．．．

アスカが、目を閉じていた。
シンジは、隣りに横になり、アスカと手を繋いでいた。

「シンジ？」
アスカが呟く。
「何？」
シンジが、天井を見たまま呟く。
「私達って、何なんだろう．．．」
「．．．恋人？」
「．．．マユミは？」
「恋人．．．かな．．．」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「ね．．．」
アスカが、シンジの方を向く。
「何？」
シンジが、アスカを見た。
「シンジ．．．」
アスカが、目を閉じ、唇を近づける。
「ん．．．」
アスカの唇が、シンジの唇に重なった。
アスカが唇を離す。
アスカが、目を開き、シンジを見つめた。
「私、愛人でもいいかな．．．」
アスカが、目を逸らす。
「アスカ．．．」
シンジが、アスカの手をつかみ、引き寄せる。
「シンジ．．．」
シンジの唇が、アスカの唇を塞いだ。

「私、シャワー浴びてくるね。」
アスカが、体を起こす。
「うん。」
シンジが微笑む。
アスカが微笑んだ。

アスカがベッドから降り、パンティーとタンクトップ、そしてジョギパンを身につける。
アスカが、シンジに微笑んで、そして、入り口に歩いていき、引き戸を開いた。

マユミが、包丁を持って、立っていた。

「マユ．．．ミ？」
アスカが、そう呟きながら、後退りする。
マユミが表情のない顔で、アスカを見る。
「私、こういうの．．．無理かもしれない。」
マユミが、包丁を持つ手を引き上げ、包丁をアスカに向ける。
「お父さんが、何故、お母さんを殺したのか．．．分かるような気がする。」
マユミが、目を細め、アスカを見る。
マユミが、アスカの方に歩き出した。
「や．．．止めて．．．ね．．．マユミ！」
マユミが、アスカを見たまま、唇だけで笑う。
「アスカ．．．」
マユミが、アスカの方に踏み込む。
「アスカ！！！！」
シンジが、アスカを突き飛ばす。

ザクッ！！

マユミに抱き付くようにして、シンジが、静かに崩れ落ちていく。

ドサッ。

シンジの体が、床に落ちた。

「あ．．．」

マユミが、シンジを見て、そして、包丁を見る。
包丁には、うっすらと血が滲んでいた。

「いやあああああああああああああああああ！！！！！！！！！！」
 
 

ネルフ本部内 中央病院 緊急処置室

シンジが、ベッドに眠っていた。
アスカが、ベッドの右脇に突っ伏して眠っている。

シンジが目を開ける。
「また．．．」
シンジが、顔をしかめる。
シンジが、天井を見ていた。

「ん．．．」
アスカが、体を起こす。
アスカが、シンジを見た。
シンジが微笑む。
アスカが、微笑んで、そして、泣き出した。
「ごめんね。シンジ。
  また、迷惑かけちゃった．．．」
シンジが、アスカの手を握る。
アスカが、シンジを見た。
「うん．．．」
アスカが、シンジの顔に顔を寄せ、唇を合わせる。
しばらくそうして、唇を離した。
アスカが、シンジを見ている。
「アスカ．．．」
シンジが、小さく呟く。
「何？」
アスカが答える。
「あまり声が出せないんだ。お腹が痛くて。」
「そっか。」
アスカがシンジの口元に耳を寄せる。
「山岸さん、逮捕されたりしないよね．．．」
シンジが呟く。
アスカが耳を離し、シンジを見て、頷いた。
 

マユミは、本人に深い反省が見られることと、シンジの希望もあって、起訴されることはなかった。
 
 

数日後 ネルフ本部内 中央病院 緊急処置室

ノックの音が響いた。
「はい。」
シンジが、少し小さな声で答えた。
ドアが開き、マユミが入ってきた。
マユミが、ベッドの脇に立ち、シンジを見る。
シンジが、マユミを見た。
「ごめんね。」
マユミが、口を開く。
「元はと言えば、僕がはっきりしなかったのが、いけなかったんだ。ごめん。」
シンジが、口を開く。
「私も、自分の気持ちが、よく分かってなかった気がする。」
「そう．．．」
「私．．．今でも、シンジのこと好きだから。」
「．．．うん。」
「今すぐは無理かもしれないけど、また．．．」
「．．．うん。」
「うん．．．それじゃ．．．」
「うん。またね。」
「うん。」
マユミが、踵を返し、部屋を出ていった。
 

