テレビには、善光寺参道の身動きの取れないような混雑の様子が映し出されていた。

「ちょっと遠くの神社、行こうか。」
テレビを見ていたミサトが、唐突に言う。
「どこです？」
ミサトの前でお茶を飲んでいたシンジがテレビを見ながら答える。
「戸隠奥社。」
「車で１時間位かかりますよ。」
「そうね。」
「その後、歩くし。」
「ええ。」
「回りに何もないし。」
「ええ。」
「．．．」
シンジがミサトを見る。
「いいでしょ？」
ミサトがシンジにウインクした。
「しょうがないなぁ。」
シンジが苦笑する。
ミサトが微笑んだ。

渋滞していた。
「混んでますね。」
シンジが言う。
「途中に善光寺があるから。」
ミサトが答える。
「そうですね。」
シンジが助手席で伸びをした。

善光寺を過ぎると、急に車の流れがよくなった。
「ね。」
ミサトが言う。
シンジが微笑んだ。

町並みが途切れ、山の中に入っていく。
ルノーが、次々とコーナーをクリアして、山道を上がっていく。
突然、左側に風景が広がる。
第二東京市の眺望。
「なんとなく似てますね。」
シンジが呟く。
ミサトが、一瞬、視線を走らせる。
「そうね。」
前を見ながら、ミサトが呟いた。

中社の脇の急坂を登り、見とおしのいい道に出た。
ミサトがアクセルを踏み込む。
加速するルノー。
シートに体を押しつけられながら、シンジが微笑む。
バックミラー越しに、ミサトが微笑んだ。

奥社入り口。
その看板の立っている道に入り、少し行ったところで車を止める。
何台か車が止まっていたが、人影は見えなかった。

シンジがドアを閉める。
ミサトがドアをロックした。
「いこっか。」
ミサトが微笑む。
「ええ。」
シンジが微笑んだ。

杉並木の参道。木々が鬱蒼と茂り、薄暗い道が続く。
「ちょっと寒いわね。」
ミサトが呟く。
「そうですね。」
シンジが言う。
「これがまた結構あるのよね。」
ミサトが言う。
「２キロ近くありますから。」
シンジが答えた。
「やんなってきちゃったな。」
ミサトが言う。
シンジがミサトを見た。
「ミサトさんが、来るって言ったんですよ？」
「そうだけどさぁ。」
「ブツブツ言ってないで、歩く、歩く。」
「シンちゃんの意地悪。」
ミサトが頬を膨らませる。
シンジが苦笑した。
二人が随神門をくぐった。

急な登りが続いた。
「はあ。シンちゃん、まだぁ？」
ミサトが立ち止まって言う。
「まだ、登りの半分くらいだと思いますけど。」
シンジも立ち止まる。
「これは、来ないわ、普通。」
「空いてるところに来たんでしょ？」
「そうだけどさ。」
ミサトが拗ねたように言う。
「あと１０分くらいですから。」
「はーい。」
そう暗い声で言うと、ミサトが歩き出した。

急な石段を登りきると、奥社の社が見えた。
「やっと着いたわ。」
ミサトがシンジに微笑む。
「そうですね。」
シンジが微笑んだ。

手水舎で手を洗い、口を漱ぐ。
ミサトとシンジが社の柵の前に立ち、賽銭箱に賽銭を入れた。
二礼二拍手一礼。
それぞれ思い思いに祈り、互いに目線を投げ、歩き出した。

神札授与所に巫女さんがいた。
「おみくじ、引いてく？」
ミサトが言う。
「そうですね。」
シンジが答えた。
「おみくじ、二人、お願いします。」
「２００円になります。」
「はい。」
ミサトが巫女さんに、２００円を渡した。
巻いたおみくじが箱の中に、たくさん入っている。
ミサトが一つ取り出した。
「シンちゃん？」
ミサトがシンジを見る。
「うん。」
シンジがおみくじの箱を見ている。
シンジが一つ取った。
「ごくろうさまでした。」
巫女さんが言った。
ミサトとシンジが軽く頭を下げ、歩き出した。

ミサトとシンジがおみくじを見ている。
ミサトがシンジのおみくじを覗き込んだ。
「あ、大吉。」
「あ。」
シンジがおみくじを隠す。
「ミサトさんは？」
「はい。」
ミサトがおみくじを見せる。
「なんだ。ミサトさんも大吉じゃないですか。」
「フフフ。そうね。」
「結んでいきます？」
「もっと良くしてくれるように？」
「ええ。」
「そうね。」
ミサトとシンジがおみくじを木に渡された紐に結んだ。

参道を降りていくミサトとシンジ。
「ね。何、お願いしたの？」
ミサトが言う。
「秘密です。」
シンジが答える。
「ケチ。」
「言ったら叶わなくなっちゃいますよ。」
「どうせ、もっと若くてかわいい恋人が欲しいとか、そういうことでしょ。」
ミサトが拗ねたように言う。
「ち、が、い、ま、す。」
シンジが、強調して言う。
「だったら教えてよ。」
ミサトが立ち止まる。
「どうして、そこで、だったら、になるかなぁ。」
シンジが歩いていく。
「．．．」
ミサトが歩いていくシンジを見ている。
「？」
シンジが脇を見て、そして振りかえる。
「ミサトさん？」
「．．．」
ミサトがシンジを見ている。
シンジがミサトに近づいた。

「ミサトさん？」
シンジが呟く。
「．．．」
ミサトがシンジを見ている。
シンジがため息をついた。
シンジがミサトを見る。
ミサトがシンジを見ていた。
シンジがミサトを抱きしめる。
「ずっと、そばにいてくれますよね。ミサトさん？」
シンジが呟く。
「シンジ君は．．．いてくれる？」
ミサトが呟く。
「ええ。」
シンジが呟いた。
「ありがとう。」
ミサトがシンジを抱きしめた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:Ex.1 完 

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