「で、これからどうしようか。」
ミサトが腕時計を見る。
「４時過ぎ。そろそろ明るくなるわね。少し仕事して帰ろうか。」
ミサトが私たちを見て言う。
「詳細は後日、って。」
ミサトが微笑む。
「それがいいかも。」
ミサトに微笑んだ。
 

ミサトは、その日の午後には、後始末に呼び出されていた。
私とシンジも、翌日、取調べを受けたが、この前のような、ひどいことはなかった。
前回のように大規模な災害にならなかったせいかもしれないし、知りたい人がいなくなったせいかもしれない。
 

メゾン松代 自室

目を開けると、カーテンから、光が漏れていた。
『お昼くらいかな．．．』
箱根で少し寝不足になったので、土曜日なのもあって、目覚ましをかけなかった。
目覚ましを見ると１２時少し前だった。
『そろそろ起きないとね。』
ため息をついた。

洗面所で顔を洗って、部屋に戻る。
『シンジいるかな。』
シンジの部屋のドアをノックしてみた。
「はい。」
シンジの声がした。
「起きてるんだ。」
そう言うと、少ししてドアが開いた。
「おはよう。」
シンジが言う。
「おはよう。ご飯食べた？」
「昼はまだ。」
「食べたいな。」
「そうだね。ちょっと待ってて。」
「あ。うん。」
「じゃあ、少ししたらダイニングで。」
「了解。」
そう言って、部屋に戻った。

着替えて、ダイニングに行くと、シンジがキッチンに立っていた。
「何飲む？」
シンジが振り向いて言う。
「コーヒー薄めで。」
椅子に座りながら答えた。

「おまたせ。」
シンジが、私の前に、コーヒーの入ったカップを置く。
「ありがと。」
カップを手で包むようにした。
シンジが、テーブルの向こうにカップを置いて、そして椅子に座った。

トースターが音を立てて、トーストが飛び出す。
「何塗る？」
シンジに聞いた。
「バターかな。」
「了解。」
トーストを一枚取って、バターを取り、塗り始める。
「アスカは？」
「そのジャムかな。」
「了解。」
シンジが、もう一枚のトーストを取る。
「あと一枚食べる？」
「うん。」
シンジが、トースターにパンを入れた。
「はい。」
シンジに、トーストを差し出した。
「ありがと。ちょっと待ってて。」
「うん。」
シンジが、トーストに、イチゴジャムを塗る。
「はい。」
「ありがと。」

イチゴジャムの味が口に広がる。
「もう大丈夫なのかな。」
シンジが呟く。
トーストを飲み込んだ。
「そう。多分ね。」
「あの時、僕は、この前の補完と同じような夢を見て、あと、何か戦闘のような夢を見たような気がするんだ。」
シンジが私を見る。
「綾波になったような．．．そんな感じがした。」
「．．．」
トーストを口に運んだ。
「アスカも一緒だったような気がするよ。」
「．．．」
トーストを飲み込んで、そして、コーヒーを飲んだ。
「ま、いいのかな。」
シンジを見た。
「多分．．．ね。」
そう言って、また、トーストを口に運んだ。

「沖縄、どうしようか。」
シンジが、トーストにジャムを塗りながら言う。
「そうね。」
トーストにバターを塗りながら答えた。
「来週行こうか。」
「早い方がいいんだっけ。」
「多分ね。」
「じゃあ、それで。」
「ミサトさんも行くのかな。」
「そうね。聞いてみないと。」
「そうだね。」
「ところで、ミサト、今日は？」
「そう言えば．．．」
シンジが、トーストにジャムを塗り終えて、私に差し出し、そして、立ち上がった。

「ミサトさん？」
シンジが、ミサトの部屋のドアをノックしながら言う。
「．．．」
返事はなかった。
シンジが、ミサトのドアを開けて中を見て、そして、ドアを閉じた。
シンジが戻ってきて、椅子に座った。
「いない？」
「寝てた。」
「そっか。朝帰り？」
「多分ね。」
「じゃあ、夜にでも聞いてみればいいね。」
トーストを口にしながら、シンジに目で笑った。
「そうだね。」
シンジも笑った。
 

片づけを終えて、リビングのソファにもたれて、外を見ていた。
いつもの風景が、窓の外に広がっていた。
「よかった．．．」
なんとなく呟いていた。
「何が？」
隣にいるシンジが聞く。
「ん？うん。大したことなくて。」
「ああ。そうだね。」

「ね。」
聞いてみた。
「ん？」
シンジが答える。
「こんな感じでずっといられるのかな．．．」
「．．．」
「．．．」
「多分ね。」
シンジを見た。
「多分．．．」
「希望としては、そうしたいかな。けど、何が起きるか分からないし。」
シンジが私を見る。
「了解。とりあえず、それでもいいことにするわ。」
シンジから視線を外して、天井を見た。
シンジが、私の顔を覗き込む。
「愛してるよ。アスカ。」
シンジに微笑んだ。
 
 
 

数十年後

ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ツー。

心電図の音が途絶えた。
「シンジ？！」
その瞬間、シンジの顔が微笑んだような気がした。

主治医がやってきて、脈を取り、目蓋を開いて、ペンライトの光を当てる。
ペンライトを消し、ポケットに入れた。
「ご臨終です。」
「はい．．．」
「機械を取り外しますので、しばらく、外へ。」
「はい．．．」

『あの微笑．．．何が見えたの、シンジ？
  ．．．けど、多分．．．』
 
 

その数年後

「おばあちゃん！」
孫の声が聞こえた後、辺りが静かになった。

『死んだみたいね、私。』
いつか見た闇の中で呟いた。
そして、予想どおり、レイが現れた。
『来たわね。』
『ええ。』
レイが答える。
『シンジに何を見せたの？』
レイが私の前に歩いてきた。
『アスカにも見せてあげるわ。同じ物じゃないけど。』
レイが、いつかと同じように私の腕を掴む。
私の中に流れ込む大量のイメージ。
私がイブだったころからの記憶。
『あ．．．』
思わず呟いた。
『思い出した？』
レイが手を離した。
『またいつか、どこかで会えるわ。
  人類が滅亡の危機に瀕したときに。』
レイが微笑む。
『さよなら。』
レイが姿を消した。

『あいかわらず嫌な女。』
思わず微笑んでいた。
『私も行こうかな．．．』
夕闇の向こう、レイに視線を投げた。
『次のシンジに会いに。』
私も姿を消した。
 
 
 

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モニターのこちら側 Genesis 3:x 完

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