旅行当日の朝。いつものように先輩と出勤する。
私は、いつものＴシャツにパンツ。
先輩は、水色のノースリーブにミニスカート。
二人とも、少し大き目のバッグを持っている。
地下鉄の中で、先輩を見ていた。
「先輩？」
「何？」
先輩が私を見る。
「あの．．．今日の服、かわいいですね。」
顔が赤くなるのが分かった。
先輩は、ちょっと驚いたような顔をして、そして微笑んだ。
「ありがとう。
  マヤもね。」
先輩が微笑む。
「あ．．．はい。」
思わず、俯いた。
「マヤ．．．」
先輩の手が私の顔を上向けた。

本部の通路を歩きながら、先輩に話しかける。
「先輩の部屋には、何時に行けばいいですか？」
「そうね．．．直前でいいわよ。１０５０とか。」
「分かりました。着替えて行けばいいですよね。」
「ええ。私は、白衣を脱ぐだけだから。」
「はい。それじゃ。」
発令所への通路と先輩の部屋への通路の分岐で先輩と別れた。

「それじゃ、あと、お願いします。」
青葉君に声をかけた。
「了解。行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
そう言いながら席を立った。

先輩の部屋が見えてきた。腕時計を見る。１０５０。
「よし。」
思わず、呟いた。
開いているドアから中を見ると、先輩は、紫煙をくゆらせながら端末に向かっていた。

コンコン。

ドアの脇の壁をたたく。
先輩が振り向いた。
「時間ね？」
そう言って、先輩が微笑む。
「はい！」
思わず、微笑んでいた。
先輩は、端末に向きなおり、電源を落とすと、電話を掛けはじめた。
沈黙が流れる。

「ミサト？」

「ええ。時間なんだけど。」

「分かってるわ。」

「うん。それじゃ。」

電話を切ると、立ち上がり、白衣を脱いで、ロッカーに入れた。
先輩が私を見る。
「荷物、ここに置いていく？」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
先輩が微笑む。
先輩のバッグの脇に、バッグを置いた。
「じゃ、いきましょうか。」
「はい。」

「レイにも、先輩の部屋に来てもらえばよかったですね。」
カフェテリアへの通路を歩きながら、先輩に言った。
「そうね。ちょっと、失敗かな。」

カフェテリアの入り口に葛城さんが立っていた。
「お待たせ。」
先輩が言う。
「お待ちしてました。」
葛城さんが微笑む。

カフェテリアに入り、辺りを見回した。
「テラスね。」
テラスにレイの姿があった。
水色のキャミソールに水色のフレアスカート。
レイは、空を見ていた。
「とりあえず、レイのいるテーブルに行きましょう。」
「はい。」
先輩が、テラスへのドアのカードリーダーにカードを通す。

プシュー。

ドアが開いて、暖かい空気が流れ込んでくる。
先輩がレイのいるテーブルに歩いていく。
先輩がレイに話し掛ける。
「おはよう、レイ。」
「おはようございます。」
私もレイに声をかける。
「おはよう。」
「おはようございます。」
葛城さんが言う。
「リツコとレイ、ペアルック？」
「なんだか、似てるわね。」
苦笑しながら、先輩が言う。
レイが、先輩を見ている。
「食事、まだでしょ？」
レイに聞いた。
「ええ。」
「じゃ、取りに行きましょう？」
「はい。」
「先輩？」
「ええ。行きましょうか。」

先輩は、松花堂弁当にコーヒー。
葛城さんは、カレーセットにビール。
私は、明太子スパゲティーセットに烏龍茶。
レイは、サンドイッチに紅茶を取った。
先輩が葛城さんの分も払っていた。

テーブルに、それぞれトレイを置く。
「それじゃ、いただきましょうか。」
「はい。」
皆、それぞれに食べ出した。
沈黙が流れる。
「結局、何で行くことにしたんですか？」
先輩を見た。
「電車よ。」
「そうですよね。やっぱり。」
「で、駅まで、私がお連れするという、手はずになっておりますの。」
葛城さんが、おどけて言う。
「そうなんですか。」
なるほど。それで、先輩がお昼をおごったんだ。
「なんなら、温泉まで送ってあげてもいいわよ。もちろん、宿付きで。」
「けど、使徒を追跡するわけでもないのに、ミサトと私が、ここを離れるのはねぇ。」
「そうなのよ。世界の平和を背負ってると辛いわ。」
「まったく。
  そう言えば、ミサトと旅行に行った事ないわね。」
「そうねぇ。なんでかしら。」
「分かった、加持くんとべったりだったからよ。」
「げー。嫌な事思い出させないでよ。」
「ふっふっふっ。自業自得ね。」
「相変わらず嫌な奴。」
「勝手に言ってるがいいわ。」
「くそー。」
思わず、皆で笑っていた。
ふと見ると、レイが、空を見ていた。

先輩がコーヒーを飲みおわった。
「そろそろ行く？」
葛城さんが先輩に問う。
「ええ。
  悪いけど、荷物を取りに部屋に戻るから。」
「じゃあ、レイと駐車場で待ってるわ。私のスペース知ってるわよね。」
「ええ。」
先輩が答える。
トレイを持って、立ち上がった。

「それじゃ。」
レイの荷物を持った葛城さんが言う。
「ええ。」
先輩が答えた。
カフェテリアの出口で、葛城さんとレイを見送った。
「急ぎましょう？」
「はい。」
先輩と歩き出した。

駐車場に入り、先輩の後をついて、葛城さんのスペースに歩いていく。
葛城さんのと思しき車が、エンジンを掛けていた。
トランクが開いて、葛城さんが降りてくる。
「荷物入れてね。」
「ミサト、ビール、大丈夫？」
「大丈夫、大丈夫。あんなの飲んだうちに入らないわよ。」
「事故らないでよ。」
「大丈夫だって。」
そう言いながら、先輩がバッグをトランクに入れる。
「マヤ？」
先輩が私を見る。
「あ、はい。」
先輩にバッグを渡した。
先輩がバッグをトランクに入れ、トランクを閉めた。

先輩が左のドアを開けて、椅子を倒す。
「乗って。」
「はい。」
後部座席に乗り込んだ。隣にレイ。
「よろしくね。」
「はい。」
レイが言う。
先輩が椅子を起こして、乗り込み、シートベルトを締める。
「じゃ、よろしくね。」
「了解。」
車が動きだした。
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