「だめです。この遠距離でＡＴフィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません。」
青葉が報告する。
「しかし、出力は最大です。もうこれ以上は。」
日向がごちた。
「弐号機、心理グラフ、シグナル微弱！」
マヤがモニターを受けてリツコが指示を出す。
「ＬＣＬの精神防壁は？」
「だめです。触媒の効果もありません。」
「生命維持を優先させて、エヴァからの逆流を防いで。」
「はい。」
モニターには、光に包まれた弐号機。
モニターを見て呟くリツコ。
「この光はまるでアスカの精神波長をさぐっているみたいだわ。
  まさか、使徒は人の心を知ろうとしているの？」
 

光に包まれている弐号機。光に包まれているアスカ。
 

おサルのぬいぐるみを抱いた昔の私がいる。
泣いてる。
「なんで私、泣いてるんだろう。もう泣かないって決めたのに。」

引き裂かれたサルのぬいぐるみ。
「どうしたんだ、アスカ。新しいママからのプレゼントだ。気にいらなかったのか？」
パパの声。
「いいの」
私の声。
「何がいいのかな？」

「私は子供じゃない。早く大人になるの。ぬいぐるみなんて、私にはいらないわ。」

ママがいる。
「だから、私を見て！」
ママが．．．
「ママ！ママ！お願いだから、ママをやめないで！」
「一緒に死んでちょうだい。」
ママが私に．．．
「ママ、ママ！お願いだから、私を殺さないで！」
「一緒に死んでちょうだい」
ママが私に．．．
「イヤ！私はママの人形じゃない」
「シーツをこうして．．．」
ママが私に．．．
「自分で考え、自分で生きるの！！」
「シーツをこうして．．．」

どこかで見た扉が開く開く開く開く開く．．．
「そして踏み出すの．．．」

ママが．．．
「パパもママもいらない。一人で生きるの」

「いや！そんなの思い出させないで！せっかく忘れてるのに掘り起こさないで！
　そんなイヤなこと、いらないの！もうやめて、やめてよぉぅ．．．」
　ママ．．．私．．．いらないの？

「汚された、私の心が。加持さん、汚されちゃった．．．どうしよう、汚されちゃったよぅ。」

雨の中、光に包まれて立つ弐号機
 

発令所
弐号機のモニターを続けるマヤ
「パルス微弱！パイロット危険域に入ります！」
トリ型の使徒をモニターする青葉
「目標、変化なし。相対距離、依然変わらず。」
日向がマギの分析を告げる
「零号機の射程距離内に移動する可能性は０．０２％です。」
それを受けてミサトが呟く。
「零号機を空輸。空中から狙撃するか．．．いえ、だめね。接近中に撃たれたらおしまいだわ。」
「ぼくが初号機で出ます！」
エントリープラグからシンジが叫ぶ。
それをいなす冬月と碇
「いかん。目標はパイロットの精神を侵食するタイプだ。」
「今、初号機を侵食される事態は、さけねばならん。」
再びシンジ
「だったら、やられなきゃいいんでしょ！！」
碇が冷静に告げる
「その保証はない。だが出撃しなければ、消失の可能性は零だ。」
 

初号機エントリープラグ内
「でも、このままじゃ、アスカが！」
 

発令所
シンジのその声を受けたのか、碇が指示を出す。
「かまわん。レイ、ドグマを降りて、槍を使え。」
「ロンギヌスの槍をか．．．碇、それは！」
「Ａ．Ｔ．フィールドの届かぬ、成層圏の目標を倒すには、それしかない。」
口をつぐむ冬月
「レイ、急げ。」
驚いて碇を見るミサト
「しかし、アダムとエヴァの接触はサードインパクトを引き起こす可能性が！あまりに危険です！碇司令！やめてください！」
沈黙の碇
向き直って呟くミサト
「うそ、欺瞞なのね。セカンド・インパクトは使徒の接触が原因ではないのね。」
 

