ふと違和感を感じた。
耳の鳴るような感じ。
アスカを起こさないように、ベッドから抜け出した。
「寒い．．．」
思わず呟いた。

人類補完計画が発動した世界。人々は一つになっていたが、徐々にＡＴフィールドが回復し、人々の心が無制限に混じることはなくなっていた。一人でいようと望めば、一人でいられる。他の人に会おうと望めば、他の人に会える。そういう世界に変化していた。そして、そこには、冬が訪れていた。

ハンガーに掛けてあったカーディガンをはおり、カーテンを開けた。
窓の外が白くなっていた。

「ん．．．」

アスカの声。
「どうしたの．．．レイ？」
アスカがベッドから起き上がる。
「あ．．．雪？！」
アスカがベッドから出て、私の脇に立つ。
アスカが窓ガラスに手を滑らせ、曇りを落とす。
「冷たぁ。」
アスカが言った。
「けど、雪．．．初めて見た．．．
　イブに降らせるなんて、なかなかやるじゃない、レイ。」
アスカが私に微笑む。
「私は、何もしてないわ。そう望んだ人が多かったのよ。多分。」
「そう．．．」
アスカが私を見て言う。
アスカが窓の外に視線を移した。
 

チン！

オーブントースターが音を立てる。
トーストを取り出して、バターを塗っていく。
私の前で、アスカがコーンポタージュを飲んでいる。
「寒いときは、まず、スープを飲まないとね。」
アスカが言う。
「そうね。
　はい。」
トーストを載せたお皿をアスカの前に置いた。
「ありがと。」
アスカがスープを置いて、トーストをかじり始める。
「もう一枚いる？」
「ううん。スープもあるし、いいわ。」
「了解。」
自分のトーストにバターを塗り始めた。

食器を洗っていた。
「ね。外、出てみない？」
アスカが言う。
「いいけど。」
食器を洗いながら言った。
「雪用の靴ってあったかしら？」
アスカが言う。
「ブーツじゃだめ？」
手を拭きながら言った。
「滑るわよ。」
アスカが言う。
「じゃあ、買いに行かなくちゃ。」
「そうね。けど、まだ時間が早いわ。」
「そうね。」
「その前に、ちょっと出てみない？ブーツで。」
アスカが微笑む。
「いいわよ。」
アスカに微笑んだ。
 

サクッ。サクッ。

歩を進める度に雪を踏みしめる音がする。
「不思議ね。」
アスカに呟いた。
「そうね。」

不意にアスカが屈みこむ。
アスカを見た。
「レイ！」
アスカが私を見て、そして、雪を投げた。
雪が私の顔に当たった。
「．．．」
アスカを見ていた。
「あ．．．ごめん．．．」
アスカが言う。
「ううん。大丈夫だから。」
アスカに答えた。
沈黙が流れた。

「アスカにも投げていい？」
アスカに聞いてみた。
「え？！．．．い、いいわよ。
　って、いうか、雪を投げ合って、キャーキャー言う遊びをしようと思ったのよ。」
バツが悪そうにアスカが答える。
「．．．雪合戦？」
記憶を手繰って、その名前を呟く。
「なんだ、知ってんじゃない。だったら、話し合わせてよ。
　あいかわらず、嫌な奴。」
アスカが、拗ねるようなそぶりをする。
「ごめん。アスカ。」
「ごめんじゃ、すまないわ！」
アスカが雪を私に投げた。
「キャッ！」
悲鳴を上げてみた。
アスカが微笑む。
「なんだか調子でてきたぞ！」
アスカが、しゃがんだまま、どんどん、雪を飛ばし始めた。
「や、止めてよ、アスカ！」
アスカから離れるように走り出した。
「待てーっ！」
アスカも走り出す。

走りながら、植木や木の枝に積もった雪を投げていく。
雪がアスカの顔にあたった。
「やるわね、ファースト！」
「そっちこそ。
　あっ！」
足を滑らせて、転んでしまった。
「．．．」
アスカが腰を下ろし、私の顔を覗き込んだ。
「捕まえた。」
アスカが微笑む。
「そうね。」
アスカに微笑んだ。
「レイ．．．」
アスカが顔を近づける。
「アスカ．．．」
アスカの唇が私の唇を塞いだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
モニターのこちら側 Genesis 2:Ex.0 完 

Evaメニューに戻る