不意にレイが立ち上がり、鞄から本を取り出す。
そして、ベッドに戻り、読み出した。
思わずため息をついた。
私もパソコンを取り出して、電源を入れた。

しばらくすると、やかんが音をたてだし、やがて音が大きくなった。
レイが本を閉じ、立ち上がる。
レイがレンジの火を止め、棚からカップと茶漉しと紅茶の缶を取り出す。
茶漉しとカップを軽くお湯で洗い、茶漉しに葉を入れ、お湯を注いでいく。
レイがカップを持って、こちらにやってきた。
「はい。」
レイが私にカップを手渡す。
「ありがとう。」
レイに微笑んだ。
「いいえ。何か入れますか？」
レイが言う。
「．．．お砂糖、ある？」
一瞬考えてから答えた。
「ええ。」
レイが、流しに歩いていく。
棚からガラスの容器を取り出し、中を見る。
棚からスプーンを取り出した。
レイが歩いて来る。
「どうぞ。」
蓋をとり、スプーンを入れてガラス容器を差し出すレイ。
「ありがとう。」
そう言って、砂糖を、紅茶に入れた。
「レイは？」
「私は、いいです。」
レイが、ガラス容器に蓋をしながら答えた。
「そう。」
スプーンを紅茶に入れて砂糖を溶かした。
レイが、流しに歩いていき、棚にガラス容器を戻す。

レイがベッドに腰を下ろし、カップに口を付ける。
レイと月を見ながら、カップに口を付けた。

ふと思い出して、電話を取り出す。
「また、電話させてね。」
「はい。」
ボタンを押した。
『はい。』
「伊吹ですけど。」
『あら、珍しいわね。』
「あの、この前、浅間山に行った後、葛城さん達が行った宿、教えて欲しいんですけど。」
『あれ、マヤ、温泉行くの？』
「え、ええ。」
『ふーん、リツコと？』
「あ、あのぉ。」
『ふふふ。熱いわね。』
「葛城さんっ！」
『怒らない怒らない。クスクス。』
「もぉ、早く教えてくださいよぉ。」
『ところで、運転手は、いらない？』
「けど、葛城さんが来たら、シンジ君やアスカも、連れて行かないと．．．」
『う”．．．そうねぇ。』
「実は、先輩とレイと三人で行くんです。」
『レイと？！』
「ええ。」
『それは、また、何というか．．．』
「電車とバスで行こうと思ってたんですけど．．．」
『そうねぇ。その方がいいかもね。』
「それで、宿、教えて欲しいんですけど．．．」
『えーと、どこだったかな。忘れちゃったわ。』
「分かりました。じゃ、切りますね。」
『ごめんね、マヤ。』
ガチャ。
「はぁ．．．」
思わず、ため息をついた。
マギで調べた方が早かったかな．．．
ふと前を見ると、レイが私を見ていた。
「葛城さん、宿、忘れちゃったって。」
「．．．」
「どんな宿がいい？」
「．．．」
レイの視線が、少し遠くを見るようになった。
少しして、レイが私を見た。
「一人部屋。」
思わず、レイの顔を見た。
「え．．．何？」
「一人になれた方がいいです。」
思わず、言葉を失った。
「．．．そう。」
沈黙が流れた。

「それじゃ、紅茶、ありがとう。」
カップを持って立ち上がりながら言った。
「いいえ。」
レイがベッドに掛けたまま答える。
「じゃ、また明日。」
「はい。」
レイが、微笑んだような気がした。

流しでカップを軽く洗って置いた。
ドアを閉めた。
「一人の方がいいんだ．．．」
ドアに向かって呟いた。
 

家のドアを開ける。
背後でドアが閉まる。
電気を点けた。
部屋に入り、冷房をつけ、バッグを置いて、部屋着に着替える。
電話のボタンを押した。
『はい。』
「マヤです。」
『お疲れ様。』
「いいえ。」
『今は、家から？』
「ええ。」
『そう。こっちは、まだ、本部なのよ。』
「そうなんですか。すみません。」
『別に、マヤが謝ることはないわ。』
「あ．．．はい。それで、宿の事なんですけど。」
『ええ。』
「葛城さんに聞いたら忘れちゃったらしくて。」
『ミサトらしいわね。』
「それで、レイに聞いたら、一人部屋がいいって。」
『．．．そう。』
「どうしますか？」
『．．．』
「．．．」
『分かったわ。その件は、私がやっておくから。』
「あ．．．いいんですか？」
『ええ。母さんに聞けば、すぐ分かるし。』
「そうなんですけど。」
『あと、足は？』
「ええ。それもあるんです。」
『分かったわ。それも何とかしておくから。』
「すみません。」
『いいのよ。それじゃ、また明日。』
「あ．．．」
『何？』
「あ．．あの．．．」
『．．．』
「．．．」
『レイとは、今日は、どこに行ったの？』
「あの．．．新渋谷に行って、それで、公園通りを歩いて、１０９で服を買いました。」
『そう。』
「．．．先輩？」
『何？』
「忙しいんですよね。」
『クス。』
「あ．．．」
『一緒に買い物、行きたいわね。』
「．．．はい．．．」
『．．．』
「．．．今日も、先輩とだったらって．．．」
『．．．』
「．．．先輩？」
『今から、帰るけど、家に来る？』
「あ．．．」
『それとも、すぐ寝る？』
「いえ、行きます。」
『じゃ、家に着いたら電話するから。』
「はい。」
『ガチャ。ツー。ツー。ツー．．．』

しばらく話中音を聞いていた。
電話を切った。

軽くシャワーを浴びて、服を着替え、電話を待っていた。

ＲＲＲ．．．ＲＲＲ．．．

電話を取った。
「はい。」
『マヤ？』
「はい。」
『家に着いたから。』
「はい。」
『待ってるわ。』
「はい。」
『それじゃ。』
「はい。」
『ガチャ。ツー。ツー。ツー．．．』
電話を切った。

バッグを手に取り、電話を入れた。
電気を消して、ローファーに足を入れ、ドアを開けた。

プシュー。

後ろで、ドアの閉まる音がした。

歩き出しながら、思わず呟いた。
「先輩．．．」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
モニターのこちら側 Genesis 0:12 完

モニターのこちら側 Genesis 0:13へ 

Evaメニューに戻る