リフトに乗り、ドグマを下降する零号機。
区間開放と、零号機通過のアナウンスが響く。
 

「サード・インパクトは起きない、というわけね、そんなことでは。
　だったら、セカンド・インパクトの原因は、何？」
唇を噛み締めるミサト
 

ターミナルドグマに降り立つ零号機。
 

「碇、まだ早いのではないか？」
碇の頭に顔を近づけ、小声で話し掛ける冬月。
「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。チャンスだ、冬月。」
「しかし、な。」
「時計の針は元には戻らない。だが自らの力で進めることはできる。」
 

十字架に槍で磔られたアダムに向かって、ＬＣＬの海に腰までつかりながら歩を進める零号機。
 

「老人達がだまってないぞ。」
「ゼーレが動く前に、全て済まさねば、ならん。」
 

槍に手をかけ、引き抜いていく零号機。
槍が抜けきった途端、再生するアダムの下半身。
 

光に包まれている弐号機。
 

碇が再び口を開く
「今、弐号機を失うのは得策ではない。」
「かといって、ロンギヌスの槍をゼーレの許可なく使用するのは、めんどうだぞ。」
「理由は存在すればいい。それ以上の意味はないよ。」
「理由？お前が欲しいのは、口実だろう？」
冬月が、呆れたように言った。
 

雨の市街に地下から現れる零号機。
手に赤いロンギヌスの槍。
ロンギヌスの槍を両手で掲げる零号機。
「零号機、投擲体勢。」
「目標確認。誤差修正よし。」

槍を構える零号機。
 

「あれがロンギヌスの槍。」
ミサトが呟いた。
「カウントダウン入ります。」
マヤがカウントを始める。
「１０秒前。」
 

奥歯を噛み締めるレイ。
 

「８、７、６、５、４、３、２、１」

「０」
 

するどい踏み込みと共に全身をバネのようにしならせて槍を投げる零号機。

２本の刃がからみ、１本となった槍が速度を増しながら雨の中を上昇していく。
雲に穴をあけ、成層圏を超え、使徒の展開するＡ．Ｔ．フィールドを難なく突破すると、
使徒のコアを接触することなく破壊した。
使徒が光を放ちながら消滅していく。
 

発令所
「目標、消滅。」
「エヴァ弐号機、解放されます。」
「ロンギヌスの槍は？」
冬月の問いに日向が答える。
「第一宇宙速度を突破、現在月起動に移行しています。」
「回収は不可能に近いな。」
「はい。あの質量を持ち帰る手段は、現在のところありません。」

いつものポーズの碇。
 

市街。雨があがり、日が射している。停止したままの弐号機。
 

「弐号機、グラフ正常位置。」
「パイロットの生存を確認。」
「機体回収は第２ケイジへ。」
「６７番ルートを使用してください。」
「アスカは？」
ミサトの問いに日向が答える。
「パイロットの生存は確認、汚染による防壁隔離は解除されています。」
 

ビルの屋上。
水たまりに映る立ち入り禁止のテープとプラグスーツ姿のシンジの足元。

「．．．よかったね、アスカ。」

立ち入り禁止のテープの向こうに、ヒザをかかえうずくまったままのアスカ。
「うるさいわね！ちっともよかないわよっ！
よりにもよって、あの女に助けられるなんて．．．
あんな女に助けられるなんて．．．
そんなことなら死んだ方がマシだったわよっ！」

「だいじょうぶ？」
あの女の声。
思わず、立ち上がって、あの女を睨み付けた。
「なによ、あんた。見れば分かるでしょう？！大丈夫なわけないじゃない！
　それとも何？レイ様、助けてくださって、ありがとうございました、とでも言って欲しいわけ？！」
思わず、叫んだ。
「あなたが死んだら、私、泣くと思うわ。」
そう言うと、あの女は踵を返して歩いていった。
「なんなのよ！
　あんた、何様のつもりよ！
　．．．なんなのよ．．．」
コンクリートに涙が落ちていった。
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モニターのこちら側 Genesis 1:2 完 

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