その後、何を話したのか、パスタがどんな味だったか、憶えていない。 
「パスタ、おいしかったわ。それじゃ、また明日。」 
「はい。おやすみなさい。」 
赤羽駅で先輩と別れて、家に帰って、ドアを閉めて．．． 
泣いた。 

．．． 

ジリリリリ・・・・・ 
目覚しが鳴っている。 
気持ち悪い。 
ひどい気分。 

ノートをモジュラージャックに繋いでメールを送る。 
 

To: Ritsuko Akagi 
cc: Kohzoh Fuyutsuki, Gendoh Ikari 
Subject: Absent 

今日、酷く体調が悪いので、休みます。 

伊吹マヤ 
 

ベッドに潜り込んだ。 

．．． 

目を覚ますと、１６時を回っていた。 
疲れてたのかな。 
ノートを開いて、メールを見る。 
先輩からは来ていない。 
「そうよね．．．」 
ため息をついた。 
「そう．．．そうよね．．．」 
また、涙が出てきた。 
「シャワー．．．浴びようかな．．．｣ 
独り言の声がかすれた。 
「シャワー、浴びなきゃ。」 
泣かないでよ、マヤ。 
パジャマを脱いでシャワールームに入った。 
しばらく、頭から水を浴びていた。 
心が冷えて、涙が止まるまで。 

．．． 

お腹空いたな。夕飯どうしよう。 
ちょっと、料理する元気はでない。 
商店街のインド料理屋さんに行こうかな。 
辛いもの食べたら、少しは元気出るかも。 
出かけようかな。 

夕日で辺りが赤く染まっている。なにか久しぶりに見た気がした。 

インド料理屋さんでは、マトンカレーの辛いのを頼んだんだけど、辛くて涙がでそうになって、そしたら、また、思い出して、泣いちゃった。変に思われたわよね、きっと．．． 

帰りに、ブティックのショウウィンドウで黄色のワンピースを見て、衝動買い。 
なんとなく。元気が出そうだったから。 

マンションに戻ってきた。私の部屋の前に人がいる。 

私の部屋の前にいる人は、煙草を吸っていた。たくさん吸い殻が落ちている。 
随分、長く待っていたみたい。 
「先輩？」 
「おかえりなさい。マヤ。」 
「どうして？」 
「とりあえず、中にいれてくれる？」 
「え？ええ。」 

．．． 

「あの、散らかってますけど。ごめんなさい。」 
「そんなことないわよ。」 
「あの、ハーブティーしかないんですけど。いいですか？」 
「ええ。悪いわね。｣ 
「ごめんなさい。」 
私は、お手製のハーブのティーバッグを入れたカップにお湯を注いだ。 

「どうぞ。」 
先輩にカップを手渡す。 
「ありがとう。」 
先輩がカップに口を付ける。 
私は先輩を見る。 
先輩も私を見ている。 
「体調は、どう？」 
「え、ええ。まあ。」 
思わず、目線を落とした。 
「そう。」 
沈黙が流れた。 
目線を上げ、先輩を見ると、目線を落として、カップを見ていた。 
「マヤ？」 
「先輩？」 
同時に言葉を発していた。 
「マヤからどうぞ。」 
「いえ、先輩から。」 
互いに見つめ合っていた。 
先輩が話しはじめる。 
「マヤ、私のこと、好き？」 
え？ 
先輩を見ていた目を見開く。 
「．．．」 
先輩が、私をじっと見ている。 
「あの．．．はい。」 
私は、目線を落とした。 
「そう。」 
先輩、何を考えてるんだろう。 
「．．．」 
先輩が黙っている。 
私は、先輩を見た。 
先輩は、また、目線を落として、カップを見ていた。 
だめ．．．なんですよね。 
涙が出てきた。 
「だめ．．．なんですよね．．．先輩．．．」 
先輩が顔を上げる。 
「マヤ．．．」 
悲しそうな顔．．． 
思わず顔を背けた。そして、先輩の顔を睨みつける。 
「出てってください！」 
「マ．．．」 
「出てってください！それ以上言わないで！もう、ほっておいて！」 
「．．．」 
下を向いた。テーブルに涙が落ちていく。 
「出てって．．．よ．．．」 

ダンッ！ 

テーブルを叩いて、テーブルに突っ伏した。 
「う．．． 
ううぅぅぅ．．． 
うわぁ．．．ぁぁ．．．ぁ．．．」 
私、もう駄目なのかもしれない．．． 

しばらく泣いていた。 
突然、背中から抱きしめられた。 
先輩？ 
「．．．せん．．．ぱい？」 
「マヤ．．．」 
「．．．」 
「ごめんなさい．．．」 
「．．．」 
「決心してきたつもりだったんだけど．．．」 
「．．．」 
「いざとなると、ぐらついちゃって．．．」 
「先輩？」 
「私も好きよ、マヤ．．．」 
「先輩？！」 
先輩の方に向き直った。 
先輩が私を見てる。 
「マヤ．．．」 
先輩の目が私の目に近づいてきた。 
私、目を閉じる。 
唇に先輩の唇が触れた。 
ひとつになるような感じ。いい気分。 
先輩の背中に手をまわした。 

．．． 

目がさめた。 
頬と手に柔らかでなめらかな感触。 
「先輩と．．．」 
先輩は、静かに寝息をたてている。 
先輩を起こさないように、ゆっくりとベッドを脱け出した。 
下着を付け、パジャマを着る。 
トイレに行って、軽く顔を洗った。 
カップを洗い、ハーブのティーバッグを入れて、ポットからお湯を注ぐ。 
「先輩。」 
「ん．．．」 
先輩、眠そうな目で私を見る。 
「マヤ．．．」 
「はい。」 
ハーブティーを渡す。 
「ありがとう。」 
先輩、体を起こしてハーブティーを一口。 
「先輩、朝ごはん、何がいいですか？」 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
モニターのこちら側 Genesis 0:1 完 

モニターのこちら側 Genesis 0:2へ 

Evaメニューに戻る