「これ？」
「ええ。」
「そう。」
「行きましょ。」
アスカが真顔で肯いた。

「リツコ！」
「ミサト！久しぶり。」
「司令。ご無沙汰してます。」
「ああ。」
「リツコ、もしかして？」
赤木博士が悪戯っぽく微笑んで、碇司令の方を見る。
「あ・な・た。」
碇司令が赤木博士を見て、肯く。
「かぁー、やってらんないわね。加持、早くいきましょ。」
「そうだな。
  お幸せに、リっちゃん。
  司令、それじゃ、失礼します。」
「ああ。」
赤木博士が微笑んだ。
「いきましょ。」
葛城三佐が私達に言う。
アスカが二人に声をかける。
「それじゃね、リツコ、司令。」
「ええ。アスカ。」
３人が歩き出す。
私は、碇司令と赤木博士に頭を下げた。
「レイ。」
碇司令の声。
碇司令と赤木博士を見た。赤木博士が私を睨む。
「はい。」
「何か、困ったことはないか？」
「いえ。問題ありません。」
「そうか。」
「失礼します。」
二人に頭を下げ、歩きだそうとした。
「レイ？」
赤木博士の声。
「はい。」
赤木博士の方を見た。
「どうして、私の前に現れたの？」
「皆で旅行に来て、偶然に．．．」
「そう。」
赤木博士が銃を構える。
「私、やっぱり、あなたが憎いわ。」
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モニターのこちら側 Genesis 2:8 完 

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