「あの．．．先輩？」 
先輩が、私を見る。 
「なに？」 
「あの．．．」 
目線を落とした。 
「．．．」 
「明後日の夜、空いてますか？」 
先輩を見た。 
先輩が左上、空を見ている。 
「ごめんなさい。先約があるの。」 
あ．．． 
思わず俯いた。 
「．．．そうですか．．．」 
沈黙が流れた。 

「明日の夜じゃだめ？」 
先輩の声がした。 
先輩を見た。 
先輩が私を見る。 
先輩．．． 
「あの．．．」 
涙が出そうになる。思わず俯いた。 
「それで．．．いいです．．．」 
「悪いわね。それで、どこか行くの？」 
「．．．はい．．．あの、食事に．．．」 
「そう。場所とか、もう決まってるの？」 
「はい。」 
「．．．そう。楽しみにしてるわ。」 
「はい。」 
先輩を見た。 
先輩が微笑む。 
先輩に微笑んだ。 
 

７月１０日。１５２２。 
ジオフロントのテラス。 

私の前に、紅茶の入ったカップと、苺のショートケーキと、コーヒーの入ったカップと、そして先輩。 
先輩が紫煙を吐き出す。 
先輩を見ていた。 
「それ、おいしい？」 
先輩が苺のショートケーキを見ながら言う。 
「え？ええ。」 
「少し貰っていい？」 
先輩が私を見て言う。 
「ええ。どうぞ。」 
ショートケーキを一口大に切り、フォークで刺して、先輩の前に差し出した。 
「はい。」 
先輩が微笑む。 
「ありがとう。」 
先輩がショートケーキを口に含む。 
先輩がショートケーキを食べるのを見ていた。 
先輩がコーヒーに口を付ける。 

「今日、１９００で良いですか？」 
「ええ。」 
「じゃ、先輩の部屋に伺いますね。」 
「ええ。待ってるわ。」 
先輩が微笑む。 
先輩に微笑んだ。 
「行きましょうか。」 
先輩が言う。 
「はい。」 
そう言いながら立ち上がった。 
 

７月１０日。１９００。 
先輩の部屋のドアの前。 

コンコン。 
先輩が振り向く。 
「あ、マヤ。ちょっと待ってて。」 
「はい。」 
キーボードの音が響く。 
キーボードの音が止まった。 
「お待たせ。」 
先輩が立ち上がりながら言う。 
「いいえ。」 
先輩が白衣をハンガーにかけ、バッグを取り上げる。 
「行きましょうか。」 
「はい。」 
 

７月１０日。１９４６。 
新赤坂。タベルナ デル コッレオーニ。 

「それじゃ、二人の健康を祝して。」 
「「乾杯。」」 
先輩とグラスを合わせる。 
先輩が微笑んだ。 
先輩に微笑む。 
白ワインを飲み干した。 
前菜のマグロのスモークを口に運ぶ。 
「飲む？」 
先輩がワインのボトルに手を伸ばしている。 
「あ．．．」 
先輩．．．忘れてるのかな．．． 
「はい．．．」 
グラスを差し出した。 
グラスに注がれていくワイン。 
先輩がボトルを回しながら立てる。 
先輩を見た。 
先輩がボトルをクーラーに戻す。 
先輩を見ながら、白ワインを口の中に注いだ。 
 

７月１０日。２１４９。 
新赤坂駅。婦人トイレ。 

「大丈夫？」 
私の背中をさすりながら、先輩が言う。 
「．．．」 
「．．．」 
「ウッ．．．」 
便器の中に唾が落ちていく。 
「珍しいこともあるものね．．．」 
「．．．」 
先輩の手がウエストのあたりに置かれている。 
ふと暖かさを感じた。 
なんとなく気分がよくなった気がした。 
 

７月１０日。２２５４。 
先輩の家。 

先輩のベッドに横になっていた。 

コトッ。 

何か音がした。 
頭の下から背中に手が回され、抱きおこされた。 
「大丈夫？」 
目を開いた。 
まじかにある先輩の顔。 
「あ．．．はい。大分よくなりました。」 
「そう。胃腸薬持ってきたから。」 
先輩が私から離れる。 
先輩が錠剤と水の入ったコップを手に戻ってくる。 
「はい。」 
手を出して、錠剤を受け取り、口に入れる。 
コップを受け取り、錠剤を飲み込んだ。 
先輩を見た。 
先輩が心配そうに私を見る。 
「あの．．．ごめんなさい。」 
コップを渡した。 
「いいのよ。」 
先輩がコップを持って部屋の外に出ていく。 

「今日は、どうしたの？」 
戻ってきた先輩が、私を見て言う。 
．．．忘れてるんだ。 
目線を下げた。 
「．．．あの．．．」 
「．．．」 
「なんでもないんです．．．」 
「．．．」 
「．．．ごめんなさい。」 
「．．．そう。」 
沈黙が流れた。 
「私、お風呂に入るけど．．．」 
「あ、はい．．．どうぞ。」 
「今日は、泊まっていけばいいから。」 
「はい．．．」 
先輩が部屋を出ていった。 
涙が出た。 
 

戻ってきた先輩が、ベッドに腰掛け、私の髪に手を滑らせていた。 

ＰｉＰｉ．．．ＰｉＰｉ．．．ＰｉＰｉ．．． 

目覚しが鳴り出した。 
なんだろう．．．こんな夜中に．．． 
先輩が立ち上がって、目覚しを止める。 
先輩が再びベッドに腰掛け、私を見る。 
先輩を見た。 

「ハッピーバースディ。マヤ。」 

あ．．． 
「．．．憶えててくれたんですね．．．」 
「当たり前じゃない。」 
先輩が微笑む。 
先輩の顔が私の顔に近づく。 
「マヤ．．．」 
「．．．」 
「ごめんね．．．」 
「先輩。」 
涙が出た。 
先輩の唇が私の唇に触れた。 

先輩が唇を離す。 
先輩を見た。 
先輩が私に微笑む。 
先輩に微笑んだ。 
「先輩？」 
「なに？」 
「あの．．．」 
先輩から目を逸らした。 
「．．．」 
「明日の先約って．．．」 
「．．．」 
「．．．」 
「聞きたい？」 
先輩を見た。 
「．．．はい。」 
先輩が私から目を逸らす。 
「家で夕飯をごちそうするの．．．」 
「．．．」 
「伊吹 マヤっていう娘に。」 
先輩が私を見た。 
「先輩。」 
先輩が私を見つめる。 
先輩を見つめた。 
「大好き。」 
先輩を抱きしめた。 
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モニターのこちら側 Genesis 0:Ex.2 完 

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