年越しそばを食べていた。
「もう今年も終わりね。」
ミサトが言う。
「そうね。」
そばを、せいろから取りながら答えた。

「初詣、どうするの？」
ミサトに聞いた。
「去年と同じにする？」
ミサトが、お味噌汁を少しすすって答える。
「いいかな。夜遅いより、朝早い方がいいよね。」
シンジを見た。
「そうだね。受験だし。」
「うん。」
そう言って、ミサトを見る。
「了解。何時ごろだっけ。６時とかだっけ？」
「そうだったかな？」
シンジを見た。
「そのくらいだったかな。」
シンジが答える。
「そうね。少し早めだったような気もする。
  じゃあ、そういう感じ？」
ミサトを見た。
「うん。じゃあ、そういうことで。」
そう言って、ミサトがお味噌汁のお椀に口をつけた。
 

２０１９年１月１日

目覚ましが鳴っている。
眠い．．．
目覚ましが鳴っている。
寒い．．．
目覚ましが．．．
そっか．．．
目を開けた。まだ暗い。
ため息をついた。
「起きなくちゃ。」
そう呟いて起き上がり、セーターを羽織った。

リビングに入ると、シンジがお餅を焼いていた。
「おはよう。」
シンジに言う。
「あけましておめでとうございます。」
シンジが、振り返って言う。
「あ．．．あけましておめでとうございます。」
思わず、少し頭を下げてしまった。
ちょっと顔が赤くなったかも。
「もういいかな．．．」
シンジが、コンロに向き直りながら言う。
シンジの横に立って、網の上のお餅を見た。
シンジが、お餅をひとつ取り、醤油をつけて海苔を巻く。
「はい。」
シンジが、お餅を差し出す。
「ありがと。」
お餅を小さく一口食べる。
「うん。おいし。」
「ん。ミサトさん、呼んでくれる？」
「了解。」
そう言って、もう一口お餅を食べた。
 

地下鉄内

「結構、混んでるね。」
毎日の通勤よりは、空いている車内を眺めて言った。
「そうだね。」
「並ぶかな。」
「まあ、去年くらいなんじゃないかな。」
「うん。」
窓ガラスに映るシンジに頷く。
地下鉄のたてる音が流れていた。
 

善光寺参道

「去年と同じくらいかな。」
それなりに人が流れていた。
「そうだね。」
「あ。」
店先のお饅頭が目に入る。
「買っていく？」
シンジが私に聞く。
「うん。」
「じゃあ、ゆっくり歩いてて。」
「了解。」
歩を少し緩めた。
「去年と同じね。」
ミサトが言う。
「そうね。去年は、シンジが知らないうちに買っておいてくれたけど。」
「毎年、年を取っていくけど、毎年、同じことするんだよね。」
「ま、そんなものなんじゃない？」
「うん．．．ま、そんなものかな．．．」
ミサトを見た。
ミサトが、少し目を細めて、少し切なげな表情で、前のほうを見ていた。
私は、山門のほうを見て、そして、足元の石畳に目を落とした。
 

本堂

お賽銭を投げて、手を合わせる。
人の動きに合わせて、脇に出る。
「お願いできた？」
シンジとミサトに言う。
「うん。」
シンジが答える。
「そう。」
手を伸ばして、シンジの手を握った。
シンジの手が、私の手を握り返した。

真っ暗な通路を手探りで進んで、お錠前に触る。
毎年触らないといけないのかな？
一回触ればいいのかな。
なんとなくそんなことを思った。

そして、おもてに出た。
光がまぶしかった。

「触れた？」
シンジとミサトに聞く。
「うん。」
シンジが答える。
ミサトが頷いて聞く。
「アスカは？」
「うん。触れたよ。」
「そう。よかったね。」
「うん。
  けど、毎年触ったほうがいいのかな？一回でいいのかな？どう思う？」
「ああ。そうだねー。どうなんだろう。一回でいいような気もするねー。」
「ま、いいか。あんまり考えても仕方なさそうだし。」
「ふふ。まあ、ね。」
ミサトが微笑む。
ミサトに微笑んだ。
 

善光寺 城山公園方面出口

「何か食べる？」
ミサトが言う。
「お好み焼き、買って帰る？」
ミサトに答えた。
「ああ。そうね。お饅頭もあるんだっけ？」
ミサトがシンジを見る。
「ええ。食べますか？」
「そうね。じゃあ、１つ。」
シンジが、袋からお饅頭を一つ取り出す。
「はい。」
「ありがと。」
ミサトが受け取って、一口食べる。
「うん。去年のとは違うけど、またおいしい。」
「ええ。」
「私も１つ。」
シンジに言った。
シンジが、また、袋から１つ取り出す。
「はい。」
「ありがと。」
受け取って、一口食べる。
あんの甘くてこくのある味が口の中に広がる。
「うん。おいしい。」
ミサトに微笑んだ。
「僕も食べよう。」
シンジが、一口食べる。
「うん。なかなか。」
シンジが、私を見る。
シンジに頷いて、微笑んだ。
 

メゾン松代

上着を部屋に置いて、ダイニングを通り、洗面所で、手を洗い、うがいをした。
ダイニングの椅子に腰をおろすと、ミサトが洗面所に歩いていった。
シンジが、キッチンに立っているのを見た。

お好み焼きの載ったお皿と箸が、私の前に置かれる。
「おまたせ。」
シンジが言う。
「ううん。ありがと。食べていい？」
「うん。」
シンジが、お皿を自分の前と、私の隣の椅子の前に置いて、キッチンに歩いていく。
シンジを見ていた。

シンジが、お茶を入れて、私の前に置く。
「ありがと。」
お皿の脇に湯のみを置いていく。
ミサトが、私の隣に腰を下ろす。
「食べようか。」
シンジが言う。
「うん。」
「「「いただきます。」」」
そう言って、お好み焼きを箸で切り、口に入れた。
「うん。去年の味っていう感じね。」
シンジに微笑む。
「そうだね。」
シンジが微笑んだ。
 

リビングに入ると、ミサトがソファにもたれていた。
ミサトの隣に腰を下ろす。
ミサトが、私を見る。
「今年もよろしく。」
ミサトに言う。
ミサトが私を見た。
「こちらこそ、よろしく。」
ミサトが微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 3:63 完 

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