先輩の部屋を出た。 

プシュー。 

背後でドアがしまる。 
ドアの前の壁に寄りかかりながら、携帯のボタンを押す。 
呼び出し音を聞きながら、先輩の部屋のドアを見ていた。 

ＲＲＲＲ．．．ＲＲＲＲ．．． 

『はい。』 
「レイ？」 
『はい。』 
「伊吹ですけど、今どこ？」 
『カフェテリアのテラスにいます。』 
「そう．．．先輩に、あなたの服を買うように言われたんだけど、どうせなら、一緒に行こうと思って。」 
『．．．』 
「それで、この後空いてるかしら？」 
『特に予定はありません。』 
「そう。じゃ、そこに居てくれる？今から行くから。」 
『分かりました。』 

ピッ。 

携帯のボタンを押した。 

ＲＲＲＲ．．．ＲＲＲＲ．．． 

『はい。』 
「先輩？」 
『マヤ？』 
「はい。」 
『どうしたの？』 
「今から、レイと服を買いに行ってきます。」 
『そう。なら、直帰でもかまわないわ。』 
「分かりました。」 
『それじゃ、よろしくね。』 
「先輩？」 
『何？』 
「今、先輩の部屋の前なんです。」 
『なんだ。なら、ここから電話すれば良かったのに。』 
「．．．先輩？」 
『何？』 
「愛してます。」 
『．．．』 

プシュー。 

目の前のドアが開いた。 
先輩が私を見る。 
「愛してるわ。マヤ。」 
先輩が私を抱きしめる。 
「行ってきます。」 
先輩に言った。 
「行ってらっしゃい。」 
先輩が、私の耳元で、そう囁いて、私の耳を軽く噛む。 
「先輩．．．」 
先輩と唇を合わせた。 

唇を離した。 
「行ってきます。」 
先輩が離れた。 
「行ってらっしゃい。」 

ロッカールームへ歩き出した。 
 

閑散としたカフェテリアの中を歩いていく。 

ピッ。 

カードを通して、テラスへのドアを開けた。 
さっきのテーブルで、レイがジオフロントを見ている。 

「ごめんなさい、遅くなって。」 
レイが私を見る。 
「いいえ。」 
「じゃ、行きましょうか。」 
「はい。」 
レイが立ち上がる。 
カフェテリアへ歩き出した。 
 

新渋谷 １０９ 

「気に入った服、あった？」 
レイが私を見る。 
「．．．特には．．．」 
「そう．．．」 

公園通りをぶらぶらして、この中も一通りウィンドウショッピングした後だった。 

「先輩が言ってたんだけど、制服以外の服、持ってないって、本当？」 
「はい。」 
「そう．．．」 
改めて、レイを見た。 
薄い水色の髪に、赤い目に、白い肌。 
「そうね．．．」 
水色か．．． 

「どうかしら．．．」 
試着室の外から声をかける。 
カーテンが開いた。 
水色のキャミソールに、水色のフレアスカート、そして白く透ける薄い上着。 
「．．．問題ありません。」 
問題ありません．．．か。そうじゃないんだけど．．． 
けど、いいかな。赤い目が一番のポイントだし．．． 
「似合うわよ。レイ。」 
レイが私を見る。 
「．．．そう．．．ですか．．．」 
レイの頬が少し赤く染まったような気がした。 
 

１０９ キリコ・ディ・ナポリ 

レイと二人でパスタを食べていた。 
「肉と魚、駄目なの？」 
「ええ。」 
きのこのパスタを食べながら、レイが言う。 
明太子のパスタを食べながら、続けた。 
「じゃ、食べられるもの、かなり少ないね。」 
「ええ。」 
「そう．．．」 
「．．．」 
「温泉に行ったときの食事、少し、考えておかなくちゃ。」 
「．．．」 
「多分、魚とか、肉が多いから．．．」 
沈黙が流れた。 

デザートがきた。 
バニラアイス。 
スプーンに取って、口に入れる。 
少し苦みの残る、イタリア風。 
レイを見た。 
アイスを口に運んでいる。 
「アイスクリーム、好き？」 
「いえ、特に。」 
「そう．．．」 
「．．．」 
「いつも、夕飯とか、どうしてるの？」 
「カフェテリアとか．．．」 
「．．．」 
「家で、コンビニで買ったものを食べたり．．．」 
「．．．」 
レイを見ていた。 
私も似たようなものかな。家には、寝に帰るだけだし。 
「そう．．．」 
「．．．」 
「お互い、忙しいからね．．．」 
「．．．」 

紅茶を飲み終えた。 
「じゃ、行きましょうか？」 
「はい。」 
 

レイのマンションの近く。 
レイと並んで歩く。 
「この辺りに住んでるの？」 
「はい。」 
「そう．．．」 
第三新東京市建設のために呼び寄せた労働者達を収容するために作られた団地。 
その中を歩いていた。あちこちで取り壊しが進んでいる。 

レイが、いきなりドアのノブを回し、ドアを開ける。 
「どうぞ。」 
「あ．．．お邪魔します。」 
鍵、かけてないんだ。諜報部が監視してるから．．． 
レイが、明かりを点け、中に歩いていく。 
床に埃が積もっている。 
レイの後について歩いていく。 

むき出しのコンクリートの壁。 
フレームベッド。 
小さな箪笥。 
フレームチェア。 
冷蔵庫。 
冷蔵庫の上に水の入ったビーカー。 
「．．．」 
これ、あの部屋．．． 

「紅茶、飲みますか？」 
レイを見た。 
「え、ええ。」 
ベッドの脇に、１０９の手提げ袋を置くと、レイが、流しに歩いていった。 
レイが、やかんに水を入れ、レンジに置き、火を点ける。 
レイが戻ってくる。 
「椅子、どうぞ。」 
「ええ。」 
椅子に腰を下ろした。 
レイが、ベッドの脇で靴を脱ぎ、ベッドに上がって、カーテンを開けた。 
レイがベッドに腰掛け、スリッパを履く。 
レイの向こうに、月が見えた。 

沈黙が流れた。 

「ちょっと、電話かけていいかしら？」 
「ええ。」 

携帯を取り出し、ボタンを押す。 

ＲＲＲＲ．．．ＲＲＲＲ．．． 

『はい。』 
「伊吹です。」 
『ああ、マヤ。』 
「レイの服、買いました。」 
『お疲れ様。今は、どこ？』 
「レイの家からです。」 
『そう。』 
「少ししたら、帰ります。」 
『分かったわ。じゃ、また明日。』 
「はい。失礼します。」 

ピッ。 

レイを見た。 
「ありがとう。」 
レイが私を見ている。 
「いいえ。」 
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モニターのこちら側 Genesis 0:11 完 

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