ガラスの向こうに、ジオフロントの白い光と緑。
ミサトとリツコがコーヒーを飲んでいる。
リツコが口を開いた。
「アスカのプライド、ガタガタね。」
「無理ないわよ、あんな負け方しちゃ。というよりシンジ君に負けた、と思い込んでる方が、大きいわね。
  もう、限界かしらね。三人で暮らすのも。」
ジオフロントの光に向かって、ミサトが呟く。
「臨界点突破？楽しかった家族ごっこもここまで？」
リツコの皮肉。
「猫で寂しさ紛らわせてる人に、言われたかないわね、そんな台詞。」
ミサトから顔を背け、床を睨むリツコ。
「ごめん。余裕ないのね、私。」
 

痛い．．．薬．．．早く効きなさいよ．．．
洗面台についた手が、だんだん冷えてくる。
「女だからって何でこんな目にあわなきゃなんないのよ。」
鏡に映る、少し蒼い顔をした自分。
「子供なんて絶対いらないのに。」
フーッ
無理矢理息をついた。
帰ろう．．．
歩きはじめた。ほんの少し前かがみな気がする。足がなんとなくもつれる。
「そのうち慣れるわよ．．．」
昨日のミサトの言葉が浮かんだ。

エレベーターの前に立ってる。
早く来なさいよ。もう、どいつもこいつも、むかつくわね。
ドアが開いた。
ファースト！
エレベーターにファーストが乗ってる。どうする？
思わず奥歯を噛み締めて、右足を踏み出した。
ドアが閉まる。

エレベーターの駆動音と階数ダイヤルの刻む音がしている。
あいつは黙ったまま。ふん、人形女が。
私だって、話しかけたりするもんか。
相手がファーストだと、沈黙も気まずくなくていいわ。

「心を開かなければ、エヴァは動かないわ。」
突然のファーストの声。
何よ、こいつ。
「心を閉ざしてるってぇの．．．この私が。」
「そう。エヴァには心がある。」
何言ってんのよ、この馬鹿が。
「あの人形に？」
「わかってるはずよ。」
くっ
「はんっ！あんたから話しかけるなんて、明日は雪かしらね。」
ファーストは黙ってる。
何よ、馬鹿にして！
「何よ！私がエヴァに乗れないのがそんなに嬉しい！？
心配しなくたって使徒が攻めて来たら、無敵のシンジ様と初号機がやっつけてくれるわよ。
私たちは何もしなくってもいいのよ！
シンジだけがいればいいのよっ！」
ファーストは黙ってる。
こんな、人形女にまで．．．
「あぁあ。シンジだけじゃなく、機械人形みたいな、あんたにまで同情されるとは、この私もヤキがまわったわね。」
「私は人形じゃない。」
反論するファースト。
「うるさいっ！人に言われたままに動くくせに！あんた、碇司令が死ねといったら死ぬんでしょ！」
「．．．」
沈黙が流れる。
「ふっ、図星ね。何か言いたいことがあったら言ってみなさいよ！この人形女！」
「．．．怖いわ。」
「え？」
何か意外な言葉を聞いたような気がした。
「．．．死ぬのは怖いわ．．．」
「．．．」
ファーストの目に涙が光っているような気がした。
「どうして、そんなこと言うの？」
ファーストが、私を見ていた．．．
「．．．」
沈黙が流れた。

「ごめん。」
なんとなく謝っていた。

エレベーターのドアが開いた。
「じゃ。」
なんとなく声をかけていた。
なんとなくファーストが微笑んだような気がした。

なんなのよ、あいつは。
なんとなく微笑んでいた。
 

コンフォート１７マンション。
ベッドで横になったまま天井を見ているシンジ。
マンションの前には、ネルフ諜報部員が車を停めている。
 

２年Ａ組の教室
「シンジ、今日も来ないな。」
レイの机を見ながらケンスケが言う。
「綾波はいつものこととして。」
教室を見回しながらヒカリが続ける。
「アスカも来ない。鈴原もまだ退院出来ないし。」
「学校どころじゃないんだな、今や。」
ケンスケがごちた。
 

弐号機ケイジ。
アナウンスが流れる。
「エヴァ弐号機のシグナル、問題無し。」
「ＶＡの接合、及び融合は正常。予定どおりです。」

ほぼ元通りの弐号機の前に立つアスカ。
アスカが弐号機に話しかける。
「あなたは私の人形なんだから、黙って私の言う通りに動けばいいのよ！
何で、兵器に心なんているのよ。ジャマなだけなのに。
とにかく、私の命令に、逆らわなきゃ、いいのよ！」
沈黙が流れる。
なにか言いなさいよ．．．
「ファーストみたいなわけにはいかないか．．．」

ケイジ内に警報が響く。
「総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦、用意。」
青葉のアナウンスだった。
「使徒？まだ来るの！」
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モニターのこちら側 Genesis 1:0 完 

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