先輩がフロントでチェックアウトしている。
先輩が振り向き、私達を見る。
「じゃ、行きましょうか。」
「「はい。」」
たたきに私達の靴が並んでいる。
玄関の前には、ハイヤーが止まっていた。
玄関を出ると、ハイヤーのドアが開き、運転手さんが出てきた。
「赤木様？」
「はい。」
「お荷物お渡しください。」
先輩が荷物を渡す。
「どうぞ。」
運転手さんが、車の方に手を向ける。
先輩が助手席に乗りこむ。
運転手さんが私を見る。
「すみません。」
荷物を渡した。ハイヤーに乗りこむ。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
レイが荷物を渡した。

バタン。

運転手さんが、トランクを閉め、乗りこんでくる。
「軽井沢ですね？」
運転手さんが言う。
「はい。」
先輩が答えた。
「途中、どこか寄られますか？」
「いいえ。直接行ってください。」
「かしこまりました。」
車が緩やかに動き出す。
運転手さんが、メーターを貸切にした。

温泉街を出て、川沿いの道をしばらく行く。
川がなくなると徐々に眺望が開け、右手に浅間山が見えた。
「浅間山ね。」
先輩が呟く。
「そうですね。」
そう呟いた。

しばらく山の中を走ると、町並みが現れ、そして、軽井沢駅に着いた。
先輩が請求書にサインしている。
「ありがとうございました。」
ハイヤーが走り去っていった。

「さて．．．」
先輩が、そう言って、バッグから携帯を取り出す。
「どれだっけ．．．」
そう言いながら、携帯の短縮ダイアルを押す。
先輩が、携帯を耳に当てた。

「ミサト？」

「ええ。今、軽井沢駅前よ。」

「了解。それじゃ。」

先輩が、携帯のオンフックボタンを押す。
先輩が私達の方を見る。
「すぐ来るって。」
「そうですか。」
点滅を始めた信号機の出す、カッコウの鳴き声が耳についた。

葛城さんの車がロータリーに入ってきた。
私達の前に止まる。
私達の側のウィンドウを開けて、葛城さんが、車の中から声をかける。
「ごめーん、遅くなって。乗って。」
「了解。」
先輩がトランクに歩いていく。私もそうした。
トランクが開く。
先輩がバッグをトランクに入れる。
「マヤ。」
先輩が私を見る。
「はい。」
トランクにバッグを入れた。
「レイ。」
「はい。」
レイがトランクにバッグを入れる。
先輩がトランクを閉めた。

ドアを開けて、シートを倒す。
とりあえず、後部座席に乗り込んだ。
先輩が隣りに乗りこんでくる。
先輩を見た。
先輩が微笑む。
先輩に微笑んだ。
レイがシートを直し、シートに座る。
レイがドアを閉めた。
レイがシートベルトをしている。
「いい？」
葛城さんが、レイに言う。
「はい。」
レイが答えた。
「どこにする？」
葛城さんが言う。
「そうね。」
先輩があいづちをうつ。
「かぎもとや？」
「そうしようか。」
「了解。」
車が動き出した。

踏み切りの脇の信号で、車が止まる。
「“かぎもとや”って．．．」
先輩に聞いた。
「ああ。昔からあるお蕎麦屋さんよ。」
「そうなんですか。」
「おいしさは、まあ、それなりかな？」
先輩が葛城さんに聞く。
「ま、そうね。」
葛城さんが答える。
「１０分くらいよね。」
「そ。」
葛城さんが答える。
「駅２つ分くらいのところにあるんだけど。」
「そうなんですか。」
車が動き出した。

車が、かぎもとやの駐車場に入り、止まる。
「はい、お疲れ様でした。」
そう言って、葛城さんがエンジンを切る。
レイが、シートベルトを外し、ドアを開ける。
レイが車を降りて、シートを倒した。
葛城さんもシートを倒した。
シートに手をついて、車を降りた。

「何名様でしょうか？」
「４名です。」
「こちらへ、どうぞ。」
座敷に案内された。
靴を脱いで、座敷にあがる。
壁に目を走らせ、お品書きを見る。
「わりこそば？」
葛城さんが言う。
「そうね。」
先輩が答える。
「それが、お勧めなんですか？」
誰とはなしに聞いた。
「ま、そんなところ。」
葛城さんが答えた。
「レイは、何にする？」
葛城さんが聞く。
「同じものを。」
「了解。多かったら残してね。」
「はい。」
「マヤは？」
葛城さんが言う。
「じゃ、同じもの。」
「了解。
  すみませーん。」
葛城さんがお店の人に声をかけた。

「お待たせしました。」
給仕さんが、お盆に載ったお蕎麦を、私達の前に並べていく。
「ごゆっくり。」
給仕さんが離れていった。
「じゃ、食べましょう？」
葛城さんが、割り箸を割って、最初の器をお盆の上に広げはじめた。

「ここは、何度か来たことあるんですか？」
先輩に聞いた。
「３人で、何度か来たのよね？」
先輩が葛城さんに言う。
「そ。２限と３限が休講になったときとか、ここにお昼食べに来たりしたのよね。
  あと、研究室の突発的ドライブとかさ。」
「突発的ドライブ。懐かしいわね。」
「あのころは、無茶してたからなー。夜中に、いきなり、『日本海が見たい！』かなんか言って車ころがして、夜明けの日本海を見て、そのまま、ここにお昼食べにきたりしたもんね。」
「そうそう。そのまま、研究室に戻って、プログラミングで徹夜したりして。」
「若かったわよね。」
「まったく。」
二人が笑いながら、次の器から、お蕎麦を取り、汁につけた。

先輩と葛城さんが蕎麦湯を飲んでいる。
レイが、薬を取り出して、飲んでいた。
「そろそろ行く？」
葛城さんが言う。
「そうね。」
先輩がレシートを取る。
「さんきゅー。」
葛城さんが言う。
「どういたしまして。」
「私、トイレ寄ってくから。」
「了解。私も。」
「あ、私も。」
私も言った。
「了解。レイは？」
先輩がレイを見る。
「はい。」
レイが答える。
「ちょっと時間かかりそうよ。」
先輩が葛城さんを見る。
「了解。」
葛城さんが苦笑いした。
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