「そうね。」
少ししてアスカが口を開いた。
沈黙が流れた。

「あのさ。」
シンジが口を開く。
「何？」
アスカが視線を落としたまま呟いた。
沈黙が流れた。

「三人で山岸さんの家に行こうって言ったじゃない？」
シンジが口を切る。
「ええ。」
アスカが言う。
「どうして、僕達は一人でも大丈夫だって、言わなかったの？」
シンジが視線を落としたまま言った。
「監視がついてるから？」
「うん。」
沈黙が流れた。

「私に帰ってほしかった？」
アスカが言う。
「そういうわけじゃないよ。」
シンジが呟いた。
「じゃ、どういうわけ？」
アスカがシンジを見て、少し強めの口調で言った。
「綾波？！」
シンジのその言葉にアスカが前を見ると、コンビニから出てきたレイが、アスカとシンジを見ていた。
「今、帰り？」
シンジが言う。
「ええ。」
近づいてきたレイが、そう言って、シンジと並んで歩き始めた。
沈黙が流れた。

「今日、アスカと山岸さんと服を買いに行ったんだ。」
シンジが口を開く。
「．．．」
「それで、帰りに家で、三人で夕飯を食べて．．．」
「．．．」
「山岸さんを送る途中で、花火をして、その帰りなんだ。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「今度、綾波も誘うね。」
少しの間のあと、レイが口を開く。
「ええ。」
沈黙が流れた。

「綾波は、服を買いにいったりしないの？」
シンジが口を開いた。
レイが口を開く。
「時々、下着を買うくらい。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「綾波って、花火したことある？」
シンジが口を開いた。
「ないわ。」
レイが答える。
「そう。」
「．．．」
「誘えばよかったね。」
「今日は、本部にいたから。」
「そっか。いつか誘うね。」
「ええ。」
沈黙が流れた。

「私、こっちだから。」
レイが、突然言う。
「ああ。それじゃ、また明日。」
シンジが言う。
「さよなら。」
アスカが言う。
「さよなら。」
そう言って、レイが夕闇の中に消えていった。

無言で、アスカとシンジが歩いていた。
突然、アスカが口を開く。
「よくあんなに話せるわね。」
「え？」
シンジがアスカを見た。
「ファーストとよ。」
「ああ。そうだね。」
「『ああ。そうだね。』じゃないわよ。私やマユミとより話しが弾んでるように見えるのは納得いかないわ。」
「だって、綾波は、僕が話さないと、何も言わないから．．．」
「あんた、マユミとあの女と、どっちが好きなわけ？」
「え？」
「ファーストとあんたが、楽しそうに話してるのを、マユミが見たら、マユミ、絶対誤解するわよ。」
「．．．そう。」
「『そう。』、じゃなくって．．．」
アスカが言うのを遮るようにシンジが言う。
「よく分からないんだ。」
アスカがシンジを見る。
シンジが立ち止まって俯いていた。
沈黙が流れた。

「山岸さんは好きだけど、綾波も違った意味で好きなんだ。そして、アスカも。」
アスカが呆然とした顔でシンジを見る。
「酷い言いぐさかもしれないけど、よく分からないんだ。」
シンジが呟く。
「さっき、『どうして、僕達は一人でも大丈夫だって、言わなかったの？』って聞いたのも、アスカがどう思ってるのか聞いてみたかっただけなんだ。」
「．．．」
「ごめん。」
沈黙が流れた。

アスカが、シンジの手を握る。
シンジがアスカを見た。
アスカが前を見ていた。
「アスカ？」
シンジが呟く。
「帰ろう。」
アスカが、そう呟いて歩き出す。
「うん。」
シンジが微かに呟いた。
 

葛城家玄関前

アスカが繋いでいた手を離した。
アスカがシンジを見る。
シンジが頷いた。
シンジが鍵を開ける。
ドアが、いつもの音を立てて開いた。
ミサトは、まだ帰ってきていないようだった。

靴を脱いで、廊下を歩き、ダイニングを通り、リビングを通り、それぞれの部屋へ。
「私、お風呂入るから。」
部屋のドアの前で、アスカが言う。
「うん。」
部屋の引き戸の前で、シンジが答える。
「ごめん。」
アスカが小さく言う。
「．．．ううん。」
シンジが答える。
アスカが、頭を回してシンジの顔を見ながら、ドアを閉めた。
シンジは、少しの間、アスカの部屋のドアを見ていた。
 

昼休み 図書館

マユミが席について、本を読んでいる。
アスカが近づいてきた。
「マユミ。」
アスカがマユミに囁く。
「アスカ。」
マユミがアスカを見る。
アスカが、隣りの椅子に腰を下ろした。
「マユミ？」
「何？」
アスカがマユミの耳に口を寄せる。
「マユミは、シンジのこと、好きよね？」
マユミがアスカを見る。
少し頬を赤らめながら。
マユミがアスカの耳に口を寄せる。
「そうだけど．．．
　いきなりどうしたの？」
アスカがマユミの耳に口を寄せる。
「私のことは？」
マユミがアスカを見る。
少しの間、アスカを見つめていたマユミが、アスカの耳に唇を寄せる。
「嫌いなわけないじゃない。」
マユミが囁いた。
アスカがマユミの耳に口を寄せる。
「私がシンジを好きなのも知ってるわよね？」
マユミがアスカの耳に口を寄せる。
「ええ。」
「それは、マユミは、いいわけ？」
少しの間、マユミが視線を逸らす。
マユミがアスカの耳に口を寄せる。
「取り合いになるのは嫌かな．．．
　私が振られちゃって、アスカと碇君が仲良くしてるのを見るのも嫌かも。」
「そうだよね．．．」
アスカが窓の外に視線を投げた。
沈黙が流れた。

「突然、どうしたの？」
マユミが耳元で囁く。
「昨日、あの後、帰る途中に、ファーストと会ったの。」
「．．．」
「シンジとあの女が、妙に仲良く見えたから、こんなところマユミに見られたら誤解されるわよ、って言ったの。」
「．．．」
「そしたら、マユミも、あの女も、そして私も、それぞれ好きなんだって言ったのよ。」
「．．．」
沈黙が流れた。

アスカとマユミが、それぞれ、窓の外を見ていた。
夏の日差しがまぶしかった。

アスカがマユミの耳に口を寄せる。
「三人。ううん。下手すると四人でいることに、マユミは我慢できる？」
マユミがアスカを見た。
アスカは、マユミを見て、そして視線を逸らし、窓の外を見た。
夏の日差しが、アスカの顔に、濃い陰影を作っていた。
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赤いリボンと緑のベスト Genesis 0:8 完 

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