長野駅から繁華街を歩いていく。
そこかしこに見えるバレンタイン・デーのディスプレイ。
くれるかな．．．
そもそも、知ってるんだろうか．．．
横を歩く綾波をちらちらと見ながら、そんなことを考えて、歩いていた。

喫茶店の前を通る。
「お茶する？」
綾波に言った。
「．．．いい。」
「そう。」
歩を緩めることもなく、歩いていた。

コンビニの前に来た。
「何か、買っていくよね。」
綾波に言った。
「ええ。」
コンビニに入った。

入り口近くに、綺麗に包装されたバレンタイン・デーのチョコが並べられている。
綾波がお菓子のコーナーに歩いていく。
僕は、雑誌のコーナーに行った。
雑誌の表紙を眺める。
週刊誌を取って、読みはじめた。

「碇君。」
横から綾波の声がした。
「うん。」
週刊誌を置いて、綾波の後を歩き出した。

善光寺が近づいて、道が狭くなり、人ごみがひどくなる。
横道に行こうとした。
「碇君。」
綾波が僕の手を取る。
「え？」
綾波を見た。
「．．．」
綾波が僕を見る。
綾波に頷いた。
手を繋いで仲見世を歩いた。

善光寺にお参りする。
少しの間、手を合わせた。
横を見る。
綾波が僕を見ていた。

右へ伸びる道を歩き、城山公園へ行く。
少し歩いて、ベンチに腰を下ろした。
「今日は、これにしてみたけど。」
綾波がコンビニの袋から、かりんとうの袋を出す。
「うん。ありがとう。」
「あと、これ。」
綾波が、バッグからウーロン茶の缶を出す。
「ありがとう。」
ウーロン茶の缶を受け取った。
綾波がかりんとうの袋を開けて、膝の上に置いた。
綾波が一つ取って、口に入れる。
僕も一つ取って、口に入れた。
緑の匂いのする風が流れた。

チョコだったらうれしかったかな．．．
ぼんやりと、そんなことを考えていた。
「ね．．．」
なんとなく口を開いた。
芝生を見ていた。
沈黙が流れた。

「何？」
綾波の声がした。
綾波を見る。
綾波が僕を見ていた。
「え？」
綾波に聞いた。
綾波が僕を見つめる。
「なんでもない。」
そう言って、綾波が前を向いた。
「僕、何か言った？」
綾波が僕を見る。
「ええ。」
「何て？」
「ね．．．って。」
「そう．．．
　ごめん。憶えてないや。」
沈黙が流れた。

芝生を見ていた。
「平和だね。」
なんとなく呟いた。
「そうね。」
綾波が言う。
「ずっと、このままだといいね。」
「そうね。」
「綾波は、ずっと、そのままでいられるんだよね。」
「．．．」
「僕は、いつか死ぬ。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「そうね。」
綾波が呟く。
綾波を見た。
「綾波は、僕がいなくなっても平気なの？」
「平気じゃないわ。」
綾波が言う。
「．．．」
沈黙が流れた。

「けど、また、会えるわ。
　碇君は、分からないかもしれないけど。」
綾波が空を見ながら言う。
綾波を見ていた。
「そう．．．それを繰り返してきた．．．」
「！」
「ずっと。」
「．．．」
頭の中に、ある情景が浮かんだ。
「第三新東京市に初めて行ったとき、道路に、綾波の幻を見たんだ．．．
　あの時は、綾波だって、分からなかったけど．．．」
少しの間の後、綾波が口を開く。
「そうね。」
沈黙が流れた。

空を見ていた。
「そろそろ行こうか。」
そう言って、綾波を見た。
「これ。」
綾波が、かりんとうの袋を差し出す。
二つ残っていた。
一つ取って口に入れた。
綾波が、最後の一つを取って、口に入れる。
綾波が、かりんとうの袋を折りたたんで、結んでいる。
ウーロン茶を飲み干して、立ちあがった。
綾波を見ていた。
綾波がバッグを開け、何か包みを取り出して、僕を見る。
綾波が微笑んだ。

「碇君。」

綾波が僕に、リボンのかけられた包みを差し出した。
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モニターのこちら側 Genesis 5:Ex.0 完 

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