「だからぁ、そうじゃないって。」
「アスカの言うことだからなぁ。」
「あ、マユミ、ひどいんだ。」
「えー、だって、このまえだって．．．」
アスカとマユミが、話しているのを、シンジが見ていた。

「山岸さんて、アスカと仲いいんだね。」
シンジがカップを下ろしながら言う。
二人が、急に静かになり、シンジを見た。
「え？ええ．．．」
マユミがシンジを見て言う。
「なんだか、不思議な感じがする。」
「そう．．．」
マユミが俯いた。
「あ、ごめん。そういうつもりじゃなくて．．．」
「．．．」
「ごめん。」
シンジが、二人から視線を逸らした。
「そろそろ出る？」
アスカが言う。
シンジがアスカを見て、そして目を逸らした。
「うん。そうだね。」
シンジがカプチーノを飲み干した。
 

アスカとマユミが、売り場を歩いていく。
「さっきの服、試着してみようか。」
アスカが言う。
「そうだね。」
マユミが答えた。

「シンジ！」
アスカが、試着室から出てきて、シンジを呼ぶ。
マユミも試着室から出てきた。
シンジが、歩いてきた。
「声が大きいよ、アスカ。」
シンジが、周囲を気にするようにして言う。
「だって、あんなに離れてたら、聞こえないでしょ？ イヤだったら、前にいればいいのよ。」
「それも恥ずかしいよ。」
アスカがシンジの耳に口を寄せる。
「マユミには、そうしてあげないと嫌われちゃうぞ。」
シンジがアスカを見る。
「そう．．．」
シンジが呟いた。

「それで、この服、どう？」
アスカが、赤いシャツと紺のスカートを見せるように、手を広げて、くるりと回って見せる。
「．．．似合ってるんじゃない？ ちょっと大人っぽいかな。」
シンジが、少し顔を赤くしながら言う。
「ふふ。ありがと。」
アスカが微笑みながら言う。
マユミが、その様子を、少し目を見開いて、見ていた。

「碇君。」
マユミが言う。
シンジがマユミを見た。
「．．．すごく似合ってるよ。山岸さん。」
シンジがマユミに微笑んだ。
マユミが顔を赤くして俯く。
「あ．．．ありがとう。碇君。」
アスカが、寂しそうな顔をして、シンジを見ていた。

アスカがマユミの耳に口を寄せる。
「ね、服、取り替えてみない？」
マユミがアスカを見る。
「ね。」
アスカがマユミに微笑む。
「けど．．．」
マユミが、当惑したような顔をする。
「ね、お願い。」
アスカが右手の手のひらを顔の前に立てて言う。
「うん。分かった。」
マユミが、答えた。
アスカがシンジを見る。
「じゃ、ちょっと待ってて。」
シンジが頷いた。

「ね、アスカ？」
マユミが、水色のワンピースの袖から手を抜きながら言う。
「何？」
アスカが紺のスカートを下ろしながら言う。
「碇君、いつも、あんな風に言ってくれるの？」
「ああ。言わない時に怒ったり、色々奢らせてたら、最近は、言うようになったのよ。」
「そう．．．」
「何で？」
「羨ましいなって、思って。」
「そう。」
「だって。」
「マユミには、そんなことしなくても言ってくれるわよ。」
「．．．」
沈黙が流れた。

試着室からアスカとマユミが出てくると、シンジが向こうを向いて立っていた。
「シンジ。」
アスカが言う。
シンジが振り向いた。
シンジが、二人を見る。
「へー。取り替えても、結構似合うね。」
「ふふふ。でしょ？」
アスカは、ヘッドセットを外して、水色のワンピースを着ていた。
「マユミは、こうすると、もっと似合うのよ。」
アスカがマユミの前に回り、マユミに呟く。
「マユミ、眼鏡外すね。」
「え。」
マユミが眼鏡に手を伸ばすより早く、アスカが、マユミの眼鏡を外した。
アスカがマユミの脇に戻る。
「ね？」
アスカがシンジを見た。
シンジが驚いたような表情でマユミを見ていた。
「．．．凄いね。」
シンジが呟く。
「恥ずかしい。」
マユミが、顔を赤らめて俯いた。
アスカは、醒めた微笑みを浮かべて二人を見ていた。

三人が新渋谷駅へと歩いている。
シンジが、二人の買った服の入った手提げ袋を持っていた。
シンジの携帯が着信音を発した。
手提げ袋を、片手にまとめて鞄から携帯を出し、オフフックボタンを押す。
「はい。」
『あ、シンジ君？』
「はい。」
『今、どこ？』
「アスカ達と新渋谷にいます。」
『あ、そう言えば、そんなこと言ってたわね。で、悪いんだけど、今日、遅くなるから、夕飯、適当に食べてくれる？』
「はい。分かりました。」
『ごめんね。じゃ、よろしく。』
「はい。」
『ガチャ。ツー、ツー、ツー。』
携帯を耳から離し、オンフック・ボタンを押して、鞄に入れた。

「ミサト？」
アスカが言う。
「うん。」
シンジが答えた。
「遅くなるって？」
「うん。」
「やっぱり。」
沈黙が流れた。

「ね、マユミと夕飯食べようか。」
アスカが言う。
「ああ、それいいかもしれないね。」
シンジが答える。
「まだ、時間早いから、家で食べるのでいい？」
「荷物もあるしね。」
「マユミの家に寄って、荷物置いて。」
「それでいい、山岸さん？」
シンジがマユミを見る。
「あ、じゃ、ちょっと電話してみます。」
そう言うと、マユミは、バッグから携帯を取り出して、短縮ダイアルを押し、耳にあてた。

「．．．」

「マユミです。」

「今日、帰り遅い？」

「あの、実は、友達に、夕飯に誘われてて。」

「あの、惣流さん。」

「はい。それじゃ。」

マユミが携帯を耳から離し、オンフック・ボタンを押した。
「いいみたい。」
マユミが、アスカとシンジの方を見て、微笑みながら言う。
「オッケー。じゃ、そうしましょ？」
アスカがウインクしながら言う。
「そうだね。」
シンジが微笑んだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
赤いリボンと緑のベスト Genesis 0:4 完 

赤いリボンと緑のベスト Genesis 0:5へ

Evaメニューに戻る