お膳の脇に置かれた座布団に座る。
「食べきれるかしら？」
「太りそうね。」
アスカに答えながら、お膳の上を見回す。

焼き魚、練り物の煮物、山菜のおひたし、お刺し身、片栗でつつんだ海老の剥き身に甘く煮た栗をそえたもの、おそば、おしんこ、お吸い物．．．

思わず、アスカと顔を見合わせた。
「とりあえず、ご飯、よそうね。」
「いるかな？」
「いらない？」
そう言いながら、立ち上がり、ご飯をよそおうとお櫃の脇に膝をついた。
お櫃の脇にメモ。
『お食事の始まりに、お電話をお願いします。』
アスカを見た。
「なに？」
「他にもあるみたいよ。」
「じゃ、ご飯はなしね。」
「そうね。」
お櫃のふたを開けてみる。栗御飯だった。
「栗御飯だけど。」
「うー、涙が出るわね。じゃ、軽く一杯。栗優先でお願い。」
「了解。」
苦笑いしながら、答えた。

栗御飯の栗を拾って食べていた。
「どうして、こんなにおいしいのかしら。」
「そうね。」
「せめて、温泉に入りまくって帰らないと、大変そう。」
「失礼します。」
「はーい。」
仲居さんが入ってくる。
「鹿の肉のステーキです。」
鉄板にのった数枚の一口大の肉がジュウジュウと音を立てている。
鉄板の下では、何かが燃えている。
油の匂いがした。
仲居さんが、手早く私達の前の皿をよけて、鉄板、そして、たれの入った器を置く。
「冷めないうちにどうぞ。」
「はい。」
仲居さんが出ていった。

「レイ、大丈夫？」
「ええ。」
肉を取り、たれに浸して口に運んだ。
アスカが見ている。
「おいしい．．．のかな。」
アスカが肉を口に入れている。
「そうね。こんな感じよ。脂を抜くように料理したのを試してみるといいかもね。」
「そう。」
「あんまり無理して食べない方がいいわよ。」
「そうね。」

やっと、お吸い物の蓋を取った。
アスカを見ながら、お吸い物を飲みはじめる。
「はぁー。やっと終わったわね。」
「そうね。」
思わず、微笑んだ。
「ちょっと、休まないと。このまま、お風呂に入ったら、気分悪くなりそう。」
「．．．」

ＲＲＲ．．．
「はい、フロントです。」
「紫陽花の綾波ですけど。食事終わりました。ごちそうさま。」
「おそまつさまでした。」
受話器を置いた。

アスカが窓の脇の椅子に座り、お茶を飲んでいる。
アスカの前の椅子に座った。
お茶を一口。
「ふわぁああぁ。」
アスカが欠伸をする。
「眠くなるわね。」
「そうね。」

「失礼します。」
「どうぞ。」
仲居さんが器をかたしに来た。
手際よく器をかたしていく。

器をかたし終わると、男の人が入ってきて、お膳をかたし、布団を敷きはじめた。
布団を敷きおわると、男の人が出て行き、仲井さんが入ってきた。

「デザートです。」
私達の前にカットされたメロンが置かれた。
「あ、はい。」
「それでは、ごゆっくり。」

「食べようか？」
「ええ。」
メロンは、冷えていて、とてもおいしかった。

「お風呂行く？」
しばらくして、アスカが言った。
「ええ。」
アスカがバッグから、お財布を取り出している。タオルを、またトートバッグに入れている。
私も、そうした。
「行こうか。」
「ええ。」

夜の露天風呂。
月の光。肌にやさしく触れる夜気。空気と闇に包まれる感じ。辺りに響く虫の音。
アスカを見た。
「不思議な感じね。」
アスカに言った。
「そうね。」
アスカが月を見ている。
月を見ていた。

「ね、月を背にして立ってみてくれる？」
アスカが言う。
「なぜ？」
「いいじゃない。」
アスカが私を見ている。
「分かったわ。」
湯船の中、アスカから少し離れて立った。
「ふーん。」
「．．．」
「似合うわね。」
「．．．」
アスカが私を見ている。
「ヤシマ作戦。憶えてる？」
アスカが私に言う。
「知ってるわ。」
「そう。」
アスカが右側に視線を逸らす。
「マギのデータを見たの？」
アスカが私を見る。
「ええ。」
「そう。」

「ね．．．」
アスカが言う。
「何？」
「あのね．．．」
アスカがうつむく。
アスカ．．．
「何、泣いているの．．．？」
アスカが、勢いよく顔を上げ、私を見つめる。
「．．．」
「ごめんなさい．．．こういう時、どんな顔すればいいのか、わからないの。」
アスカが微笑みながら言った。
「笑えばいいと思うよ。」
アスカにゆっくりと微笑んだ。
アスカに抱きしめられた。

アスカと手を繋いで、お湯につかっていた。
「そろそろ出ようか。」
「ええ。」
ザバッ。
「少し冷ましていく？」
「そうね。」
アスカが湯船の縁に腰を下ろす。
アスカの脇に腰を下ろし、アスカの右手に左手を重ねた。

カン、カン．．．、カン。
アスカがパケットを打ち返した。
ガシャ。
「勝ちぃ！」
「アスカには、かなわないわ。」
「ジュースおごってね。」
「ええ。」

アスカがジャワティーのボタンを押す。
ガガッ、ガコッ。
アスカが缶を取り出す。
「サンキュー。レイは？」
「別に、いいわ。部屋に氷の入ったポットあったみたいだし。」
「だ?め。私がおごるんだから。」
「アスカ．．．」
「さ、何にする？」
「それ、少し貰っていい？」
「もちろん。」
「じゃ、これ。」
となりの自販機のファンタオレンジを指差した。
「そう。」
アスカがファンタオレンジのボタンを押す。
アスカが瓶を取り出す。
「はい。」
「ありがとう。」
アスカが微笑む。
「行こう。」
「ええ。」

窓の外を見ながら、ジャワティーを飲んだ。
アスカが私を見ていた。

歯を磨いて、布団に入る。
天井を見ていた。
「レイ？」
「なに？」
「布団つながない？」
「いいわよ。」
布団から出て、毛布を縦に半分に折り、敷布団をつなげた。
毛布を直し、布団に入った。
アスカが手を繋いでくる。
アスカの方を見た。
「おやすみ、レイ。」
アスカが微笑む。
「おやすみ、アスカ。」
アスカに微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 2:7 完 

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