数日後 新湯河原駅 ホーム

「行っちゃうの？」
列車の乗車口に立つマユミにアスカが言う。
マユミが、左下に視線を落とす。
「うん。お義父さん、転勤しちゃうから。」
アスカが視線を落とす。
「あのせいかな．．．」
「．．．多分．．．」
「ごめん．．．」
「ううん。私も悪かったの。そして碇君も。アスカだけが悪いわけじゃないわ。」
「そう．．．ごめん．．．」
沈黙が流れた。

ホームに発車のベルが響く。

マユミとアスカが視線を上げる。
「それじゃ．．．」
マユミが切り出す。
「うん。」
アスカが呟く。
マユミが、車内の方に体を向け、歩き出す。
「マユミ！」
アスカが大きな声を出す。
マユミが、足を止めた。
「私、マユミのこと好きだから。」
「．．．」
「ずっとずっと好きだから。」
「．．．」
「絶対、忘れないから。」
「．．．」
「電話するから。」
「．．．」
「だから、絶対．．．ずっと．．．友達で．．．いよう．．．」
涙声になりながら、ベルの響く中、アスカが言う。

列車のドアが閉まった。

俯いて立ち尽くすアスカの涙を、走りだす列車の起こす風が、拭っていった。
 

列車内

マユミが、席に着いた。
マユミの携帯が、着信音を発する。
携帯を取りだし、オフフックボタンを押した。
「はい。」
『碇ですけど。山岸さん？』
「あ、碇君？」
『うん。見送り、行けなくてごめん。外出の許可が出なくて。』
「ううん。ありがとう。」
『松代に行くんだっけ？』
「うん。けど、また、すぐにどこかに行くと思う。」
『そう。電話が通じなくなるときは、教えてくれるよね。』
「うん。ちゃんと、電話か手紙で知らせるから。」
『ありがとう。また、会えるよね。』
「うん。会えると思う。」
『また．．．』
「うん．．．」
沈黙が流れた。

「ね、シンジ？」
『何？』
「私のこと好き？」
『うん。好きだよ。マユミ。』
「もう一度言って。」
『好きだよ。マユミ。ずっと。』
「うん．．．」
『ずっと好きだから。またきっと会えるよ。』
「うん．．．」
『．．．』
沈黙が流れた。

「シンジ？」
『何？』
「電話ありがとう。」
『ううん。電話したかったから。』
「うん。また電話する。それじゃ。」
『うん。絶対だよ。』
「うん。それじゃ。」
『うん。』

マユミが、携帯のオンフックボタンを押し、携帯を見ていた。
マユミのスカートに涙が落ちる。
マユミが姿を消した。
 

新湯河原駅前ロータリー

ルノーにもたれて、ミサトが立っていた。
駅からアスカが出てくる。
ミサトが、アスカに気付いた。
「もういいの？」
ミサトが、アスカに声をかける。
「ええ。」
アスカが、ぎこちなく微笑む。
「ＯＫ。乗って。」
ミサトが、運転席の方に歩き出した。
ミサトが、キーを開ける。
アスカが、助手席に乗りこんだ。
ミサトが、運転席に乗りこみ、ドアを閉め、シートベルトを締めた。
「いい？」
「．．．」
ミサトが、助手席の方を見る。
 

レイが、腕時計を見るようにして、左手を持ち上げ、手首に残る傷跡を見ていた。
 

ミサトが目を逸らし、バックミラーに手を伸ばす。
 

「行きましょうか。」
 

ミサトが、バックミラーに伸ばしかけた手を止め、ハンドルに戻す。
 

「ええ。」
 
 

ルノーが、走り出した。
 
 
 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
モニターのこちら側 Genesis 4:x 完
（赤いリボンと緑のベスト Genesis 0:x より改題）

Evaメニューに戻る