レイがシートを直し、車に乗りこむ。
レイがドアを閉め、シートベルトを締めた。
「いい？」
葛城さんが言う。
「はい。」
レイが呟く。

「どこに行こうか？」
葛城さんが、バックミラー越しに先輩を見る。
「そうね。どこがいいかな。」
先輩が、視線を上に逸らす。
沈黙が流れた。

「雲場ノ池、行きましょうか。」
先輩が言う。
「何も無いわよ？」
葛城さんが答えた。
「いいの。」
「了解。」
車が動き始めた。

先輩を見た。
「雲場ノ池って．．．」
「まあ、ただの池よ。」
苦笑いしながら、先輩が言う。
「そうなんですか。」
「クレソンが自生してる、眺めのいいところ。」
「．．．」
「ね、ミサト？」
「へいへい。」
先輩が私を見る。
「デートコースだったのよ。」
先輩が視線を葛城さんの方に投げる。
「そうなんですか。」
バックミラー越しに葛城さんを見た。
「煩いわね。」
葛城さんが言う。
「フフフ。」
先輩が、いたずらっぽく笑った。

線路沿いをしばらく走った後、左に入り、少し行ったところで右に入ると、まもなく車が止まった。
「お疲れ様。」
葛城さんが言う。
左の窓から、結構奥行きのある池が見えた。
レイがシートベルトを外す。
ドアを開け車から降り、シートを倒した。
先輩が車から降りる。
「マヤ？」
葛城さんが外から見ている。
「あ、はい。」
シートに手をついて、車を降りた。

「一回りしてくる？」
葛城さんが言う。
「ええ。」
先輩が答えた。
「じゃ、私らは、ここで待ってるから。」
「いいの？」
「なんなら、どこか行ってるけど、一周２００メートルくらいだから、そんなに長くいないでしょ？」
「ええ。」
「それじゃ、ごゆっくり。」
「悪いわね。」
「いいってことよ。」
葛城さんが、微笑んで、先輩に手を振った。
先輩が、手を振る。
私は、頭を下げた。
レイが手を振っていた。

先輩と手を繋いで、池の辺を巡る小道を歩いていた。
「先輩？」
足元を見ながら呟いた。
「何？」
「．．．」
「．．．」
「なんでもありません。」
「そう。」
沈黙が流れた。

切り株のようなもので作った椅子の並んでいるところがあった。
「ちょっと座っていきません？」
先輩に言った。
「そうね。」
椅子にティッシュを敷いて、腰を下ろした。
隣りの椅子に先輩。
池を見た。
緩やかな風に漣が流れていく。
木の葉が音を立てている。
「静かですね。」
「そうね。」
「ずっと、このままでいられたらいいのに。」
「そうね。」
先輩を見た。
先輩が私を見ていた。
「先輩。」
先輩の手が私の顎に触れる。
「マヤ。」
先輩の唇が私の唇を塞いだ。

先輩と手を繋いで、池の向こうに見える山を見ていた。
「この山．．．」
「離山というの。」
「そうなんですか。」
沈黙が流れた。

「行きましょうか。」
先輩が呟く。
「はい。」
先輩が立ちあがる。
私も立ちあがった。
先輩と元来た方へ歩き出す。

車に近づくと、ドアが開いて、レイが降りてきた。
「お待たせ。」
レイに言った。
「いいえ。」
レイが言う。
車に乗りこんだ。
先輩が乗りこんでくる。
「お疲れ。」
葛城さんが言う。
レイが車に乗った。
「次は、どこに行こうか。」
葛城さんが言う。
「そうね。軽井沢教会かな。」
先輩が答える。
「了解。鹿嶋ノ森の方から行こうか。」
「それもいいかな。」
「了解。」
車は、ユーターンして、入ってきた道を右へ出た。

森の中をしばらく走ると、急に街中に出て、少し行くと教会に着いた。
 

１４３４ 軽井沢教会
「やっぱ、写真撮るわけ？」
葛城さんが言う。
「よく分かったわね。」
先輩が言う。
「そんなの誰だって分かるわよ。まったく。」
「そういう訳で撮ってくれる？」
そう言いながら、先輩がデジカメを葛城さんに渡す。
「了解。じゃ、適当に並んで。」
「マヤ。」
先輩が私を見る。
「はい。」
二人で、教会の建物の入り口の前に歩いていく。
「ここでいいかな。」
先輩が言う。
「はい。」
入り口の少し前に並んだ。
「いいわよ。」
先輩が葛城さんに言う。
「オッケー。じゃ、撮るわよ。はい、チーズ。」

カシャ。

葛城さんが、デジカメのモニターを見ている。
葛城さんが、ＯＫのジェスチャーをする。
葛城さんに微笑んだ。
「レイも入って。」
葛城さんがレイに声をかける。
「はい。」
レイが歩いてきた。
レイが私の隣りに立つ。
「撮るわよ。はい、チーズ。」

カシャ。

葛城さんが、デジカメのモニターを見ながら、ＯＫのジェスチャーをする。
「今度は、ミサトが入って。」
先輩が言う。
葛城さんが、通りすがりのカップルに声をかけている。
葛城さんが、男の方に、デジカメを渡し、こちらに歩いてきた。
「撮ってくれるって。」
葛城さんが先輩の隣りに立った。
「じゃ、撮ります。はい、チーズ。」
男が、デジカメのモニターを見て、こちらに微笑んだ。
「ありがとうございます。」
葛城さんが、頭を下げながら、男に近づいて、デジカメを返してもらった。

葛城さんが私達の方に歩いてくる。
「はい。」
デジカメを先輩に渡す。
先輩がデジカメのモニターを見る。レイと、モニターを覗き込んだ。
「ＯＫ？」
葛城さんが、私達を見る。
「ええ。」
先輩が答える。
「帰ったら、写真、適当に送っておいて。」
「ええ。」
先輩が言った。
 

レイがドアを閉める。
「今、３時少し過ぎだから、そろそろ、帰る？」
葛城さんが言う。
「そうね。ここからだと３時間位かかるし。」
先輩が答える。
「そ。」
「じゃ、よろしくね。」
「了解。」
車が動き出した。
 

１８３６ 先輩の家の近くの駅のロータリー

「夕飯、どうする？」
先輩が葛城さんに言う。
「あ、私はいいわ。」
葛城さんが答える。
「そう。じゃ、私も帰るから。今日は、ありがとう。」
「どういたしまして。お疲れ様。」
「それじゃ、また明日。」
「ええ。」
そう言って、葛城さんが車に乗りこむ。
レイも乗りこんだ。レイが私達に頭を下げる。
葛城さんがバックミラー越しに手を振る。車が動き出した。
先輩が手を振る。
私は、軽く頭を下げた。
葛城さんの車が見えなくなった。

「夕飯、家で食べる？」
先輩が言う。
「はい。」
先輩を見た。
「じゃ、ちょっと買い物していこうか。」
先輩が微笑む。
「はい。」
先輩に微笑む。
先輩と歩き出した。
 
 

ルノー車中

「レイ？」
ミサトが口を開く。
「はい。」
前を見たまま、レイが答えた。
「いつまで続けるつもり？」
ハンドルを握りながら、ミサトが呟く。
少しの間の後、レイが口を開く。
「時が、走り出すまで。」
沈黙が流れた。

ヘッドライトの先の夕闇を見ながらミサトが呟く。
「明日は無限に続くわ。」
少しの間の後、レイが口を開く。
「私達も無限に生きていられる。ここでは。」
沈黙が流れた。

「そうね。」
ミサトが呟いた。
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モニターのこちら側 Genesis 0:x 完 

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