宿に戻ると、８時５分前だった。
とりあえず、部屋に戻る。
ドアを開けると電話が鳴っていた。

「はい。」
『食事の用意ができましたので。お部屋まで、ご案内いたしますが、よろしいでしょうか？』
「はい。あの、昨日と同じ部屋ですか？」
『はい、そうです。桔梗です。』
「そしたら、行きますので。」
『よろしいですか？』
「はい。」
『申し訳ありません。お待ちしております。』
「はい。」
『ガチャ。』

受話器を置いて先輩の方を見た。
「昨日と同じ部屋だそうです。」
「そう。じゃ、行きましょう？」
「はい。」
ポーチを持って、立ちあがった。

廊下に出ると、レイが、レイの部屋のドアの前に立っていた。
「レイ？」
レイが私達を見て、微笑んだ。

桔梗に入ると、朝食が用意されていた。
焼き魚に、焼き海苔、御新香、豆腐、ハムエッグ。
先輩が、御膳の上を見ている。
「昨日と同じみたいね。」
先輩がレイを見る。
レイが昨日と同じ席に座った。

仲居さんが、ご飯をよそい、お吸い物の椀を置いていく。
電話が鳴った。
仲居さんが電話を取る。

「はい。」

「はい。」

仲居さんが、受話器を押さえながら、先輩の横に歩いていく。
「赤木様、葛城様から、お電話だそうです。」
「はい。」
先輩が受話器を受け取り、耳にあてる。

「もしもし。」

「はい。」

「はい。すみません。」

「何かあったの？」

「それで？」

「ええ。」

「分かったわ。軽井沢駅前で待ち合わせでいい？」

「ええ。」

「分かったわ。電車のキャンセル、よろしくね。」

「うん。ありがとう。」

先輩が受話器を仲居さんに渡す。
「ありがとうございます。」
「いいえ。」
仲居さんが受話器を電話に置く。
「それでは、ごゆっくり。」
仲居さんが出ていった。

「じゃ、いただきましょう？」
先輩が言う。
「はい。」
お吸い物の蓋を取り、お吸い物を啜った。

「葛城さん、何て？」
先輩に聞いた。
「軽井沢で、お昼食べようって。」
「なるほど。」
「まあ、色々回るわけには行かないと思うけど。」
「そうですか。」
「明日、休みじゃないしね。」
先輩が私を見て、苦笑する。
私も苦笑した。

湯のみにお茶を注いでいく。
先輩、レイ、そして自分の前に湯のみを置いた。
先輩がお茶を啜る。
私もそうした。
レイが湯のみに口をつける。
「この後、温泉入ります？」
先輩を見た。
「そうね。」
先輩が私を見る。
「レイは？」
レイを見る。
「入ります。」
「すぐ入ります？」
先輩を見た。
「そうね。１０時出発だし。
  ここから軽井沢まで、１時間ちょっとかかるから。」
「じゃ、そうしましょう。」
レイを見た。
レイが頷いた。
 

「菖蒲の伊吹ですけど。食事終わりましたので。」

「はい。」

受話器を置いた。
先輩とレイを見た。
先輩とレイが頷く。
 

先輩と湯船の端に腰掛けていた。
レイが湯船の中から、空を見上げている。
「朝は、空気が引き締まった感じがしますね。」
周りに巡らされた垣を見ながら言った。
「そうね。」
先輩が答える。
先輩が湯船に体を沈める。
私もそうした。
レイが立ちあがり、私達の脇に歩いてきた。
「出てます。」
レイが言う。
「そう。」
先輩が言った。

ザバッ。

レイが内風呂のドアを開けて中に入っていった。
「先輩？」
先輩を見た。
「何？」
先輩が私を見る。
空を見た。
「知ってるんですね．．．」
空を見ながら言った。
沈黙が流れた。

「そうね．．．」
先輩が呟く。
先輩を見た。
先輩が空を見ていた。

ザバッ。

立ちあがり、先輩の前に回った。
「先輩？」
先輩を見つめる。
「マヤ．．．」
湯船に体を沈める。
先輩の唇に唇を合わせた。
 

脱衣所には、誰もいなかった。
「先輩？」
タオルを持って、先輩に近づく。
「体は、自分で拭いたほうがいいわ。冷えるから。」
先輩が体を拭き始める。
私も、そうした。

先輩の髪をブロウしていく。
「これでいいわ。ありがとう。」
「いいえ。」
先輩が椅子から立ちあがる。
「マヤ。」
「はい。」
先輩が私の髪をブロウし始めた。

荷物をまとめる。

「いい？」
先輩の声。
「はい。」
先輩が電話をかける。

「出ましょう？」

「それじゃ。」

先輩が受話器を置く。
先輩が立ちあがって、部屋を見まわす。
「忘れ物はないみたいね。」
先輩が荷物を持って、部屋を出る。
先輩が洗面所のドアを開けて中を見た。
「いいみたいね。」
先輩が私を見る。
「いい？」
先輩が微笑む。
「先輩．．．」
先輩に体を近づけて、顔を近づけた。
「マヤ．．．」
先輩に口付ける。
先輩の舌に舌を絡めた。
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