胸から頬を離し、先輩の顔を見た。 
「とりあえず、下りましょう。」 
微笑めた気がする。 
「そうね。」 
先輩も微笑んでくれた。 

ロープウェイから空を見ていた。 
右手に先輩の左手。 

ロープウェイを降りて改札を出ると、指輪を売っていた。 
なんとなく、立ち止まって見入ってしまっていた。 
「マヤ？」 
「あ、先輩。すみません。行きましょう。」 
歩きはじめた。 
「また、エレベーターで下ります？」 
「階段で下りましょうか。」 
「はい。」 
特に何を言うともなく階段を下りて行った。 

山麓駅の建物から出た。日差しが眩しい。 
「次は、どこに行くの？」 
「．．．強羅に行きません？」 
「強羅．．．ここからだと、バス？」 
「ええ。」 
「そう。じゃ、とりあえずダイヤを確かめなきゃ。」 
「ええ。」 
階段を下りて、バスの案内所に行った。 
「あの、強羅にいきたいんですけど。」 
「２番から１時半に出るよ。」 
「ありがとう。」 

「あと１５分ですね。」 
「そうね。お手洗い、波止場に行く途中にあったわよね。」 
「ええ。私もいっておこうかな。」 
「じゃ、いきましょ。」 
「なんだか、学生みたいですね。」 
「そうね。」 
二人して笑った。 

お手洗いから戻ってきて、バス停の前の長椅子に腰を下ろした。 
「お土産、いいですよね。」 
後ろの土産物店を見ながら言った。 
「病欠なんだから、お土産なんかだめよ。」 
「それもそうですね。」 
他愛もない話をしている内にバスが来た。ターミナルのせいか少し早いみたい。 
遊覧船に乗るときに買ったクーポンを見せてバスに乗り込む。 
「涼しいわね。」 
「ええ。」 
中ほどの席に並んで座った。 
しばらくすると、テープのアナウンスがして、バスが走り出した。ロープウェイの下を潜り抜けて。 

「．．．ヤ、マヤ。」 
「ん．．．先輩？」 
いつのまにか眠っていたみたい。先輩の肩に寄りかかっている。 
「もうすぐ着くわよ。」 
「あ、はい。」 
バスが止まった。 

「それで、強羅に来たということは．．．」 
「温泉に入りましょう。」 
「やっぱり。ま、それもいいかもね。」 
そう言って、先輩、笑ってる。よかった。 
しばらく、ぶらぶら歩いて、一軒の宿に入る。 
「すみません。お風呂に入りたいんですけど。」 
「はい、結構ですよ。お二人ですか？」 
「はい。」 
「お湯代、タオル付きで１０００円になります。」 
「はい。」 
２０００円を渡した。 
タオルを出してきてくれる。 
「露天風呂の方がよろしいですか？」 
先輩の方を見た。先輩がうなずいている。 
「はい。」 
「では、こちらへ。」 

「それでは、ごゆっくり。」 
「はい。」 
露天風呂の女風呂に案内された。 
「入りましょ。」 
「はい。」 
中に入ると、時間が早いせいか、他には誰も入っていなかった。 
先輩が服を脱ぎはじめる。スカートの合わせを外して、下ろし、足を抜いて、たたんでかごに入れる。ブラウスのボタンを外して．．． 
「？」 
先輩が、私の方を見てる。 
「どうしたの？」 
「え？あ、あの．．．」 
「あんまり見ないでね．．．恥ずかしいから。」 
「ご、ごめんなさい。」 
先輩、苦笑いしてる。 
私．．． 
頬が熱い。 
急いで服を脱ぎはじめた。 

お湯を桶に汲んで、手を入れてみた。やっぱり、ちょっと熱い。まず、足にかけた。 
「あつっ」 
次に胸から下にかけて、最後に肩からかけた。 
周りを見回すと、先輩は、もう、湯船に体を沈めている。 
湯船に足を入れ、静かに体を沈めていく。熱さが体になじみはじめた。 
「ふー。」 
息をついた。 
「いいお湯ね。」 
「ええ。」 
露天風呂は周りを柵、そして木で囲んであった。 
見上げると白っぽい夏空が切り取られてある。 
ざばっ。 
先輩が、お湯から上がって、湯船の縁に腰を下ろしている。 
私は、先輩と並んで腰を下ろした。 

先輩を見た。 
「先輩。」 
「何？」 
先輩が私を見る。 
「今日、泊っていきません？」 
「．．．」 
「だめ．．．ですか？」 
先輩が柵に視線を移す。 
「ここからだと、ちょっと、朝が辛いわね。」 
「そうですか。」 
「次の休みにでも、泊まりに来ましょう。それじゃ、だめ？」 
先輩が私を見た。目線を湯船にそらしてしまう私。 
「え、ええ。」 
次の休み．．．いつなんだろう．．． 
「ごめんね、マヤ。」 
「いえ。いいんです。私の方が悪いんですから。」 
「ごめんね．．．」 
先輩を見た。 
先輩、俯いて湯船を見ていた。 

「先輩？」 
先輩が私を見る。 
「何？」 
視線を湯船に落とした。 
「．．．」 
「？」 
「あの．．．」 
「．．．」 
先輩の方を見た。 
「昨日、どうして来てくれたんですか？」 
先輩が、少し驚いたような表情をした。次の瞬間、困ったような表情に。 
先輩、俯いて前の湯船を見ている。 
先輩を見ていた。 
「そうね．．．」 
先輩、湯船の中で足を軽く泳がせている。 
「．．．」 
沈黙が流れた。 
「信じなくちゃいけない．．．って、呟くのに疲れたのかもしれない．．．」 
先輩の目に涙が光ったような気がした。 

「マヤ．．．」 
先輩が私を見た。 
「もし、私が．．．」 
「．．．」 
「．．．ううん。何でもない。」 
そう言って、先輩は、私から目をそらし、湯船に視線を落とした。 
「．．．」 
立ち上がって、先輩の前に回った。 
「！」 
先輩が私を見上げる。 
少しかがんで、先輩の目を見た。 
「止めれば．．．いいんですよね。」 
「．．．」 
先輩が、私を見ている。 
先輩が、微かに肯いた。 
「先輩．．．」 
先輩が目を閉じた。 
先輩を抱きしめて、唇を合わせる。 
先輩の舌に舌を絡めた。 
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モニターのこちら側 Genesis 0:3 完 

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