先輩の部屋が見えてくる。腕時計を見た。３時１０分前。 
部屋に近づくとドアが閉まっているのが見えた。 
「ちょっと早かったかな。」 
けど、いいわよね．．． 
そう思いながら、インターホンのボタンを押した。 

「どなた？」 
インターホンから先輩の声。 
「マヤです。」 
「ああ、今開けるわ。」 

プシュー。 

ドアが開く。 
先輩が机に戻っていく。 
「少し待っててくれる？」 
「はい。」 
先輩の机の脇の椅子にレイが腰掛けていた。 
ドアの近くのソファに腰掛けて、先輩とレイを見ていた。 
「じゃあ、いつもの薬。一日三回、一回１カプセル、食事の後に飲むようにして。」 
「はい。」 
「何か変わったことがあったら、すぐに知らせること。」 
「はい。」 
「じゃ、今日はもういいわ。また来週来て。」 
「はい。」 
レイは立ち上がると、先輩に軽く頭を下げて、私の方に歩いてきた。 
私にも軽く頭を下げると、ドアを開け出ていった。 
「お待たせ。」 
先輩がキーボードをたたきながら言う。 
「あ、いえ、私が早く来てしまっただけですから。」 
キーボードの音が止まる。 
「じゃ、行きましょうか。」 
「はい。」 
先輩が椅子から立ち上がり、私の方に歩いてくる。 
先輩が私を見て、手を伸ばす。 
先輩の手を取って立ち上がり、そのまま先輩に体を預けた。 
「マヤ。」 
先輩の顔を見上げた。 
「先輩。」 
先輩と軽く唇を合わせた。 

通路を歩いていく。 
「先輩？」 
先輩が私を見る。 
「今度の木金、温泉に行きません？」 
先輩が前を見る。 
「そうね。」 
「特に何もない日ですけど．．．」 
「そう．．．」 
先輩が前を見ている。 
「先輩？」 
「そうね。お茶を飲みながら、考えましょうか。」 
「はい．．．」 

先輩がサーバーでコーヒーを入れる。私は、杏仁酥を３枚取って、ジャスミンティーを入れた。 
「テラスに行きましょう？」 
「はい。」 
先輩がテラスへのドアへと歩いていく。その後をついていく。 
ドアの脇のカードリーダーに先輩がＩＤカードを通す。 

プシュー。 

ドアが開くと、少し暖かい空気が入ってきた。 
外へ足を踏み出す。 
先輩が見ている方を見ると、レイが椅子にかけ、ジオフロントを見ていた。 
先輩がレイの方へ歩いていく。 

「ここ、いい？」 
先輩がレイに話し掛ける。 
レイが先輩を見る。 
「ええ。」 
レイが呟くように答えた。 
先輩が椅子を引く。 
レイを見る。 
「こんにちは。」 
レイに言った。 
「こんにちは。」 
レイが私を見て言う。 
椅子を引いて、腰を下ろした。 

「よく来るの？」 
先輩がレイに話しかける。 
「いえ．．．」 
「そう．．．」 
沈黙が流れた。 

「今度の木曜と、金曜って、特に予定ないわよね？」 
先輩が突然、レイに話し出す。 
木曜と、金曜って．．． 
「ええ。」 
「じゃあ、温泉に行かない？」 
「温泉．．．」 
「温泉は、知ってるわよね？」 
「ええ。」 
「この３人で行こうと思うんだけど。」 
「．．．命令ですか？」 
命令．．． 
「特に興味はない？」 
「．．．ええ。」 
「そう。じゃ、命令ということにするわ。社会勉強みたいなものだから。直接見ておくのも何かの役に立つかもしれないし。」 
「分かりました。」 
先輩とレイの顔を交互に見た。 

「あ、あの、これ、食べない？」 
レイに杏仁酥を差し出した。 
レイが杏仁酥を見ている。 
「．．．四分の一位なら．．．」 
袋の上から杏仁酥を４つに折り、袋を開けて、レイに差し出す。 
「はい、どうぞ。」 
レイが私を見る。 
「ありがとう。」 
そう言って、レイが、杏仁酥のかけらを取り、口に入れる。 
レイが口を動かしているのを見ていた。 
「甘さが口の中に残るんですね．．．」 
レイが言った。 
「あ．．．嫌い？」 
「いえ。」 
レイが微笑んだような気がした。 
レイに微笑んだ。 

「先輩も食べません？」 
「じゃ、私も四分の一貰おうかな。」 
先輩が、そう言って微笑む。 
先輩に微笑んだ。 
先輩に杏仁酥の袋を差し出す。 
「ありがとう。」 
先輩が、杏仁酥のかけらを取り、口に入れる。何度か噛んだあと、先輩がコーヒーに口を付ける。 
私も杏仁酥のかけらを口に入れ、そして、ジャスミンティーを飲んだ。 

「行き先は、どこにするつもり？」 
先輩が言う。 
「この前、葛城さん達が行った、草津とか。」 
「そうね。典型的な温泉街だし。いいかもしれないわ。 
  集合場所、どこがいいかしら。」 
「ここにしません？」 
「ここ？」 
「ええ。出発するのお昼の少し前ですよね？」 
「あぁ、なるほど。それでいい、レイ？」 
先輩がレイを見る。 
「はい。」 
「それじゃ、時間は、１１時にして、早めの昼食を取ってから行くことにしましょうか。二人とも、それでいい？」 
先輩が、私とレイを見る。 
「「はい。」」 
レイと私が同時に答えた。 

「それじゃ。」 
立ち上がりながら、先輩がレイに言う。 
「はい。」 
レイが先輩に答えた。 
「またね。」 
レイに言った。 
「はい。」 
レイが私を見ていた。 

先輩の部屋に歩いていく。 
「楽しみですね。」 
「．．．」 

先輩の部屋の前。 
「それじゃ、私．．．」 
発令所に戻ろうとした。 
「あ、マヤ、ちょっと。」 
先輩に呼び止められる。 
「はい。」 
部屋に入った。 

「悪いわね．．．」 
先輩が俯いたまま言う。 
「いえ．．．」 
「良かったら、時々話すようにしてもらえるかしら。」 
「はい．．．」 
「ありがとう。」 
先輩を見ていた。 
「先輩？」 
先輩が顔を上げる。 
「何？」 
先輩を見た。 
「．．．いえ．．．何も．．．」 
「．．．そう．．．」 
先輩を見つめた。 
先輩が私を見つめる。 
「失礼します。」 
先輩に背を向け、ドアに歩を進める。 
「マヤ。」 
その声に足を止めた。 
「マヤ．．．」 
先輩に後ろから抱きしめられた。 
「先輩？」 
「なんでもないわ．．．なんでも．．．」 
私を抱きしめる手が、少しきつくなった。 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
モニターのこちら側 Genesis 0:10 完 

モニターのこちら側 Genesis 0:11へ 

Evaメニューに戻る