「ところで、電車って？」
葛城さんが口を開く。
「政府特別列車よ。」
吐き捨てるように、先輩が言う。
え？
「ま、仕方ないわね。この面子がテロにでもあった日には、ネルフが潰れちゃうもの。」
「司令も、レイを連れて行くって言ったら、ちょっと機嫌が悪かったわ。」
「それは、また違うんでないの？」
葛城さんが皮肉っぽく言う。
「ミサト。」
先輩が声を低める。
「へいへい。口を慎みますです。」
レイは、窓の外を見ていた。

「予定とか、マギに入ってるわけ？」
しばらくして、葛城さんが言う。
「ええ。細かい予定は、マギでチェックして。」
先輩が答える。
「了解。
  帰ってくるのは？」
「本部には、明後日行くわ。」
「了解。じゃ、いい旅行を。」
車が、新箱根湯元駅のロータリーに入った。

先輩がドアを開け、車を降り、シートを倒す。
「マヤ。」
先輩が私を見る。
「はい。」
葛城さんも、シートを倒して、レイに声をかける。
「お疲れ、レイ。」
「いいえ。」
レイが、シートに手をついて、外に踏み出した。

先輩が、トランクから荷物を取り出している。
「レイ？はい。」
「ありがとう。」
レイが、荷物を受け取る。
「マヤ？」
「あ、はい。」
先輩が微笑む。
先輩に微笑んだ。

先輩がトランクを閉める。
「ミサト、ありがと。」
先輩が言う。
「どういたしまして。お土産、期待してるわ。」
葛城さんが、微笑みながら言う。
「あら、それは、帰り、迎えにきてくれるということかしら？」
先輩が、悪戯っぽく微笑む。
「う”。そう来たか。けど、実際、どうするつもりだったわけ？」
やや真顔になって、葛城さんが聞く。
「諜報部の送り迎えよ。」
少し不機嫌そうに、先輩が答えた。
「了解。ま、できるだけ、都合付けてくるようにするわ。」
「悪いわね。」
「いいってことよ。それじゃ、私、行くから。」
葛城さんが車に乗り込みながら言う。
「ありがとう、ミサト。」
葛城さんが、運転席で微笑みながら手を振る。
先輩が手を振っている。
私も手を振った。
葛城さんの車がロータリーを回り、出ていった。
レイが、葛城さんの車の方を見ていた。

「じゃ、行きましょうか。」
先輩が言う。
「「はい。」」
レイと私が答えた。
駅構内へと歩き始める。
先輩の横に並んだ。
「政府特別列車って．．．」
先輩に話し掛ける。
「警備の都合があるから．．．仕方ないのよ。」
先輩が前を見たまま答える。
「そうですか。」
私も前を見た。
「第二東京も通るし。」
「．．．」
「けど、たまには我が侭言わないとね。」
先輩を見た。
先輩が、悪戯っぽい笑みを浮かべて、私を見ていた。
「そうですよね。」
私も、思わず、微笑んでいた。

改札の前に来た。思わず立ち止まる。
先輩が、前に歩いて行く。
「先輩？」
先輩に話しかける。
「何？」
先輩が、立ち止まり、振り向く。
「あの、切符．．．」
「ああ。」
先輩が、微笑む。
「ＩＤカード使って。」
「え？」
「政府特別列車だから。」
「あ！」
「他のものじゃ乗れないのよ。」
「なるほど。」
先輩は、前に向き直り、ＩＤカードを通して、自動改札を通っていった。
バッグから、ＩＤカードを出して、自動改札を通った。
レイを探すと、すでに改札を通った後だった。

レイの横に並んだ。
「ＩＤカードで電車に乗ったことあるの？」
レイを見ながら、聞いた。
レイは、一瞬私を見て、視線を前に戻した。
「いいえ。」
「そう。」
沈黙が流れた。

ホームに出た。蝉の声が大きくなった。
肌に風があたる。生暖かいが、通路よりはましになった。
午後１時。一番暑い時間だった。
「ここでよさそうね。」
先輩が乗車位置表示を見ながら言う。
先輩が私を見る。
「座りましょう？」
「はい。」
近くのベンチに行き、腰を下ろした。

「暑いわね。」
先輩が呟く。
「ええ。」
思わず、そう答えていた。
「いつも、空調の効いた地下にいるから、たまに昼間外に出ると、暑さが堪えるわ。」
「そうなんですよね。」
「しかも、ここ、標高が低いし。」
「ええ。」
沈黙が流れた。

“まもなく、１番ホームに、長野行き、政府特別列車がまいります。白線の内側にお下がりください。”
場内アナウンスが流れた。
長野．．．
「先輩？」
先輩を見た。
「何？」
先輩が私を見る。
「１時間半位ですか？」
「長野まで？」
「はい。」
「確か、その位だったと思うわ。」
「そうですか。」
「ただ、その後も結構あるわよ。」
「そうなんですか。」
「この前の浅間山みたいにＶＴＯＬで行けると簡単なんだけど、さすがに、温泉街には降りられないから。」
「そうですね。」
思わず、苦笑していた。
先輩も、笑っていた。

列車がホームに滑り込んできて、止まった。ドアが開く。
「さ、乗りましょう？」
先輩が歩き出しながら言う。
「はい。」
そう言って歩き出した。
レイを見ると、バッグを肩に掛け、私たちを見ていた。
「乗りましょう？」
「はい。」
レイが歩き出す。レイの後から、列車に乗り込んだ。

「席、決まってるんですか？」
前を行く先輩に問い掛ける。
「一応ね。」
「．．．」
「ここよ。８のＡ、Ｂと９のＡ、Ｂ。」
ちらっと、私たちの方を見て、荷物を網棚に載せ始めた。
「席、向かい合わせにします？」
「どっちがいい、レイ？」
先輩が荷物を網棚に載せながら言う。
「どちらでも。」
レイが答える。
先輩がレイを見る。
レイが先輩を見る。
沈黙が流れた。

先輩が私を見る。
「このままでいいわ。」
先輩を見た。
「そうですか。」
レイを見た。
レイが後ろの座席に入り、荷物を網棚に載せ始めた。
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