気配を感じた。ピリピリした感じ。アスカ。
そのまま流していた。
「レイ？」
アスカの声の方を向いた。
「何？」
「お茶、いかない？」
「．．．」
アスカを見ていた。
「カフェテリアだけど。」
アスカが窓の方を見ながら言う。
「ええ。」
そう言って立ち上がった。

カフェテリア。
ケーキを選ぶ。
アスカは、前の日から頼んでおく、いつものチョコレートケーキ。
私は、今日は、ナポレオンパイにした。
飲み物。
アスカは、いつものエスプレッソ。
私は、今日はジャスミンティーにした。

アスカが、ホールを見回している。赤木博士と伊吹二尉がいた。
アスカの方を見た。
「テラスに行かない？」
「ええ。」

壁の方に歩いていく。アスカがテラスへのドアのリーダーにＩＤカードを通した。
プシューッ。
かすかに風が吹いていた。

手摺の側の、見晴らしのいいテーブルにトレイを置いた。
緑色の空間に緑の風がかすかに流れていく。
目の前にアスカ。
アスカがエスプレッソに口を付けている。
アスカが私を見ている。
「どうしたの？」
カップをトレイにおいて、アスカが言った。
「それ、おいしい？」
「これだけじゃ、おいしくないわ。ザッハトルテと一緒に飲むとおいしいのよ。」
そう言って、アスカは、チョコレートケーキをフォークで切りはじめた。
「一口、もらっていい？」
アスカが私を見て、微笑む。
「いいわよ。あたしにもくれる？」
「ええ。」
アスカがザッハトルテのトレイを私の前に置く。
アスカを見た。
アスカが微笑む。
「どうぞ。」
私は、ナポレオンパイを一口大に切って、フォークで刺した。
「はい。」
アスカの口の前に差し出す。
「レイ．．．」
アスカに微笑んだ。
アスカが、少し戸惑いながら、ナポレオンパイを口に含む。
アスカが、口を動かしているのを見ていた。
「どう？」
「おいしい。」
アスカが、なんとなく、顔を赤くしているような気がした。

「じゃ、今度、あたしね。」
アスカが、エスプレッソのトレイを私の前に置く。
アスカが、フォークに刺したザッハトルテを、私の口の前に差し出す。
「ありがとう。」
ザッハトルテを口に含んだ。生クリームの味が口の中に広がる。
噛むとチョコの味が。
アスカを見て微笑んだ。
「エスプレッソも飲んで。」
アスカがカップを指差している。
カップに口を付け、一口。
口の中がすっきりする。
「ね？」
「うん。」
自然に笑顔がこぼれた。
「でしょ？」

「ありがとう。」
そう言いながら、エスプレッソのトレイをアスカの前に置いた。
「どういたしまして。」
微笑みながら、アスカが言う。
「私も、明日から、それにしようかな。」
「だったら、早く頼まないと、駄目よ。」
「そうなのよね。」
そう言いながら、ナポレオンパイを口に運んだ。

「これ、飲む？」
ジャスミンティーを指差して、言った。
「うーん。後でいいわ。」
「そう。じゃ、後でね。」
アスカは、切ったザッハトルテに生クリームをのせている。

プシューッ。
ドアの開く音。
ドアの方を見た。
伊吹二尉が手を振っている。
私は頭を下げた。
アスカを見た。アスカも手を振っている。
伊吹二尉の後ろに赤木博士。赤木博士は、一瞬微笑むと歩き出した。伊吹二尉も歩きだす。
ドアが閉まった。

アスカが振っていた手を下ろした。
「あのマヤ．．．本物ね？」
アスカが私に問う。
「ええ。」
そう言って、アスカを見た。
「どうして？」
アスカが私を見ている。
「何が？」
「マヤが私に会いに来た理由。」
視線をアスカの向こうに移した。

人類補完計画が発動した世界。人々は一つになっていたが、徐々にＡＴフィールドが回復し、人々の心が無制限に混じることはなくなっていた。一人でいようと望めば、一人でいられる。他の人に会おうと望めば、他の人に会える。そういう世界に変化していた。

「気になっていたのよ、多分。」
「マヤが？」
「ええ。」
「どうして？」
「最後までモニターしていたから。アスカを。そして世界を。」
そう言って、アスカを見た。

「そう。」
目線を下げて、アスカが言う。
「見てみる？」
「まだ、見てなかったかしら。」
「多分、忘れてるだけ。」
「そう。」
アスカがエスプレッソのカップに口を付ける。
エスプレッソを一口。
アスカがカップを置く。
「じゃ、お願い。」
アスカが左手をテーブルにのせる。
その上に右手をのせた。
アンチＡＴフィールドを展開して、伊吹二尉の中のアスカと、アスカをシンクロさせる。精神汚染を起こさないように、コントロールしながら。
 

『やめて．．．アスカ．．．もうやめて．．．』
『殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる』
『ヒッ！？』
『シンジ君！！弐号機が！アスカが！アスカがあぁ！！』

『これが答えなの？私の求めていた．．．』
『！！』
『センパイ』
『．．．マヤ』
『センパイ、センパイ、センパイ、センパイ、あっ』

『先輩、朝ごはん、何がいいですか？』
 

アスカが私を見る。
「何度見ても、あまりいいもんじゃないわね。」
「．．．」
「ふう。」
アスカがため息をついた。

アスカが顔を右に向け、遠くを見ている。
アスカが私を見た。
「あのリツコは？」
「あれは、私。」
「そう。」
アスカが、視線を遠くに移した。
「リツコは？」
「碇司令といるわ。」
「そう．．．そう言えば、そうだったわね。」
「ええ。」
「碇司令は？」
「ユイさんといるわ。」
「そう。
  シンジは．．．」
「アスカといるわ。」
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モニターのこちら側 Genesis 2:0 完 

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