「シンジ？」
アスカが声をかける。
「何？」
シンジが手を動かしたまま答える。
「部屋．．．行ってていい？」
「いいよ。」
「ありがと。」
アスカがマユミを見る。
マユミが頷いた。

アスカが、ベッドにへたり込む。
その横に、マユミが腰を下ろした。
「ごめんね。」
マユミが呟く。
「ううん。いつかは、こうなってたから。」
アスカが呟く。
「そう．．．」
マユミが呟いた。
沈黙が流れた。

「膝枕、させてもらっていい？」
アスカが呟く。
「．．．」
マユミがアスカを見る。
アスカが俯いていた。
「いいよ。」
マユミが呟く。
アスカが、少し腰の位置をずらし、マユミの太ももに頭を置いた。
沈黙が流れた。

「気持ちいいね。」
アスカが呟く。
「そう。」
マユミが呟く。
「初めてさせてもらったの。」
「そう。」
「私のママ、私が小さいころに死んじゃったし、あんまり構ってくれなかったから。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「アスカのお母さん、どうして死んじゃったの。」
マユミが問う。
少しの間の後、アスカが口を開く。
「実験中の事故で、心の病気になって入院してたんだけど、自殺しちゃった。」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「マユミのママは？」
アスカが問う。
少しの間の後、マユミが口を開いた。
「私が小さいころに、私の目の前で、お父さんに殺されたの。」
アスカの体がピクリと震えた。
「ごめん。」
アスカが呟いた。
「いつか話そうと思ってたから。
  アスカの謝ることじゃないよ。」
マユミが、そう言って、アスカの髪を撫ぜる。
「．．．」
沈黙が流れた。

「膝枕、してもらったことある？」
アスカが口を開く。
「うん。昔ね。」
マユミが言う。
「そう．．．」
「．．．」
「してあげる。」
「そう。
  ありがとう。」
アスカが体を起こす。
マユミが体を倒し、アスカの太ももに頭を置いた。
アスカがマユミの髪を撫ぜる。
沈黙が流れた。

「私達、どうなるのかな？」
マユミが呟く。
「．．．分からない。」
アスカが呟く。
「碇君といられるといいね。」
「．．．うん。」
沈黙が流れた。
 

「アスカ？山岸さん？」
ドアの向こうからシンジの声がした。
「はい。」
アスカが答える。
「夕飯できたから。」
「うん。今行く。」
シンジの足音が離れていった。
「行こう。」
アスカがマユミに言う。
「うん。」
マユミが体を起こし、立ちあがった。

二人がダイニングに入ると、テーブルに、チンジャオロースと、春巻が置かれていた。
二人が、アコーディオンカーテンの側の椅子に、並んで腰を下ろす。
シンジが、スープを二人の前に置き、ご飯をよそう。
シンジが、椅子に腰を下ろした。
「食べよう？」
アスカが、シンジを見て、そして視線をテーブルに落とす。
「うん．．．」
アスカが、呟いた。
「いただきます。」
「「いただきます。」」
シンジが、スープを一口飲んだ。

皆、無言のまま、箸を進めていく。

チンジャオロースが、少し残っていた。
「アスカ、食べてくれる？」
シンジが、チンジャオロースからアスカに視線を移しながら言う。
「うん。」
アスカがチンジャオロースをスプーンで取って、取り皿に入れる。
アスカが肉を口に運んだ。

「ごちそうさまでした。」
「「ごちそうさまでした。」」
シンジが、立ちあがり、器をまとめていく。
アスカとマユミが、それを見ていた。
「アイスがあるから、食べててよ。」
シンジが昨日と同じように言う。
「うん。」
アスカが立ちあがり、冷蔵庫から、チョコのコーンアイスを取出す。
「マユミ。」
「うん。」
マユミがアイスを受け取った。

「シンジ。」
アイスを食べ終わった、アスカが言う。
「何？」
シンジが洗い物をしたまま答える。
「部屋にいるから。」
「了解。」
アスカとマユミが、立ちあがり、袋をゴミ箱に捨てて、ダイニングを出ていった。

アスカが、ベッドに腰を下ろす。
マユミが、隣りに腰を下ろした。
沈黙が流れた。

「手、繋いでいい？」
アスカが呟く。
「いいよ。」
マユミが呟く。
アスカがマユミの右手を、左手で握った。
沈黙が流れた。

「昨日、シンジが三人とも好きなんだ、って言った後、手を繋いで帰ってきたんだ。」
アスカが呟く。
「そう。」
マユミが呟いた。
「うん．．．」
沈黙が流れた。

「洗い物終わったから。」
ドアの向こうからシンジの声がした。
「うん。」
「山岸さん、帰る時に声かけてくれれば、送るから。」
マユミがアスカを見る。
アスカがマユミを見ていた。
アスカが、マユミの耳に口を寄せる。
「よかったね。」
アスカが、マユミの耳から口を離す。
マユミがアスカを見た。
アスカが俯いていた。
「マユミ、帰るって。」
アスカが言う。
「じゃ、ダイニングで待ってるから。」
シンジの足音が離れていった。
「アスカ？」
マユミが呟く。
「よかったら、一人にしてくれる？」
俯いたままアスカが呟く。
「．．．うん。」
マユミが立ちあがり、部屋を出ていった。

「そうだよね．．．分かってたのに．．．
  分かってた．．．の．．．う．．．うわあぁぁぁ。」
 

何も言葉を交わさないまま、シンジとマユミは、マユミの家についた。
「あの、今日はありがとう。」
マユミが、躊躇いがちに言う。
「ううん。それじゃ、また明日。」
シンジが、そう言って、歩き出そうとする。
「あの。」
マユミが、少し大きな声で言う。
「何？」
シンジが振り向いた。
「私達、三人じゃいられない？」
マユミがシンジを見つめる
「．．．」
シンジがマユミを見ていた。
シンジが、マユミから顔を逸らす。
「まだ、よく分からない．．．」
マユミがシンジを見る。
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「碇君？」
マユミが口を開く。
「何？」
シンジが、マユミをみる。
「ほんの少しだけ、抱きしめていい？」
マユミが、はにかみながら言う。
「え？．．．いいけど．．．」
シンジが、少し顔を赤くしながら言う。
「ありがとう。」
マユミが、シンジに近づいて、シンジを抱きしめる。
少しの間、そうして、そして、マユミが離れた。
「ありがとう。碇君。」
マユミが言う。
「うん。」
シンジが呟く。
「これで、もし、これで、碇君と会えなくなっても、大丈夫だと思う。」
マユミが、シンジを見つめる。
「．．．」
シンジが、マユミを見ていた。
「今日はありがとう。さよなら。」
マユミが、逃げるように、家の中に入った。
シンジは、少しの間、玄関のドアを見ていた。
 

ドアにもたれて、マユミが、天井を見上げていた。
「碇君．．．」
マユミが呟く。
マユミが俯いた。
「碇君．．．」
たたきに涙が落ちた。
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赤いリボンと緑のベスト Genesis 0:10 完 

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