玄関のチャイムが鳴った。
インターホンの受話器を取る。
「はい。」
「あたしよ。早く出てきなさいよ。」
「了解。」
苦笑しながら、インターホンの受話器を置く。
コートをはおり、財布と携帯を持って、玄関に歩き出した。

プシュー。

玄関のドアが開く。
赤い地に鶴の柄の振袖を着たアスカ。
「あ．．．」
思わず、アスカに見とれていた。
「シンジ？」
少し怒ったようにアスカが言う。
「あ、ごめん．．．」
「何、ボサッと突っ立ってんのよ。」
「あ．．．うん。ごめん。」
「まったくしょうがないわね。行くわよ。」
アスカが踵を返し、エレベーターの方へ歩いていく。
「ちょっ、ちょっと待ってよ、アスカ。」
慌てて、アスカの後を追う。

プシュー。

背後でドアが閉まった。
 

窓の外をライトが流れていく。
窓に映るアスカと僕。
「そんなに混んでないわね。」
アスカが言う。
「三日だし、朝早いしね。」
アスカに言った。
「そっ。まったく、何時に起きたか分かってる？６時よ、６時。昼ご飯どころか、もう夕飯も奢り決定ね。」
アスカがまくし立てる。
「えっ。そ、そんなー。」
思わず、横のアスカを見た。
「あんたね、このアスカ様と初詣に行けるなんて、世界一の果報者よ。そういう不遜なことを言う口は、こうしてやる！」
アスカが僕の口に指を突っ込んで、左右に広げる。
「わ、わひゃりわしは、あしゅはしゃは。」
痛さに泣きそうになりながら謝ると、
「分かればよろしい。」
アスカが何事もなかったように窓に向き直り、流し目で僕を見る。

「クスクス。」
「ククッ。」

周囲から笑いをこらえる声がした。
思わずため息をつく。

「次は善光寺下。」

地下鉄の騒音の中、アナウンスが流れた。
 

善光寺下から歩いていた。
「結構歩くわね。」
アスカが言う。
「うん。大丈夫？」
「歩きにくいのよね、これが。」
「早いかな、歩くの。」
「そうね、もうちょっと、キャッ！」
アスカがバランスを崩す。
思わず、振り向きざま、抱きとめた。
「大丈夫？！」
「大丈夫！」
アスカが腕を伸ばして、体を離す。
「もうちょっとゆっくり歩きなさいよ。」
「ごめん。」
「クス。」
アスカが微笑んで、僕のコートの袖を掴む。
「早く歩かないように、掴んでるわ。」
「了解。」
アスカに微笑んだ。

石畳の参道を歩いていく。
「結構混んでるわね。」
「けど、元旦なんか、テレビで見たら、この辺もずーっと並んでたよ。」
「そうね。」
仁王門をくぐった。

「お昼どうするの？」
仲見世通りのみやげ物店を眺めながら、アスカが言う。
「ここだと早いと思ったから、松代に戻ろうと思ってるけど。」
「そう。」
アスカがみやげ物店を眺めながら呟く。
「また、来る？」
アスカが僕を見た。
「そうね。」
アスカが微笑んだ。

大勧進を眺めながら歩いていく。
山門をくぐった。
そして本堂へ。
さすがに列ができていた。

お戒壇めぐりを終えて外に出た。
「さわれた？」
アスカが言う。
「うん。」
アスカに答えた。
「ま、そうよね。そのためのお戒壇めぐりだし。これで、極楽往生できるってわけね。」
「そうだね。」
「けど、変と言えば変よね。まるで．．．」
アスカが、僕の耳に口を寄せる。
「補完計画みたいな感じ。」
アスカを見た。
アスカが僕を見ていた。
「そうだね。」
そういうことなのかもしれない。

「シンジ。」
アスカの声。
アスカの方を見た。
「何？」
アスカが、ほんの少し悲しそうな顔をする。
「考え込んでた。」
「．．．ごめん。」
「もう帰るの？」
「うん。松代に、お昼、予約してあるんだ。」
「そうなんだ。」
「行こ。」
「うん。」

松代駅からタクシーに乗った。
「定鑑堂までお願いします。」
「はい。」
タクシーが動き出した。
「遠いの？」
アスカが言う。
「それほど遠くないけど、もう歩くの嫌じゃない？」
「嫌。」
アスカが微笑みながら言う。
アスカに微笑んだ。

旅館定鑑堂前。
「６３０円になります。」
「はい。」
「ありがとうございました。」
タクシーが走っていく。
「旅館？」
アスカが言う。
「うん。」
アスカを見た。
「部屋とか取ってないでしょうね。」
「取ってないよ。」
「当然ね。」
「はいはい。」
アスカを置いて、中に入った。

「予約した碇ですけど。」
「はい。二名様、うけたまわっております。どうぞ。」
仲居さんがスリッパに手を向ける。
「はい。」
靴を脱いで、スリッパに足を入れた。
アスカも、草履を脱いで、そうした。

個室に通された。
１２畳ほどの和室。
仲居さんがお茶を入れ、僕とアスカの前に置いた。
「少々お待ちください。」
仲居さんが出ていく。
「もしかして、凄く高くない？」
アスカが言う。
「うん。」
お茶を飲んだ。
「そう．．．」
アスカが呟いた。

仲居さんが入ってきた。
甘露煮、あえもの、てんぷら、そば、おやき．．．長芋料理が並べられていく。
小さな鍋に火がつけられた。
「それでは、ごゆっくり。」
仲居さんが出ていく。
「食べよ。」
アスカに言った。
「ええ。」
アスカが微笑んだ。

「お腹いっぱい。」
アスカが座椅子にもたれて言う。
「そうだね。」
お茶を飲みながら言った。
「着物のせいもあるのよね。
　少し休んでいかなくちゃ。」
アスカが僕を見る。
「そう．．．」
座椅子にもたれて、軽く目を閉じた。

「シンジ。」
目を開けた。
「そろそろ行こう？」
お膳の向こうのアスカが言う。
「了解。」
そう言って立ちあがった。

玄関で外を見ていた。
「お待たせ。」
アスカの声。
アスカを見た。
「乗って。」
タクシーに手を向けた。
「うん。」
アスカがタクシーに乗りこむ。
僕も乗りこんだ。

美容院の前でタクシーを降りた。
「じゃ、私、着替えて帰るから。」
アスカが僕を見る。
「うん。」
「じゃ、後でね。」
アスカが歩き出そうとする。
「アスカ。」
「何？」
アスカが僕を見る。
「綺麗だよ。」
アスカが変なものを見たように僕を見ていた。
「ばか。」
アスカが微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 3:Ex.2 完 

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